まとめと考察

GeForce GTX TITAN Xの価格は、GTC 2015の基調講演の冒頭で発表された(Photo27)が、999米ドルという驚きのである。これは相当に戦略的な価格というか赤字にはならないにしても相当利幅は少なそうだ。

Photo27:GTCの基調講演はUSTREAMでライブ配信されており、その画面をキャプチャさせていただいた

そもそも600平方mmのダイともなると、Yieldを無視した純粋なダイ原価で70~90ドル(最近TSMCの28nmプロセスの価格はだいぶ下がってきた)程度と推測できるが、そのYieldが問題となる。なにせ冗長ブロックが一つもないから、1カ所でも欠陥があったら製品としてはアウトなわけで、これは相当Yieldが低くなることが予想される。

実際、今回NVIDIAはGTCに先だってGM200のダイチャームをPressに配っており、そんな風に配れるほど不良があったということになる。その分を計算に入れると、ダイの原価は100ドル台で収まるかどうか心配になる。と初出では書いたが、実際はGK210だったそうでお詫びして訂正したい。ということで、実際のYieldはまだ不明である。だからといって100%を期待するのはもちろん無茶な話である。

まっとうに計算したら、ダイ原価は恐らく200ドル台か、下手をすると300ドル近いかもしれない。これに高速な7GbpsのGDDR5チップを24個搭載し、さらに高価な多層基板との組み合わせになるから、部品原価だけで500ドル近くになると思われる。

これにアセンブルコストやらパッケージングやらを施して999ドルで販売して、一体利幅がどれだけOEMメーカーに残るのかを考えると、ちょっと怖いものがある。利幅を出すためには、これまで999ドルで販売してきた製品と同程度までダイの原価を下げる(実際にはGDDR5の値段がやや上回っているから、その分も加味しないといけない)必要がある。そう考えると、OEMメーカーはともかくNVIDIAはGM200の販売でどの程度の利益が得られるのか。

そこまでしてなぜ999ドルで販売するのかという理由は明白で、AMDのRADEONラインをなんとしてもたたきつぶしたいのだろう。価格もさることながら消費電力を考えると、RADEON R9 295X2はかなりのビハインドをGeForce GTX TITAN Xに対して負っている。性能はここまで見てきたとおり同等以上だから、どちらを選ぶかはある意味自明である。

もっともR9 295X2にしてもGeForce GTX TITAN Xにしても、その性能が生きてくるのは4K解像度であり、Full HD解像度レベルであればかなり無駄がある。だから、Full HDモニター1台しか無いユーザーにGeForce GTX TITAN Xをお勧めする気にはなれないのが正直なところだ。ただし筆者は別に4K解像度を否定するつもりはない。もっと正確に書けば「4K解像度性能」を否定するつもりが無い。

現状4Kディスプレイは急速に値段を下げてきているが、問題はそうした低価格ディスプレイは24~27inch程度の大きさで、これで4Kを表示しても、正直筆者だと(老眼がだいぶひどいことになってきたこともあり)あまりうれしさはない。

4Kをちゃんと楽しみたければ最低でも40型クラスが必要で、これを1~2mはなれたところから眺める形になる。その場合、いまのところ4K TVを組み合わせるのが一番楽だが、PC向けディスプレイと比べて、価格はずっと高くなる。ここまでしてゲームを楽しむというユーザーはそう多くはないだろう。

しかし、マルチディスプレイを考えれば話は別で、最近はマルチディスプレイに対応したゲームタイトルもずいぶんと増えてきたし、品質を問わなければFull HDディスプレイも1台当たり1万円そこそこで入手できてしまう。例えばFull HDディスプレイを横に3台並べてドライビングゲームとかFPSをプレイするのは、4K解像度のディスプレイ1枚よりもずっと楽しいし、安上がりで実現しやすい。

そして、マルチスクリーンのFull HDディスプレイをフル駆動するためには、4K解像度をフルに描画するのと同程度のグラフィック性能が必要になる。こうした用途に、GeForce GTX TITAN Xは性能やコスト、消費電力の全ての観点から考えてもお勧めできる製品だろう。