はじめに

メディアで「AI」というワードを目にしない日はなくなりましたが、一体、ビジネスパーソンの何%が「AIができること、できないこと」を理解できているのでしょうか。多くは、「AIを使うと、なにかすごいことができそうだ」に留まっているのが現状でしょう。

本連載では、実際にAI(ディープラーニング)を活用したシステムを開発したコンサルタント・技術者の「ぼくら」が、実践的なAIの使い方を説明します。

「ぼくら」は、トライアンドエラーを繰り返しながら、七日間……ではありませんが、3ヶ月でAI(ディープラーニング)エンジンの研究開発を行いました。廃工場に立てこもり、差し入れをもらったり、作った料理をホームレスのおじさんにお裾分けをしたりしながら、先生たちと戦った8人の生徒のように(?)前提や制約を取っ払ったゼロベースでのチャレンジを行いました。

そして、2017年1月に経済産業省の「平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業(IoT・人工知能技術の活用による物流効率化のための調査)」において、開発したAIエンジンを適用し、実証実験を行いました。

本連載で読者の皆様に共有することは、七日間戦争の最終日に上げた打ち上げ花火に似ており、「ぼくら」の精一杯の成果物です。打ち上げ花火が少しでも皆様にとって実践的かつ有益であることを願い、執筆を行います。

<連載全5回>

AIは万能ではない、できることはたった2つ

できるのは、予測と判別のみ! と割り切って覚えてしまう

まずは、AIができること、できないことを理解しましょう。参考として、人工知能学会を覗いてみます。

AIができること

人工知能と一言に表現しても、扱うデータ、適用するアルゴリズム、問題を解くためのアプローチが異なることで、このように多くの分類がなされています。しかし、私たちビジネスマンは、これら全てを深く研究するのではなく、何を実現することができるのかを理解することが重要です。

AIを活用する目的に着目すると、これらは全て、「予測」もしくは「判別」をするために活用されていると捉えてしまいましょう。

大人のAI・子どものAI

続いて、さらにAIのイメージを具体的に膨らますために、東京大学の松尾豊特任准教授の提唱する、"AIには、「大人のAI」と「子どものAI」がある"という分類に着目します※1

子どものAI・大人のAI

子どものAIは、あたかも子どもが世界を認知し、物事を覚えていくプロセスに例えられます。消防車を見て、「ぶーぶー」と言っている子どもに対して、親が「これは消防車だよ」と100回教えれば、子どもは、その物体を消防車だと認識することができます。誤解を恐れずに言うと、学習データを100枚用意すれば、それが何であるか認識できるようになるという点が特長で、非常に早く実用化に漕ぎ着け、効果を出すことができます。

一方、大人のAIとは何でしょうか。例として分かりやすいのが、Google傘下のDeepMind社が開発したAlphaGoです。この1年で、人類最強と呼ばれる囲碁棋士である、李世ドル(イ・セドル) 九段、柯潔(カ・ケツ) 九段を相次いで破ったことは記憶に新しいかと思います。ニュースでは、「AIが人類最強の棋士を破った」という見出し記事で大きく報道されました。

しかし、AlphaGoのロジックは、AIだけで出来ているわけではありません。ディープラーニング技術の適用は一部であり、その他の囲碁における最適な打ち手の探索は、従来の技術の延長線上のものです。ここに、ニュースの見出し記事とのギャップがあります。

さらに、AlphaGoでは、3300万もの対局盤面データを解析しています。多大な労力と時間をかけて開発されているということです。この点で、大人のAIは、ビッグデータ解析の領域に近く、最適なモデル構築には、ディープラーニングのみならず、OR等数理計画問題を得意とする数学者、また、ビジネスプロセスを理解しているコンサルタント、及び、データアナリストをあわせたチーム戦での取組みが必要になります。

こうしてみると、子どものAIは「判別」に近く、大人のAIは「予測」に近いことがわかります。達成したい目的が「判別」か「予測」次第で、活用アプローチを変えていく必要があります。

AIを活用した自社ビジネス変革のステップ

経営目線でバリューチェーン全体を俯瞰し、適用領域を選定する

ここまで、AIは、「予測」と「判別」を人間の代わりにできることを説明しました。ここからは、具体的にビジネス変革における、AI適用検討のステップを紹介します。

ディープラーニングを始めとする技術適用判断のプロセス

まず、自社のバリューチェーンを俯瞰し、労働集約業務や、熟練者ノウハウに依存している業務を洗い出します。そして、業務毎に、売上・利益・CS向上や、リスク・クレーム低減等の効果を整理します。

企業変革に向けては、経営視点で想定効果を整理するのは当たり前のプロセスではありますが、検討が抜けてしまうケースが多く見受けられます。想定効果の整理を怠ってしまうと、「AIはこの業務に適用することで生産性が上がるのでは」という抽象的なイメージのまま適用実証が進み、実証内容、効果測定に不足が出てきます。すると、検証内容は、「AIを適用した結果、認識精度が90%だった」といった、AI技術の性能検証に留まります。

これを私たちは、「Proof Of Technology(技術実証)」と呼んでいます。技術者は満足かもしれませんが、企業活動において業務を変革していく経営者にとっては不十分な結果です。

このような過ちが起こる原因は、AIという破壊的テクノロジーの魅力(魔力)に取り憑かれてしまい、本来手段であるはずのAIを使うことが目的化してしまうためです。失敗に陥らないための対策は、AIは何者であるかを知ること、また、目的は、技術ではなく目の前にある業務の改革であることを強く認識し、メンバー間で認識を共有することです。経営者を巻き込んでプロジェクトチームを作るということも1つの解決方策です。

業務変革後の想定効果のみならず、AI適用時の運用障壁と、障壁を乗り越えるための解決方策、実運用に向けた合格基準の設定を行い、はじめて、「Proof Of Concept(ビジネスコンセプト実証)」を行うことができ、変革を達成できるか否かの判断をできるようになります。

Think Big, Start Small

もう一つ、気をつけなくてはならないことは、決して大きな期待をしすぎないことです。

AIは、使いようによっては、企業バリューチェーン(価値連鎖)を変えてしまう可能性がある技術です。そのため、適用案は多く出てきます。しかし、技術的に素人の私たちがAIを企業活動に埋め込むことは容易ではありません。まずは、難易度が低く、比較的効果が出やすい領域に絞り、3ヶ月程度でスモールサクセスを目指すことをおすすめします。

先進的な経営者ですと、AIを活用した変革をするよう、各部門を叱咤激励しスピードを求める傾向があります。しかし、プロジェクト実行部隊である現業部門では、落ち着いて、スモールサクセスを目指すことが成功への近道です。

一度成功すると、経験が自信になり、AI適用のノウハウも蓄積されます。また、経営者の見る目も変わり、より大きな経営資源を使うことを推進してくれるようになります。大規模プロジェクト化してしまうと、難度の高いプロジェクト管理を要求され、期間が長くなることから結果も見えず、次第にチームの士気は下がります。

先進技術であるからこそ、3ヶ月程度で少しの変革を求めることを目標に、取り組むことが肝要です。

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本稿では、AI技術をビジネス観点では「判別」と「予測」ができると認識すれば良いという点、そして、ビジネス変革では、経営目線で変革効果の見込める業務を洗い出し、スモールサクセスを狙うようプロジェクト計画を立てることをお伝えしました。

次稿では、AIを適用するプロジェクトを管理・遂行する際の要諦をお伝えします。

著者紹介


大野 有生 (ONO Ariki)
―― 株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 課長

東京工業大学経営工学専攻修了(SCM・国際物流を研究)。NTTデータに入社し、SCM・物流システム導入に複数参画。

2009年にベトナム現地法人へ赴任し、在アセアン企業向けに50社超の倉庫・輸配送業務改善を支援。2014年より現職にて、お客様の物流業務変革のITコンサルティングに従事するとともに、物流高度化を目的としたAI・IoT・ロボティクス技術の調査研究および活用試行を産学連携で進めている。

2015年、日本ロジスティクスシステム協会「IoT、ビッグデータ、人工知能の進展による2030年の物流ビジョン」委員。ロジスティクス経営士。