日本有数の観光地である長野県。同県は日本人だけでなく、日本を訪れる外国人にとっても人気のエリアのひとつです。県の調査では、この5年で長野県に宿泊する外国人観光客の数は3倍にも増加していることが示されています。この背景には、数々の自然や歴史文化、そして日本一長寿な県としてのブランドを、県下に77ある各市町村がWebサイトやSNSで積極的に発信していることがあります。全市町村が情報連携して「信州らしさ」を発信している成果だと言えるでしょう。

こうした各市町村の活動を「ICTの共同化」という切り口で支援しているのが、長野県市町村自治振興組合です。近年の自治体事務において最も緊急に対応しなければならないのは、住民情報をセキュアに取り扱うための環境構築です。そこへ向けて総務省は、2017年3月までにインターネットを利用する事務を制限し、機密性の高い事務とネットワークを切り分けるよう定めました。しかし、インターネットの事務利用があたりまえとなった今、事務ごとに利用端末を切り替えることは効率面からみてきわめて問題となります。

この対応に際して同組合では、Windows ServerやOffice 365といったマイクロソフト製品を全面採用した、ハイブリッドクラウドのVDI基盤を構築。全自治体が利用できる共同化したICTとしてこれを提供することで、長野県にある各市町村の「安定した自治体運営の継続」を大きく支援しています。

プロファイル

長野県市町村自治振興組合は、ICTの共同化や市町村職員の情報技術研修などを通じて、長野県下の市町村が行う事務の電子化と効率化を支援している団体です。電子申請サービスや基幹系業務システム、内部情報系業務システムの運営や、長野県自治体情報セキュリティクラウドの構築と運営に携わる同組合は、今後もICTの共同化を切り口に、市町村の自治体運営の継続性をサポートしていきます。

長野県市町村自治振興組合

導入の背景とねらい
「働き方改革」「BCP対策」といった先見のテーマも見据えたICTの共同化。Office 365を活用して、全市町村が利用可能な事務基盤を構築

1995年に設立された長野県市町村自治振興組合。設立当初、同組合は長野県自治会館の管理と運営を主事務としていましたが、2001年からは市町村と県、関係団体のVPN接続網「市町村行政情報ネットワーク」の運営といったICTの推進に着手します。2015年には県下にある市町村が行う基幹事務システムを共同化した自治体クラウドの提供を開始し、ICT による共同化、効率化事業を本格化。2007年に長野県が整備した「情報ブロードウェイながの(Information & communication Broadway Nagano: IBN)」からアクセスできるしくみにすることで、各自治体がセキュアに自治体クラウドへアクセスできる環境を整備しています。同組合がこうした「共同化」「効率化」の取り組みを本格化した背景には、人口減少に伴う歳入の減少があります。

かつての「平成の大合併」が示したとおり、近年、自治体には財政力の強化とサービス品質の向上が求められています。一方で、基幹系や情報系といったシステムの構築と運用にかかる電算経費は増加の一途をたどっています。ひとつの自治体でシステムを独自に導入する従来型モデルのままでは、安定した自治体運営に支障をきたすことが懸念されているのです。住民記録や税、福祉といった基幹系システムをクラウド化して共同化する自治体クラウドは、各自治体のコストや工数負荷を軽減するうえで有効な取り組みでした。

長野県市町村自治振興組合 事務局長 倉石 剛佳氏

共同化に主眼をおいて進められた同組合の取り組みは、コストや工数負荷の軽減に加えて、国が新たに定めるガイドラインへの迅速な対応という面でも有効に機能したといいます。この点について、長野県市町村自治振興組合 事務局長 倉石 剛佳氏は、総務省が2015年末に定めた「自治体情報システム強靭性向上モデル」への対応を例に説明します。

「『自治体情報システム強靭性向上モデル』では、個人番号(マイナンバー)を利用する事務と総合行政ネットワーク(LGWAN)を利用する事務、インターネットを利用する事務の各ネットワークを分離することが命じられました。2017年3月を期限とし、全自治体がこれに対応せねばならないという緊急の案件でしたが、一般的に各自治体が足並みを揃えて取り組みを進めることは容易ではありません。長野県では当組合が旗振り役として IBN の整備や自治体クラウドの導入を既に行っており、また全市町村のIT担当者が集まる定期会議も開催していました。こうした『共同化した基盤の存在』とそれによって培われた『情報共有の風土』という長野県の資産は、ネットワーク分離という全自治体の共通課題をスムーズに解消していくうえで、大きく機能したと考えています」(倉石氏)。

長野県下の全市町村は、2017年3月までに「自治体情報システム強靭性向上モデル」への対応を無事に完了しています。その過程では倉石 氏が語った基盤と風土、そして長野県市町村自治振興組合が取り組んだ「VDI(Virtual Desktop Infrastructure:デスクトップ仮想化)環境の共同化」が大きく貢献しています。

長野県市町村自治振興組合 電子自治体担当 事務局次長 金原 平八氏

「自治体情報システム強靭性向上モデル」へのシンプルな対応策は、各事務用に異なる端末を用意することです。しかし、インターネットの事務利用があたりまえとなった今、ちょっとした調べ物でも席を移動して利用端末を変えたり、あるいは紙の資料から入力し直したりするというのはきわめて非効率です。インターネット接続系の事務環境をVDI化すれば同一端末から横断的に複数ネットワーク系の事務を行うことも可能ですが、VDI環境の構築、運用には多大なコストを必要とします。数千人の職員を抱える自治体ならまだしも、職員数が数人から数十人の町村を含むすべての自治体が個別にVDI環境を構築するのは、現実的とは言えないでしょう。

長野県市町村自治興組合はこうした状況を問題視して、全市町村が利用可能な「VDI環境の共同化」に取り組んだのです。長野県市町村自治振興組合 電子自治体担当 事務局次長 金原 平八氏は、同取り組みの重要性について次のように説明します。

「ネットワーク分離の一番の目的は、セキュリティの強化です。自治体という存在は住民からの信頼が得られなければ何もできません。この信頼を獲得するために、情報は守られていることが前提なのです。VDIの導入は、この強固なセキュリティ環境を構築することに加えて、利便性も下げずに済むため、自治体運営の継続性を高めることができます。町村も含む全自治体の継続性を担保する場合、VDI環境の共同化は不可欠だと考えました」(金原氏)。

さらに倉石氏は、町村も含む全自治体が安定した自治体運営を継続できるようにするためには、同取り組みの目的を、「働き方改革」「BCP対策」といったテーマへも対応可能な「事務基盤の整備」とする必要があったと続けます。

「自治体の事務は国からの法定受託事務が大きな割合を占めており、効率化が果たされなければ住民サービスにリソースを割くことが難しくなります。さらに、人口減少や災害発生といった将来起こりうる事象も考慮すると、自宅や外出先で庁内と同等の業務ができる『働き方改革』や、データを消失させることなく業務を継続できる『BCP対策』なども、自治体の継続性において重要なテーマとなるでしょう。目先の課題である効率とセキュリティの向上に加えて、こうした先を見据えたテーマへも対応できるよう、『VDI機能を持つ事務基盤』として仕様策定を進めました」(倉石氏)。

<システム概要と導入の経緯、構築> 拡張性の観点からハイブリッドクラウド構成を検討。マイクロソフトのクラウドサービスならば、高いセキュリティ要件もクリアできた

事務効率の維持とセキュリティの担保だけでなく、働き方改革、BCP対策への対応も目指して進められた事務基盤の共同化。その構築において長野県市町村自治振興組合が模索したのが、外部クラウドサービスの活用可能性でした。

同組合はこの取り組みにおいて、VDI環境をオンプレミスで構築することを決定していました。ですが、働き方改革やBCP対策への対応も見据えた場合、オンプレミスのVDI基盤を、高い拡張性を持つ外部クラウドサービス、パブリッククラウドサービスと連携して発展性を高めることが有効と言えます。しかし、働き方改革やBCP対策に有効だとして、強固なセキュリティが担保されなければ、外部クラウドの採用はできません。

慎重に検討を重ねる中、長野県市町村自治振興組合が注目したのが、マイクロソフトのOffice 365とAzureでした。その理由として、倉石氏はまずセキュリティ水準の高さと豊富な実績を挙げます。

「マイクロソフトは、情報セキュリティマネジメントの国際基準を満たす『CSゴールドマーク』を取得する数少ない事業者です。その信頼性を評価して、先行する自治体の多くがマイクロソフトのクラウド サービスを選択していました。もちろん、サービス自体の有用性にも注目しました。Office 365上では複数の職員が同一ファイルで共同作業することが可能ですが、これによって事務効率の向上やドキュメント共有の推進が進められます。また、OneDrive for Businessをファイル サーバーとして利用し、オンプレミスにあるシステムのバックアップ先としてAzure Storageを活用すればデータの保護性も向上でき、『BCP対策』に対応することが可能です。Office 365とAzureをオンプレミスのVDI基盤と連携することで、各市町村のセキュリティ向上と効率化を両立しながら、将来的な発展も見込める基盤を構築できると期待しました」(倉石氏)。

長野県市町村自治振興組合は 2016年11月、オンプレミスのVDI基盤にWindows ServerとSQL Serverを、そこと連携する外部クラウドにOffice 365とAzureを採用することに決定します。クラウド、オンプレミスの双方でマイクロソフト製品を全面的に採用した理由について、金原氏は次のように説明します。

「いかに有効な基盤を整備しても、その運用が複雑、高負荷であっては安定稼働に支障をきたす可能性があります。各市町村の職員が日々利用する重要な事務基盤であるがゆえに、同基盤はミッションクリティカル性が高く、高い稼働性を維持せねばなりません。オンプレミスとクラウドの双方のベンダーを統一すれば運用を簡素化でき、サービス稼働の安定性を向上できます。有事の際にもサポート窓口は一本化されているため、ダウン タイムが最小化できます。オンプレミスにWindows ServerやSQL Server、クラウドにOffice 365やAzureといったように、各プラットフォームで有益な製品を持つマイクロソフトの総合力は、当組合の構想と合致していたのです」(金原氏)。

マイクロソフト製品の採用決定とその入札を経た2016年12月、長野県市町村自治振興組合はVDI環境の構築作業に着手。そのわずか4か月後の2017年3月には、Office 365、Azureと連携したVDI環境の提供を開始しています。

システムの構成イメージ。Windows Serverをベースに構築したVDI基盤は、利用自治体の増加に対して柔軟にリソースを増減可能。Office 365はアカウントの追加だけで拡張可能なため、オンプレミスとクラウドの双方で高いスケーラビリティが担保できている

導入の効果
日本マイクロソフト、パートナーとの強い連携により、わずか4か月で構築を完了

長野県市町村自治振興組合では、将来的に77市町村すべてが事務基盤を利用することを想定して同環境の構築を進めました。比較的規模の大きなプロジェクトである中、先述のとおり、同組合はプロジェクトの開始からわずか4か月という期間でこの作業を完了しています。

株式会社電算 公共事業本部 公共サポートサービス部 サブマネージャー 夏目 昌幸氏

構築作業を支援した、株式会社電算 公共事業本部 公共サポートサービス部 サブマネージャー 夏目 昌幸氏は、マイクロソフトのサポート、およびパートナー向けに整備されている豊富な支援プログラムの存在が、短期での構築に成功した大きな要因だと語ります。 「将来的なユーザー数の多さ、クラウドサービスとの連携による複雑さなど、今回のプロジェクトは難易度が高く、支援する立場である当社としてはいくつもの課題に取り組まねばなりませんでした。ですが、マイクロソフトはパートナーに向けた各種ドキュメントなどの情報支援が充実しており、参照するだけでスムーズに作業を進めることが可能です。構築上でつまずく場面にも迅速にアンサーをいただきました。こうしたマイクロソフトの充実したサポートがなければ、とても4か月という期間で構築することはできなかったでしょう」(夏目氏)

2017年3月のサービスイン時点で同基盤を利用している組織は、長野県、須坂市、中野市、小諸市、長野県市町村自治振興組合の5団体です。ネットワーク分離への対応が急務だったこともあり、多くの自治体は事務ごとに端末とネットワークを切り替える対処を一時的に採っています。

これらVDIに未対応の自治体が今後共同化した事務基盤を活用していくことで、同プロジェクトの本質たる「自治体運営の継続性」は向上されていくことでしょう。倉石氏と金原氏はそこへの期待を笑顔でのぞかせます。

「当組合で整備した事務基盤を導入した5団体は、今後他の市町村が導入を検討するためのモデルケースになると考えています。導入していない市町村と比べてコストや事務の質がどう変わるのかを具体的に提示することで、導入を判断する自治体も増加するでしょう。長野県下の市の一部には独自のVDI環境を構築しているところもあります。ですが契約更新の際には多大な投資が必要となるため、こうした市も共同化した事務基盤を利用するようになると考えています」(金原氏)。

「今回整備した事務基盤のユニークな点は、『セキュリティ向上と事務効率化の両立』を達成しつつ、働き方改革やBCP対策というテーマの発展性も持つことです。事務作業の共同化、共有化が果たせる点を評価してOffice 365を導入しましたが、たとえば音声やチャットなどのやり取りにSkype for Businessを利用すれば、コミュニケーションも推進できるでしょう。これは自治体間の連携を促す面でも有効です。この環境を利用する市町村が増え、またその市町村間での連携が深まることで、各市町村が相互に補完し合いながら継続性を高めてくれることに期待したいですね」(倉石氏)。

今後の展望
「ユーザーが利用したい環境づくり」を進めることで、全市町村が利用する事務基盤を目指す

マイクロソフト製品を全面的に採用した今回の基盤整備は、長野県にある各市町村の「安定した自治体運営の継続」を大きく支援するものとなるでしょう。同基盤がもたらす効果は、利用自治体が増えるにつれて高まっていくに違いありません。

こうした未来に向けて、倉石氏は同環境をより「ユーザーが利用したい環境づくり」へと発展させることで、導入自治体を増やしていきたいと語ります。

「これまで当組合は各自治体における基幹系、情報系システムの共同化を推進してきました。今後は、バックオフィス事務の支援など共同化の領域を拡大し、市町村にとってより魅力のある環境を構築していきたいと考えています。今回整備した事務基盤は、個人番号利用事務以外の全事務作業のフロントを担うものです。この基盤を発展させれば、共同化の領域拡大も果たせるでしょう。そのヒントとなるアイデア面で、今後もパートナーやマイクロソフトには支援をいただきたいですね」(倉石氏)。

各市町村が「信州らしさ」を生み出すことで、国内外問わず大きな注目を集める長野県。長野県市町村自治振興組合の今回の取り組みによって、各市町村の「信州らしい」活動は今後も安定して継続されていくことでしょう。ひいてはそれが、「長野県」というブランドのいっそうの発展につながっていくのです。

「今回整備した事務基盤のユニークな点は、『セキュリティ向上と事務効率化の両立』を達成しつつ、働き方改革やBCP対策というテーマの発展性も持つことです。事務作業の共同化、共有化が果たせる点を評価してOffice 365を導入しましたが、たとえば音声やチャットなどのやり取りにSkype for Businessを利用すれば、コミュニケーションも推進できるでしょう。これは自治体間の連携を促す面でも有効です。この環境を利用する市町村が増え、またその市町村間での連携が深まることで、各市町村が相互に補完し合いながら継続性を高めてくれることに期待したいですね」

長野県市町村自治振興組合
事務局長
倉石 剛佳氏

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