「バレエダスト」(2013年)

スマートフォンやPCが普及した現代でも、わたしたちの周りには、非常に多くの印刷物が存在する。そんな「平面」の世界から、対象を「立体」の世界に消しゴムで導く現代美術作家が入江早耶だ。仏様や七福神、そしてお酒のラベルに印字された猫など、彼女が消しゴムで一度は消し、その消しカスで非常に繊細な像として次元をまたいで「再生」する対象は非常に広い。

今回は、消しゴムを使った一連の「○○ダスト」シリーズを作りはじめたきっかけや、その制作方法、そして昨年行われた都内の個展での反応などについてお話を聞いた。

――まず最初に、これまでの経歴を教えてください。

広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科を卒業し、同大学院芸術学研究科にて博士前期課程を修了しました。昔から絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きで、高校からずっと美術系の学校で学んできました。

――大学時代の専攻は?

立体造形という、主にプロダクトデザインを学ぶ専攻でした。大学院からは、アートへの関心が強まったので、現代美術の制作を行う研究室に入りました。

――では大学では立体造形物の制作を主に行っていらしたのですか?

そうですね、商業製品のデザイン実習などを行うところだったのですが、私の在籍していた研究室は少し変わったところがあって、与えられたテーマやモチーフを使っていれば、どのような創作物でも面白ければ良いという感じでした。

入江早耶
1983年 岡山生まれ。広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科を卒業の後、同大学院芸術学研究科にて博士前期課程を修了。写真や絵画などに消しゴムをかけ、その"消しカス"で描かれた対象の像を制作する「○○ダスト」シリーズで注目を浴び、2013年には同シリーズを展示する個展「見出されたかたち」を開催した

――卒業後はどのような進路に?

作家として活動を続けていますが、今は大学の研究員もしています。そのかたわら、高校の美術の非常勤や、美術館などのアルバイトをしたこともあります。制作と発表が主な活動で、時々展覧会などで作品も売れたりするのですが、それだけで生計を立てられるほどではないですね。

――なるほど。話題は変わりますが、ここ1~2年、絵に消しゴムをかけた際にできる消しカスで、描かれていた物の像を造る作品群(「○○ダスト」シリーズ)に注目が集まっていますが、このシリーズを作り始めたきっかけとなった出来事などあれば教えてください。

「○○ダスト」シリーズは2006年ごろから作り始めたのですが、平面から立体へ、次元を移動できるような作品を考えていたのがきっかけ、と言えるでしょうか。紙をくしゃくしゃに丸めたりするなど、どういった表現方法が一番良いのか試していく中で、絵に消しゴムをかけると、もともとあった絵と同じ色の消しカスが出てきたというところから着想を得て、この一連のシリーズを制作しています。