個人のライフスタイルや働き方が多様化している昨今、クラウドソーシングやクラウドワーカーといった言葉も一般的になりつつある。

日本においてクラウドソーシングの利用が本格化したのは2009年頃であると言われている(参考:総務省Webサイト)が、2000年代前半からその先駆けとなる在宅ワーカー(以後、クラウドワーカー)を活用する仕組みづくりに取り組んできたベンチャー企業がある。それが、うるるだ。

うるる 代表取締役社長 星 知也氏

同社は在宅ワーカーを活用したデータ入力サービスの運営からスタートし、現在ではクラウドワーカーをはじめとする「人のチカラ」を活用したさまざまな事業を展開している。今回は、うるる 代表取締役社長の星 知也氏に同社の事業概要や経営理念、行動指針について聞いた。

働きたくても働けない人が活躍できる社会を

2004年よりサービス運営を開始したうるるは、前身組織からの独立などを経て順調に成長を続け、2017年3月に東証マザーズに上場。「人のチカラで 世界を便利に」というビジョンの実現に向け、さらなる発展を目指す。

具体的には、データ入力代行などを行うBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業のほか、全国の官公庁・自治体・外郭団体の入札情報を一括検索・管理できる「入札情報速報サービス(NJSS:エヌジェス)」、幼稚園・保育園向けオンライン写真販売システム「えんフォト」、受電に特化した電話代行サービス「fondesk(フォンデスク)」など多数のサービスを展開している。事業としては一見あまり関連性がないようにも思えるが、共通点は「クラウドワーカー」だ。

NJSSえんフォトの概要(うるるのWebサイトから)

うるるの創業は、ちょうどインターネット普及期に重なる。

当時星氏は「介護や子育て中の人、障害を持つ人など、働きたくても働けない人たちが、インターネットを活用することで自宅で好きなときに仕事ができる世界をつくりたい」という思いを持つようになった。

着目したのが、現在のBPO事業のもととなるクラウドワーカーを活用したデータ入力サービスだ。ADSLの普及・光回線の登場により、インターネットやPCの利用が企業や一般家庭で当たり前になりつつあるなか、データ入力のニーズは「予想以上だった」(星氏)という。

そして、クラウドソーシングという言葉がまだあまり一般的ではなかった2007年に、企業がクラウドワーカーに直接仕事を発注できるプラットフォーム「シュフティ」を立ち上げた。さらに近年は、クラウドワーカーを活用したBtoBサービスを複数展開するCGS(Crowd Generated Service)事業に積極的に取り組んでいる。

低賃金/低品質の課題を解決するサービスへ

クラウドソーシングにおいては、業務の完遂に至らなかったり、納品物のクオリティが低かったりするケースも多く、クラウドワーカーを活用したい企業はある程度のノウハウが必要となる。一方で、クラウドワーカー側は、最低賃金が適用されず、報酬が低くなりがちという課題を抱えている。CGS事業は、この課題を解決しようとするものだ。

星氏はCGS事業について「クラウドワーカー側が不利な状況になることも多く、私たちが思い描いているビジョンの実現にはまだまだ遠い状況にあると言えます。CGSは、クラウドワーカーに高い報酬を提供できるよう、うるる自身がクラウドワーカーを活用してサービスをつくり、それを企業に提供していく事業です」と説明する。

たとえば、CGS事業のひとつである入札情報速報サービスNJSS(エヌジェス)では、全国の官公庁・自治体約8000機関のWebサイトの情報を収集してデータベース化し、登録企業に提供している。入札情報は画像ファイルをPDF化して掲載されているものも多く、データ収集にあたってはWebスクレイピングのみでは対応できない部分もある。

こうした人力でなければ集められないデータを、クラウドワーカーを活用して収集しているというわけだ。

もっとも、人力作業には誤りも付き物。そのリスクを知る企業は、同じ作業を複数人に依頼したうえで、成果物に差異がないか確認するクラウドワーカーも設けて品質を担保する。

クラウドソーシングにはこうしたノウハウが随所にある。そのノウハウを活かして、クラウドワーカーによる新たなサービスを開始するのがCGS事業だ。うるるでは、CGS事業を多数立ち上げていくことで、クラウドワーカーがスタンダードとなるような世界の実現を目指していく。

「理念・ビジョン・うるるスピリット」は創業時からの思いを言語化

うるるの企業理念とビジョン、そして理念・ビジョンを達成するための価値観や行動指針を表した「うるるスピリット」を下記にまとめた。2012年頃にリニューアルされたものであるが、いずれも「創業時の思いを言語化したもの」(星氏)だという。

<理念>
世界に期待され 応援される企業であれ

<ビジョン>
人のチカラで 世界を便利に

<うるるスピリット>

1. うそをつかない、悪いことをしない
2. 会社はホーム、社員はファミリー
3. 相手の期待を超える「おもてなし」
4. 当事者意識を持って、納得して働く
5. ベンチャースピリットを持ち、成長し続ける

リニューアルに至った経緯として星氏は「うるるが社員2,30人ほどの組織になった2008年頃に、会社のカルチャーは言葉にしないと伝わらないと実感する機会が増えてきました。組織をさらに大きくしていくうえではこのままではまずいと感じ、創業時の思いをきちんと言語化することにしました」と振り返る。

もともと定めていた企業理念は「社会に期待され 応援される企業であれ」。リニューアル時に「社会」を「世界」と変えることで、グローバルでも活躍できる企業になっていきたいという思いを表した。理念に込めた思いについて、星氏は次のように語る。

「過去に訪問販売の営業職に携わっていた頃の経験から、世の中に必要とされないような、自分のためだけのビジネスはやりたくないという思いが強くありました。当時、3年連続で社内トップとなるような営業成績を上げていましたが、ある時、お客さんにとってはあまり幸せなことではないかもしれないと思ったんです。お客さんに喜んでもらえるものを提供したうえで、自分も稼げるような仕事がしたい、と。

当時はちょうどGoogle Earthがリリースされた時期でした。私はリリース直後に8時間連続で利用してしまうほどハマってしまい、次はどんなサービスを提供してくれるだろうという期待をGoogleに対して持ったんです。そういう会社に自分たちもなりたいと思いました。『世界に期待され 応援される企業であれ』という言葉には、そうした思いが込められています」(星氏)

また、ビジョンは従来の「在宅ワークのスタンダード化」から、スマホなどの登場によって”在宅”に限定されない働き方がスタンダードになるという考えから「人のチカラで 世界を便利に」とリニューアルした。

企業理念が形骸化している企業もあるなかで、企業理念を見直した意義について星氏は「目指すべきところがないと、仕事のやる・やらないの判断ができませんし、経営層は社員を導くことができません」と強調する。

社員は「ファミリー」

うるるスピリットのなかで最も特徴的なのは、「社員はファミリー」という言葉だろう。社員同士が兄弟のような関係になることで、スムーズに仕事が進むようになるという星氏の考えを反映させたものだ。

「たとえば『ちょっと』という言葉は非常に曖昧ですが、一緒に住んでいる家族間であればその加減が伝わります。家族のような関係性を築くことで、必要最低限の説明で仕事が進められるようになるのです。さらに家族であれば、『今日は機嫌が悪そうだからそっとしておこう』などと相手を気遣うこともできます」(星氏)

うるるでは、こうしたカルチャーを浸透させていくために、評価制度や社員採用にうるるスピリットを組み込んでいる。たとえば採用面接時には、うるるスピリットに共感できるかどうかを見極めるための全面接官共通の質問が用意されているのだという。

また、社内のみならず社外にもうるるスピリットを発信していくために、コーポレートブログにも力を入れている。

星氏によると、ビジョンの達成に向けては今後、現状取り組んでいる事業ではない領域にもビジネスを展開していく可能性もあるという。クラウドワーカーが当たり前になり、誰もが場所と時間を選ばないで働ける世界を目指し、うるるは今日も挑戦を続ける。