大規模リストラに着手したAmazon.comの株価下落が続いている。デバイス部門を中心に約1万人を削減、2023年にも追加の削減を行う可能性を示しており、同社にとって過去最大規模の人員整理になる見込みだ。しかし、Amazonらしいのは縮小においても新たな革新への投資の手を緩めないこと。リストラを公表する一方で、同社は「Delivering the Future」というイベントで新しいロボットアーム「Sparrow」を発表した。
リストラ公表に至るまでの経緯を簡単に振り返ると、14日にNew York Timesが1万人規模の人員削減の計画を報じ、Amazonがリストラの実施を認めた。さらにBusiness Insiderが、元社員から得た情報として、Alexa事業が毎年莫大な損失を出している問題をレポートした。音声アシスタント市場を開拓したAlexaは、米国だけで7,100万人以上に使われている。だが、天気や時間の確認、スマートホーム機器の操作といった使い方は活発であるものの、Eコマースでの利用が少なく、広告にも上手くつなげられていない。登場からすでに8年が経過するが、Alexa関連を含む事業部門の損失はAmazon全体で最大だという。
経済環境の悪化、リセッション入りの可能性に備えてコストを見直し、最も重要な事業やサービスへの集中を促進する。長年投資してきたAlexa関連事業の縮小は、Amazonが8年前に退歩するような印象を投資家に与え、それが株価の下落につながっている。
だが、Amazonが将来の成長ドライバーへの投資から手を引いたわけではない。それを含めた「重要な事業やサービスへの集中」であり、今回のリストラでは物流施設で削減を行わず、2024年以降の新たな飛躍を見すえた"攻めの再編"に取り組む。
Sparrowは、AIとコンピュータビジョンを使って、個々の商品を識別し、選択、取り扱えるロボットシステムだ。ハイドロリックな吸盤を先端に持つ手を使って商品をハンドリングし、注文通りに商品を仕分けて梱包作業へ送る。Amazonが物流施設で管理する数百万種類の商品の約65%の認識が可能であり、また破損したアイテムを識別して分別できるという。
Amazonのロボットシステムというと、ロボット掃除機Roomba(ルンバ)を思わせる見た目で、商品の棚や注文を仕分けるボックスを移動させる運搬ロボットがよく知られているが、それら以外にも多数のロボットを導入しており、運搬・移動だけではなく、識別・仕分けへのロボットの導入も進めている。2021年時点で年間約50億個、1日あたり1300万個以上の取り扱い荷物の物流プロセスにおいて、75%に少なくとも何かしらのロボットによる処理が行われた。
ロボットアームもSparrowが初めてではなく、すでに「Robin」や「Cardinal」といったロボットが存在する。Robinは荷物のラベルをスキャンし、送り先の郵便番号に基づいて適切な運搬ロボットに荷物を載せる。Robinの後継で来年に配備が始まる予定のCardinalは、物流施設内でより効率的に荷物を動かせるように荷物を整理する。
Fanucの産業用ロボットアームをAmazonの倉庫業務向けにカスタマイズし、学習済みAIを搭載するSparrowは、個々の商品を見分け、商品を直接動かせる器用さを備える。Cardinalからあまり変わらないように思うかもしれないが、様々な商品が溢れる環境で個々の商品を取り扱えるSparrowの進化は大きな意味を持つ。
Amazonのようなオンラインストアの物流施設では、ストア、操作、移動、分類、ID、梱包の6つにロボットを導入できる。そのうちの移動、分類、IDの3つで、Amazonはロボットを活用しているものの、個々の商品を把握してハンドリングする能力が必要になるストア(Stower:保管)、ピッカー(Pciker)、パッカー(Packer:梱包)には人間のスタッフが欠かせず、エントリーレベルのポジションを継続的に募集している。Sparrowの登場によって、それらの仕事もロボットに任せられる可能性が広がる。
ロボットの活用で仕分けミスが半減し、同じ倉庫により多くの商品を保管できるようになる。それによって人間の仕事が奪われるかというと、ロボットが人を置き換えるのではなく、ロボットと人が協力して効率的に仕事をするというのがAmazonの主張だ。反復的な仕事をSparrowが引き受けることで、従業員はより生産的な仕事にエネルギーと時間を集中させられる。反復的な仕事で人間は時間と共に生産性を減退させるが、ロボットは安定して仕事をこなせる。また、反復性のある仕事は負傷率が高く、ロボットの導入は倉庫の従業員の安全の向上にも役立つ。今後はロボットと人が効率的に仕事を分担できるタスクやワークフローの細分化が進むことになりそうだ。
現在、Amazonは110万人以上を雇用しており、雇用データによると、そのうちの約68%が「労働者・ヘルパー(Laborers & Helpers)」のカテゴリーに分類される。だが、Amazonはリセッション入りを見すえた大規模リストラにおいて物流施設の人員削減は行わない。同社によると、ロボット技術の導入によって700以上の新たなカテゴリーの仕事が誕生しており、従業員がスキルやキャリアを向上させる機会が増えている。「Amazon Mechatronic and Robotics Apprenticeship」という新しい仕事へのキャリアアップに向けたプログラムを用意しており、実習・見習い期間を終了させた従業員は平均で40%高い給与を得られている。