続いて登壇したのは、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏。青野氏は、『社長になった元技術者が情報発信について語るスレ』と題し、自身の経験や現在同社で実際に行っている情報発信を促す施策などを紹介した。

シャアザクの手が反対に……

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

青野氏のセッションは、自身の経歴を追うことから始まった。氏はまず、幼少のころを振り返り、「ガンプラを作ることが好きだった」と説明。ただし、非常に不器用だったそうで、「セメダインで組み立てるのが苦手だった。シャアザクを組み立てたときには、右手と左手を反対に取り付けてしまい、ひどく落ち込んだ」(青野氏)という。さらに、電子工作などにも興味を持ったが「不器用ゆえにハンダ付けに苦戦」(青野氏)するなど、一途になりきれなかったそうだ。

中学生になった青野氏はプログラミングに出会う。それまでの趣味とは異なり、「間違っても修正できる」という特性に感銘を受けた青野氏はその世界に没頭。高校生のときには、「専門誌に自作プログラムを応募するほどハマっていた」(青野氏)という。

しかし、大学時代に出会ったサイボウズ共同創業者の畑慎也氏のプログラムを見て、その美しさに驚嘆。「これには絶対に勝てない」(青野氏)と感じ、徐々にプログラミングから離れていった。

その後、松下電工の営業職を経てサイボウズを創設。5年前に代表取締役社長に就任した。就任直後は1年半で9社を買収するなど、M&A戦略で株価を上昇させたが、"ライブドア事件"を契機に株価が急落。そこで「得意なこと以外で勝負しようとしても失敗する」(青野氏)と悟り、「サービスではなく、ものづくりに力を入れる」(青野氏)と決断。「世界で一番ユーザー数の多いグループウェアメーカーを目指す」(青野氏)という目標を掲げるに至った。

社員に情報発信されるための一風変わった施策

上記のような目標を社員と共有し、戦略を浸透させるために、サイボウズではさまざまな工夫を行っているという。

例えば、「戦略説明会を"質問の場"と位置づけ、社員に質問を義務付けた」(青野氏)。こうすることで、参加者の目つきが変わり、何かあったときに「聞いてない」などと言う社員がいなくなったという。

社内向け戦略説明会では質問を必須とした

さらに、12:00~13:00のスケジュールを開放し、意見のある人が昼食をともにしながら社長と直接議論できる「ランチミーティング制度」を実施。社員との対話の時間を増やした。

「ときには、お客様を大切にしていないと女性社員5人に攻め立てられることもあった。そんなときには胃が"キュッ"となって昼食が進まなくなったりもした(笑)けれど、率直な意見を聴ける場が設けられたのは非常によかった」(青野氏)

12:00~13:00のスケジュールを開放し、自由にランチミーティングを申し込めるようにした

また、社員の要望等を受け付ける"目安箱"のような制度も取り入れた。これに関しては、会社に対して自発的に提案を行う場を設けたつもりだったが、「『クーラーが利きません』というように、事象だけを苦情のように送りつけてくる人もいて、当初のねらいどおりにいかなかった」(青野氏)。

そこで、同社製品の「デヂエ」を使ってフォーマットを作成。「提案内容」という欄を用意し、その中で「理想」、「現実」、「課題」の3項目を埋めるように義務づけたうえで、「提案への想い」という項目も設け、「実現してほしい」、「なんとなく思う」、「自分でやりたい」、「自分でやります」、「実行しました」のいずれかを選択させるようにした。「提案への想い」という項目を用意したことで、「自分でもやってもいいんだということに気づく社員が出てきた。他人任せにする傾向が薄れてきた」(青野氏)という。

要望を受け付けるWebページにも工夫を施した

こうした会社と社員の関係を強化する活動を進める一方で、青野氏は社員同士の結びつきを強める取り組みにも力を入れているという。具体的には、定期的に合宿形式の研修を開催し、成果物をデヂエ等で共有しているほか、部活動も推進しており、部署を跨って5人以上集め、3カ月に一度以上活動を行って活動結果を報告する団体に補助金を出している。この結果、野球やサッカーといった運動部だけでなく、「ニンテンドーDS部」や「掃除部」といった部活動も立ち上がったという。

「最初はこういった一般的でない部活動に会社のお金を出してよいものかと悩んだりもしたが、いずれも予想外の盛り上がりを見せており、今は認可してよかったと思っている。ニンテンドーDS部では、Googleにマリオカート対戦の挑戦状を叩きつけるという思わぬ行動をとり、私も熱を入れて応援した。毎日定時後に行っていた練習の成果もむなしく惨敗だったが、結束を高めるという点では大きな効果があった。また、掃除部ではきれい好きの女性が予想以上に集まった結果、きれい好きの女性が大好きという男性まで集まってきて、総勢50人近くの部に成長した。200人強の会社で24組の夫婦が誕生するという快挙に貢献している」(青野氏)

部活動の活動結果を報告するWebサイト

情報発信をさせるために情報発信を行え!

こうした各種の施策を実施するうえで青野氏が重視している項目の1つが、「リアルとバーチャルを連携」だ。現実世界の交流を深めるための道具としてグループウェアなどを使い、情報交換を密に行うことで、関係性を強化できるという。

そして、「情報交換を活発にするうえでは、情報を発信させることが何よりも大切」(青野氏)としたうえで、「リーダーに求められるのは、情報発信をさせるための情報発信を行うこと」(青野氏)と続け、リーダー陣の奮起を促した。