ニホンイシガメやクサガメなどに寄生する淡水性のヒル「ヌマエラビル」がマイナス196℃の液体窒素で凍結しても死なず、マイナス90℃の環境下で32カ月間も生存し続けることを、東京海洋大学と農業生物資源研究所の研究チームが発見した。自然状態ではこのような低温環境にいないため、なぜ極端な耐凍性を持つようになったのか、遺伝子レベルからも研究を続けるという。

発見のきっかけは、研究チームの1人のメンバーが、マイナス80℃で約半年間、冷凍保存していたクサガメを解凍したところ、生前に寄生していたヌマエラビルが“生き返り”、体を動かしているのを見つけたことだ。そこで改めてヒルだけを凍結し解凍したところ、確かに生存が確認されたため、詳しく研究することにした。

研究ではヌマエラビルだけでなく、同じエラビル属の仲間でウミガメに寄生する「マルゴエラビル」や、カメ類には寄生しない淡水性のヒル5種類についても調べた。それらをマイナス90℃のディープフリーザーに保存し、24 時間後に解凍したところ、ヌマエラビルだけが生存し、他の種類のヒルは全て死んでしまった。

さらに、ヌマエラビルのふ化直後の幼体と、ふ化前の卵についても同様な実験を行ったところ、ふ化幼体も生存し、解凍した卵からも正常に幼体がふ化した。また、ヌマエラビルの成体を液体窒素(マイナス196℃)に24時間浸しても、全ての個体が生きていた。ヌマエラビルの耐凍性はふ化の前から、生まれつき備わった能力だと推測される。

また、マイナス90℃温度条件下における長期保存に対する耐性を調べた結果、ヌマエラビルは9カ月まで100%の生存率で、その後は保存期間が伸びるにつれて生存率は低下し、最大で32 カ月の保存に耐えた。凍結(マイナス100℃)と解凍の繰り返しも、最大12回までは耐えられることも確認できた。

極低温の環境に耐える生物としてはこれまで昆虫の「ネムリユスリカ」や緩歩動物の「クマムシ」などが知られ、自分の体を「クリプトビオシス」と呼ばれる無代謝状態にすることで耐性を示す。その環境対応のため、体の細胞内には糖類トレハロースなどの“凍結保護物質”を時間をかけて蓄積するが、ヌマエラビルではトレハロースの蓄積が確認されず、体内の水分は完全に凍結したと考えられるという。

研究論文“A Leech Capable of Surviving Exposure to Extremely Low Temperatures”(超低温に耐性を持つヒル)は、米国のオンライン科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」に掲載された。