イラン戦争で経済の下押しリスクがある中、今後の日本の経済政策をどう見ますか? 【 答える人 】クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト・会田卓司

イラン戦争は経済の下押し要因

 

 ─ 高市政権の政策、米国・イスラエルによるイラン攻撃が日本経済に与える影響をどう見通していますか。 

 会田 日本経済へのインパクトですが、高市政権の経済政策「サナエノミクス」は国内投資を拡大することが全てと言ってもいい政策です。国会の施政方針演説で高市首相は「日本経済の停滞の原因は投資の不足」と明確におっしゃいました。 

 一方、これまでの政権は日本経済の停滞の原因は人口動態の悪化だとして、社会保障を強くするために消費増税を行うなど、悲観的な見通しから逆算するような政策を行ってきたのです。 

 高市政権は国内投資を拡大するために、官民連携の成長投資、危機管理投資を進めようとしており、日本成長戦略会議でグランドデザインを描いていきます。 

 そして、イラン情勢の日本経済への影響を見ると、やはり投資を下押しさせるリスクが大きいということです。原油価格が上昇すると日本の交易条件が悪化し、所得が流出します。それが企業や国民の所得を下押せば内需が低迷し、国内で収益機会が得られず、国内投資が衰えてしまいます。 

 もう1つ、当然ながら成長率を下押しします。高市政権は景気が回復した後も景気刺激策を講じ続けることで雇用や設備投資を促す「高圧経済」という方針を採っていますから、できるだけ景気をよくしておきたいわけです。 

 例えば今回、原油価格が50%ほど上がると、交易条件の悪化で実質成長率が0.5~0.6%下がってしまいます。日本の潜在成長率が0.5~0.6しかありませんから、全く成長できない状況になってしまうリスクがあります。 

 ─ 高圧経済にならなくなってしまいますね。 

 会田 そうです。潜在成長率を上回る成長をしない限りは高圧経済にはなりません。高圧にならなければ企業収益の見通しが上がっていきませんから、特に内需セクターの投資が増えないわけです。 

 日本経済にとって相当なリスクですから、事態が起きてからすぐに予備費で対応しましたし、予算が成立した後、補正の話はまだ出てきませんが、経済対策を行って景気を支えると見られます。投資サイクルを堅調に保っていかない限りはサナエノミクスの動きが止まってしまいます。 

 ─ 海外経済の影響をどう見ていますか。 

 会田 海外も、経済が下押しされるリスクが大きいです。日本は内需が弱いですから、まだ海外経済頼みです。米国経済、世界経済の堅調によって日本経済が支えられている部分がありますから、それが下押しされると、輸出セクターの国内ベースも下押しされます。 

 投資には様々なネガティブなことが起きてしまいますから、そこは財政政策の力でしっかり支えることになると思います。

 

企業貯蓄率を「投資超過」に戻す

 

 ─ 会田さんは日本成長戦略会議のメンバーでもありますが、どういった政策の立て付けになっていますか。 

 会田 経済を再生する戦略を実現するために、各戦術としての政策論があるという立て付けをつくっています。 

 日本経済を再生していく時に、高市政権で最も重要だと考えられる指標が「企業貯蓄率」です。企業は金融機関などから資金調達をして、投資をし、事業を行うのが正常なあり方だと思います。正常な経済であれば企業貯蓄率はマイナス、投資超過が正常だということです。 

 これまでの日本では企業は国内支出を限界まで切り詰めて、借金返済に邁進するコストカット型になっていて、企業貯蓄率がプラスで貯蓄超過、投資不足という状態に陥っており、これが日本経済停滞の原因だというのが高市政権の総括です。 

 ですから企業貯蓄率をマイナス、投資超過に戻すことで、日本経済を投資成長型に再生していくという考え方です。そのために企業の投資の背中を押していく、それを日本成長戦略会議で議論して、官民連携で投資をしていこうとしています。 

 バブル崩壊以降、日本の設備投資はGDP(国内総生産)比で17%台になると落ちるということを、1回の例外もなく繰り返しています。 

 ─ バブル崩壊以降、設備投資は低迷し続けていると。 

 会田 そうです。企業は将来の成長や収益の期待があるから投資をするわけですが、投資のサイクルが弱いということは、企業の成長期待、収益期待が弱いことと同義です。ですから、日本の株式市場は構造的に停滞してきたのです。 

 しかし、コロナ後の財政拡大で経済規模が拡大を始めたので、企業の投資サイクルには前向きな動きが出てきています。こうした状況では成長を取りに行くために企業は投資をしなければなりません。 

 さらに円安の水準と経済安全保障の考え方で、国内でモノがつくれるようになってきており、設備投資サイクルが18%を上回り、初めて天井を抜けつつあります。これは企業の期待成長率、収益率が上振れたと同じですから、株式市場が評価をしないわけにはいきませんから、日経平均は5万円を突破してきたわけです。 

 設備投資サイクルが上に突き抜けていくと、実質賃金などが遅れて増えていきますから、先程の企業貯蓄率はマイナスという正常な状態になります。これが、高市政権が目指す日本経済再生のポイントです。 

 ─ 日本は個人消費に課題がありますが。 

 会田 これは問題です。投資が増えて実質賃金が上昇して家計に所得が回るまでには2、3年かかります。この間、家計、消費が弱く、内需が腰折れしてしまうといけないので、物価高対応として家計支援を行うことになります。 

 それが今回のガゾリン税の暫定税率の廃止や所得税の基礎控除引き上げ、高校授業料の無償化であり、2年間の食料品消費税の減税になります。家計に果実が回るまでに物価高対策で支えるのが高市型積極財政です。一方、野党側には投資の考え方がなく、家計に所得を回せという形での積極財政です。

 

高市政権の産業政策に「勝ち筋」という視点

 

 ─ 国内投資がなかったことが日本の低迷を招いたということですが、企業は日本市場が低迷しているので海外に投資し、それを国内に還流しなかったという問題があります。 

 会田 企業が国内に還流してこなかったのは投資機会がなかったからで、還流しないから内需が弱いわけではありません。為替は円安になっているわけですから、内需が弱く、国内に投資機会がないから資本は海外に向かい、円高にならないのです。 

 内需が拡大し、設備投資サイクルが上に突き抜けていけば、国内に収益機会があるわけですから資本が戻ってきて、円安が円高になります。 

 供給能力が拡大するか縮小するかで為替は動きます。設備投資サイクルが上に向かっている間は日本の供給能力が将来増えるということですから、円安がここから大幅に進むことは考えにくいです。逆に円安が怖いといって日銀が利上げしまくると内需、投資サイクルを下押しし、日本経済にとってはマイナスです。 

 高市政権の政策と、従来の産業政策の大きな違いは「勝ち筋」という言葉が入っていることです。これまでは、政府が助けなければ立ち行かない弱い産業が対象で、民間で強いところには出て行きませんでした。しかし今は強い産業、勝ち筋に官民連携で成長投資をしていきます。 

 ─ 従来と大きな違いがあるということですね。 

 会田 他にも、日本の産業政策には防衛需要はありませんでした。ただ、これまで日本はできるだけ民間に任せて、官の関与を小さくする方向で来ました。それが世界の潮流で、米国を見習おうという話でしたが、米国は半分が防衛需要です。米国は防衛という巨大な官民連携の投資がある、半分新自由主義をやっているのです。 

 日本は防衛需要がない中で、丸腰で新自由主義をやっていて、中国は丸々官民連携で、どの国が一番衰退したかというと日本でした。ですから今、日本は防衛費を上げて、防衛に官民連携して投資しようとしています。 

 防衛で重要なのが製品の性能です。高いスペックが必要で、もう一歩の投資が求められますが、これが付加価値を生みます。 

 ─ 17の戦略投資分野の中で航空・宇宙にも投資をするとしていますね。 

 会田 こうした分野は新たなフロンティアとして、しっかり取り組んでいく必要があります。防衛需要とも関連します。こうした20年、30年先を見越した投資は民間だけに任せると不足してしまいますから、官民連携で取り組む必要があります。 

 ─ 日本はこれまで財政健全化に取り組んできましたが、これは今後どう考えますか。 

 会田 新自由主義で、政府の役割を小さくしようとすると、プライマリーバランス(PB)の黒字化は整合的です。ただ、今回の新しい産業政策では将来の成長に向けた投資も税収の範囲内でやりますから、それでは日本は世界で負けてしまいます。 

 米国やユーロ圏は官民連携の成長投資で政府が相当程度支出をしているので、財政赤字は減っていません。一方、日本は26年度の予算でPBが黒字化してしまいました。これをよかったと言ってはいけません。官民連携のグローバル大競争の時代に日本だけ投資が足りないんです。 

 新自由主義から、新しい官民連携の成長投資、危機管理投資という産業政策の転換で頭を切り替えると、見えてくる世界が全く違ってきます。 

 緊縮志向の呪縛を乗り越える時です。それを乗り越えたら、日本だけが成長投資が遅れているという危機感になります。そして将来の所得や成長投資であれば国債でやって当然です。 

 PB黒字化を目指して日本が投資競争から脱落した場合、将来に所得や成長を生まない経済や脆弱なインフラ、危機的な国家安全保障を残してしまいます。国債以上に、そちらの方が国民への付け回しができてしまいます。 

 

今の金利上昇は「悪い金利上昇」なのか?

 

 ─ 責任ある積極財政に対しては、悪い金利上昇を招くという声も根強いですが。 

 会田 金利は上がるという方向の意味合いだけでなく、水準にも意味があります。これまでの日本経済は成長せず、名目GDPは育たず、名目成長率がほぼゼロで来ました。 

 しかし、コロナ後の財政拡大で名目成長率がこの2、3年、3%程度になりました。そして、高市政権という積極財政の政権が出てきて、3%の名目成長率が持続的ではないかとマーケットは考え始めています。 

 こうなると、例えば30年の超長期の金利が1%台はおかしいということで3%台と、名目成長率と同じくらいの水準まで上がってきました。これは正常化であり、財政不安も起きていないということです。 

 ─ 経済状況の好転による金利上昇だと? 

 会田 そうです。経済見通しの好転による金利の上昇だったのだとマーケットが考え始めると、今度は超長期ではなく、10年物の金利が実質マイナスなのはおかしくないか?という話になってきています。 

 2%の物価目標なのに、10年物金利が1%台というのは居心地が悪く、2%台まで上がってきたというのが現状です。ですから決して悪い金利上昇ではなく、正常化の一環だということです。株式市場も大きく上昇しています。ただ、メディアは財政不安だと書き続けていますから、水準をきちんと見る必要があるということ、今の金利上昇は成長期待によるものだということをお伝えしています。 

 ─ 政府の会議にも参加されて、手応えは感じていますか。 

 会田 感じますね。株式市場はすごく見てくれていますし、「失われた30年」の間、間違えたのだから、違う方法でやって下さいというのが、先の選挙などでの国民の声だと思います。