業務効率改善とコスト削減をいかにして実現すべきか――昨年来の不況により喫緊の課題となったこれらの経営テーマに頭を悩ませている企業トップは多いだろう。
本稿では、そんな経営者の皆様に力添えをすべく、オフィス環境の改善という切り口から上記2つの課題に挑戦したヘンケルジャパンのヘアコスメティックス事業「シュワルツコフ」の事例を紹介する。ちょっとした工夫を積み重ねて実施された同社の取り組みは、特に中堅・中小企業の経営者の方々にとって参考になるはずだ。
シュワルツコフについて
シュワルツコフ ヘンケル 代表取締役社長 兼 ヘンケルジャパン シュワルツコフプロフェッショナル事業本部 取締役事業本部長の足立光氏 |
まずは、ヘンケルジャパン、シュワルツコフという企業について説明していこう。
ヘンケルジャパンは、ドイツに本社を置く化学メーカー「Henkel」の日本法人。洗剤や工業用/一般用接着剤、シャンプー/染髪剤などを提供している。スティックのりの「Pritt」などはご存知の方も多いだろうが、そのほかにも、ビール瓶のラベルや自動車の車体をつなぐ接着剤、生理用品のギャザー、害虫駆除の薬剤など、身近な製品の中にヘンケルジャパンの技術が使われているものは多数存在するという。
シュワルツコフは、そうしたヘンケル・ジャパンの事業の1つに当たる。ヘアサロン向けと一般向けの2種類のヘアコスメティクス事業を展開しており、前者は「Schwarzkopf」、後者は「FRESH LIGHT」「パオン」などのブランドの下、多くの製品を提供している。
また、同社は、髪型変更後のイメージを3Dアニメーションで確認できるWebサイト「Virtual Preview」を運営し、それを活用したコンサルティングも行うなど、先進的な取り組みを積極的に行っていることでも有名。新商品、新ブランドも次々と立ち上げており、機敏な経営を展開している。
そのシュワルツコフがどのような課題を抱え、それに対してどのように取り組んでいったのか。以下、簡単に紹介していこう。
課題1 : 激しい部門最適化傾向
品川にあるシュワルツコフのメインオフィスには、約50人の社員が常駐し、ヘアサロン向けと一般向けの2つの事業を行っている。
以前のオフィスレイアウトでは、両部門が会議室を挟んで完全にしきられており、50人というそれほど多くない所帯であったにも関わらず、「部門間の交流は皆無に近かった」(シュワルツコフ ヘンケル 代表取締役社長 足立光氏)という。
それゆえ、ビジネスの進め方も部門最適の傾向が強く、全社レベルの観点で見ると、さまざまなシーンで無駄が多く発生していた。例えば、両部門ともヘアコスメティクスを扱っており、双方に共通する知識/技術は多数存在し、そのエキスパートも抱えているのに、部門が異なると、そのようなエキスパートがいることすら知らないという状況だった。
こうした部門間の"壁"をいかにして取り崩すか。この点が「最大の課題だった」(シュワルツコフ ヘンケル 代表取締役社長 足立光氏)という。
課題2 : 組織改変に伴うコストの削減
小所帯の良い所は、環境の変化に機敏に対応できる点だ。経営者から社員までの間の階層が少なく、他部署とのしがらみもそれほどない。そのため、上意下達がスムーズで、自由にプロジェクトチームを組むことができる。そんなイメージが強い。
シュワルツコフでもそんな組織作りを志向していた。状況に応じてダイナミックに組織を改変し、注力分野/注力時期には思い切って人を注ぎ込む。そうした柔軟に対応できる体制作りが理想だったという。
ただし、これは一般的なオフィスの形態だとなかなか難しい。というのも、組織改変には通常、オフィスのレイアウト変更が伴うためだ。机や荷物を移動させたり、電話番号を変更したりしなければならず、引越し業者への依頼や名刺の刷り直しなどに相応のコストが必要になる。
これではそう簡単に組織改変に着手することができない。こうした状況を変えることが第2の課題であった。