BMWはドイツのバイエルン州(正確にはバイエルン自由州)のミュンヘンに本拠地を置く世界的な自動車メーカー。「駆け抜ける歓び」という秀逸なキャッチフレーズでおなじみですよね。さて、このBMWのロゴですが、BMWという文字の入った黒い円の中に、青と白を交互に色分けした円が描かれた、ちょっと不思議なデザインをしています。今回はこのロゴについて、広報さんに聞いてみました。

実は航空機用のエンジンメーカーとして出発

現在では自動車メーカーとして認知されているBMWですが、実は最初から自動車メーカーだったわけではないのです。

1916年、グスタフ・オットー氏により、航空機用エンジンの製造会社として「Bayerische Flugzeug Werken AG」(= BFW AG/バイエリッシェ・フルークツォイク・ヴェルケンと読みます)が設立されます。「Bayerische」は「バイエルンの」で、「Flugzeug Werken」は「航空機製造」、「AG」は「株式会社」の意味です。ですので、BFWを日本語に訳せば「バイエルン航空機製造株式会社」です。

BMWの始まりは、このBFW(※)が設立されたとき、とされています。1917年にはBFWがBMWと社名を変更し、同年10月には最初のロゴマークが商標登録されました。BMWのロゴマークはこのときから基本的には変化していません。

※「BFW」は、「Rapp Motorenwerke GmbH」という会社の後継となる形で設立された経緯があり、Rapp Motorenwerke GmbHはKarl Rapp(カール・ラップ)さんが1913年に作った会社です。「Motorenwerke」は「モーターワークス」、「GmbH」は「有限会社」のことです。あえて日本語に訳せば「ラップ・エンジン製造有限会社」ですね。この「ラップ・モーターワークス有限会社」のロゴマークは、チェスの騎士(ナイト)の駒のような黒馬の図案の周囲を円で囲み、その円内に「RAPP MOTOR」という文字を入れたものでした。

1917年版のロゴマーク

会社の設立からロゴマーク登録までの経緯

1913年 Rapp Motorenwerke GmbH 設立

1916年 Bayerische Flugzeug Werken AG 設立

1917年 BMW AG 設立(同年10月5日 BMWのロゴマークが商標登録される)

ではBMWのロゴマークはどのような意図でこのデザインになっているのでしょうか。

BMWのロゴマークはプロペラから!?

BMWのロゴマークには、「同社が航空機エンジンを使っていたことから、回転するプロペラを意匠化したもの」という説があります。この話は、自動車に詳しい人ならよく知っていることのようですが、この「4つに青と白で区切られた円がプロペラに由来する」という説は正しくないのです。日本ではまだこの説を信じている人が多いようですが、海外では「間違っていること」と知られています。

例えば、2010年1月7日付けのニューヨークタイムズのStephen Williamsさんによる「BMWのロゴマークは飛行機に由来しない」という記事があります。この記事によると、Stephen WilliamsさんはミュンヘンのBMWミュージアムに足を運んだ際に、Anne Schmidt-Possiwalさんというツアーガイドから「ロゴマークは回転するプロペラではないのよ」と教えられたそうです。

そこでStephen Williamsさんはアメリカに戻り、北米BMWのスポークスマンであるDave Buchkoさんに確認をしました。Dave Buchkoさんは「青と白の分割された円は青空をバックに回転する飛行機のプロペラに由来する」と最初は言っていたのですが……。後になって「Anne Schmidt-Possiwalさんが正しかった」と前言を撤回したのです。

ではなぜBMWのスポークスマンもそう思い込むほど、この「プロペラ由来説」は信じられているのでしょうか。

それはBMWが1929年に実施した広告宣伝のせいだと考えられています。1929年にBMWは初めて飛行機のプロペラと自社のロゴを重ねて扱った宣伝を行っています。歴史家、そしてエンスージアスト(enthusiast:マニア、熱狂的な支持者という意味)によれば、これ以前に、BMWのロゴマークとプロペラ、また飛行機を関連付けた資料はないそうです。

BMWはとても地元に密着した企業

さて、ここからはロゴのカラーリングについて紹介していきます。この青と白の印象的な円はどこに由来するのでしょうか。

筆者がビー・エム・ダブリュー株式会社の広報室に問い合わせたところ、「バイエルン州の州旗の色(ブルーとホワイト)をベースにロゴが作成されました」とのことでした。

バイエルン州の旗は青と白に色分けされた目にも鮮やかなデザインです。BMWは「Bayerische Motoren Werke AG」(日本語にするならバイエルンエンジン製造株式会社)ですから、バイエルンの州の、青と白のチエッカー柄がロゴに反映されているのです。

バイエルン州の旗のビジュアル

BMWを創業したグスタフ・オットーさんは、とても地元に誇りを持った人だったのでしょうね。

ただ、調べてみると、商標登録には「国が使用しているシンボルを商業的に使用することはできない」という規定があるそうです。それをクリアするために、BMWの青と白の塗り分けが、バイエルン州旗と逆になっているのでは……といわれています。

BMWロゴマークの変遷は5回!

基本的に1917年から変化のないBMWのロゴですが、「BMWの文字のカラーや書体等、ディティールは過去5回(1926年、1932年、1955年、1962年、1981年)変更が加えられています」とのことです。ここでは、1932年版、1955年版、1981年版のビジュアルを紹介したいと思います。

1932年版(左)、1955年版(中央)、1981年版(右)のビジュアル

いかがだったでしょうか。BMWのロゴにはバイエルン自由州の会社だということに強い誇りを持った創業者の魂が表われているのです。

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(高橋モータース@dcp)