2020年からオンラインデーティングが成長を爆発させ、世界の市場規模が84億ドルを超えたが、米国ではZ世代から出会い系アプリが敬遠されており、かつてFacebookがミレニアルズから避けられたような状況になりつつある。→過去の「シリコンバレー101」の回はこちらを参照。

Z世代が出会い系アプリを敬遠

出会い系サービスのBumbleが2023年10〜12月期決算の発表において、利益の伸び悩みにより約30%の人員を削減することを明らかにした。Z世代が出会い系アプリを敬遠する傾向を主な理由に挙げており、同社は安全性とAIの新機能を備えたアプリのリニューアルへの投資を通じて、Z世代の取り込みを計画している。

Bumbleに限らず、米国では過去10年にわたってデート市場に変革をもたらした出会い系サービスの多くが苦戦している。Bumbleの株価は過去1年間で約50%減少し、TinderやHingeなどのアプリの親会社であるMatch Groupの株価は2021年の最高値から5分の1に落ち込んだ。

  • 2020年以降のMatch Groupの株価推移。世界のオンラインデートサービスの市場規模は2023年に84億ドルに達し、2028年には107億ドルに達すると予測されているが、米国ではミレニアルズよりも下の世代の離脱が加速している。

    2020年以降のMatch Groupの株価推移。世界のオンラインデートサービスの市場規模は2023年に84億ドルに達し、2028年には107億ドルに達すると予測されているが、米国ではミレニアルズよりも下の世代の離脱が加速している。

昨年10月に公開されたAxios/Generation Labの調査では、大学生・大学院生の79%が出会い系アプリを使わないと答えている。Pew Researchの調査によると、30歳以上のユーザーの41%が出会い系アプリにお金を払ったことがあると答えたのに対し、30歳未満のユーザーはわずか22%だった。

出会い系サービスは誕生以来、ミレニアル世代を中心に成長してきた。2009年のGrindrに始まり、2012年のTinderで主流となった。最初のコンセプトは、スマートフォンで近くの独身者を簡単に見つけることができるというシンプルなものだった。

その後、10年間で多くの新しいアプリが登場し、それぞれが市場の一部を獲得しようと競争した。Bumbleでは女性が最初のメッセージを送り、Hingeは真剣な出会いを志向し、Rayaはセレブを取り込み、The Leagueは厳格な審査制度を設けている。

また、LexのようなLGBTQ+コミュニティに焦点を当てたサービスもある。しかし、今ではどのアプリもユーザーを引き付ける引力を失いつつある。

昨春にリリースされたMorgan Stanleyのレポート は、コロナ禍を通じて出会い系アプリ市場の競争が激化し、市場がアプリの数の多さによる飽和状態にあることを示している。

個々のアプリがかつてのようにユーザー数を伸ばすことができず、価値のある出会いを有料プランに閉じ込めるなど、収益化に軸足を移す動きが顕著になっている。それが、すでに不満の声が上がり始めていたマッチングアプリの体験をさらに悪化させている。

マッチングに要する時間が長くなり、ミレニアル世代はまだアプリを利用しているものの、マッチングアプリがかつて約束していた恋愛の煩わしさを解消するツールではなくなっている。そうした悪化を主に体験にしているZ世代は、マッチングアプリに否定的な印象を持っている。

  • 「削除されるようにデザインされたアプリ」と、適切な相手が見つけやすいサービスをアピールするHinge。

    「削除されるようにデザインされたアプリ」と、適切な相手が見つけやすいサービスをアピールするHinge。

マッチングアプリの体験低下を中古車のレモン市場論で説明

NPRのレポーター、グレッグ・ロザルスキー氏は、マッチングアプリの体験低下の理由を中古車のレモン市場論で説明できるとしている。経済学者のジョージ・アカロフ氏が1970年に発表した同理論は、市場における情報の非対称性が引き起こす問題に焦点を当てている。

中古車の売り手は車の状態や品質を知っているが、買い手は購入するまで本当の品質を知り得ない。そのため、買い手は中古車というだけで危ぶみ、安く買おうとするが、良い車を持っている売り手は値下げに応じない。結果、値下げするレモン(品質の悪い車)の取引ばかりが成立し、市場が荒れてしまう。

この観点は興味深いが、私はマッチングアプリ市場には品質の不確実性に焦点を当てたレモン市場理論だけでなく、グレシャムの法則(悪貨は良貨を駆逐する)の影響もあると考える。

異なる金属含有量を持つ同額面のコインが流通すると、人々は金属含有量の高いコイン(良貨)を保持し、金属含有量の低い「悪貨」を支払いに使う。それにより、市場から良貨が消え、悪貨があふれることになる。

マッチングアプリの場合、同じデートを目的とする場に、真剣に出会いを求めるユーザーがいる一方で、プロフィールを粉飾したり、詐欺的なユーザーも存在する。そして、期待に反する悪いデート体験をすることになると、真剣なユーザーほどアプリから離れやすい。結果、マッチングのユーザー体験がさらに低下する悪循環に陥る。

では、今のZ世代がどのようにデート相手を探しているかというと、同年代に囲まれている大学生・大学院生はシンプルにIRL(in real life)、普段のつながりから出会いを見つける傾向を強めているそうだ。SnapchatやTwitchのようなプラットフォームを使いこなすZ世代の才と相反するように見えるが、「だからこそ」なのだという。

オンラインでつながって育ったZ世代は、膨大な量の情報を素早く処理して求めるものを見つける能力に長けている。その傾向はすぐに答えを求める短所になることもあるが、デートにおいては長所となっている。

Z世代は上の世代に比べて、恋愛で複雑なシグナルを送ったり、腹の探り合いや駆け引きを好まない。Tinderの「Future of Dating Report 2023」によると、今の18~25歳のデート文化は、過去の世代よりも健全であり、自己ケアと相手への敬意を重視している。感情的な幸福や確かなコミュニケーションを大切にする世代であり、将来的に最も結婚に成功する世代になる可能性があるそうだ。