2018年のスマートフォンの新製品が続々と登場する時期が始まろうとしているが、Androidが立て続けに大きなトラブルに見舞われている。

新しいものからいくつか列挙していくと、まず今年最大のヒットゲームとなっているバトルロイヤルゲーム「Fornite」のAndroid版を、Epic GamesがGoogle Playを使わずに独自配信する。理由の1つは、ユーザーとの直接的なつながり、そしてGoogle Playを通じた配信でGoogleが徴収する30%の手数料が高すぎるから。そのEpicの判断によって、Googleは2018年だけで少なくとも5000万ドルの売上を失うとSensor Towerは推測している。ちなみにEpicは、すでにiOS版をリリース済みだが、そちらは「使わざるをえない」という理由でAppleのApp Storeを通じた提供になっている。

Android版のインストールは、ブラウザを通じてインストーラーをダウンロードして行う。シンプルなプロセスになりそうだが、その際にサードパーティのプログラムに対するダウンロード許可を与えなければならない。そのプロセスを悪用して悪意のあるサイトに導いたり、危険なプログラムを導入させる行為が出てくるかもしれない。Google Playを使わずに独自のアプリストアやAPKファイルの配布で提供されるゲームはこれまでにもあった。だが、グローバル規模の大ヒット作になっているFortniteの比ではない。Fortniteで非Google Playアプリを初めてインストールするユーザーが少なくないだろう。それに安心してFortnite以外の非Google Playアプリも試すようになる可能性もあり、Androidデバイス・ユーザーのセキュリティ意識の減退も危惧されている。

  • Galaxy S7/S7 Edge、S8/S8+、S9/S9+、Note 8、Note 9、Tab S3、Tab S4といったSamsungのデバイスからベータ提供が始まったAndroid版「Fortnite」

2つめは、多くのAndroidデバイスが新品の出荷状態でセキュリティ問題を抱えているという調査結果。これはBlack Hat USA 2018 (8月4日〜9日)で、国土安全保障省の支援を受けるリサーチ会社Kryptowireが発表したものだ。ソースコードを分析することなくサードパーティのアプリの安全性を自動検証するDARPAで開発されたプログラムをスマートフォンのファームウェアに拡大した。Asus、LG、Essential、ZTEなど、米国で発売されているAndroidスマートフォンを分析した結果、多くの製品でメーカーや通信キャリアによる独自プログラムやカスタマイズに起因するセキュリティ問題が確認された。それらの多くは、その後に修正されているものの、セキュリティアップデートの提供プロセスも問題を抱えており、全てのユーザーに行き渡っていないと指摘している。

3つめは、欧州委員会 (EC)のGoogleに対する制裁金命令。GoogleがEU競争法に違反したとして7月18日に、43億4000万ユーロの制裁金を科すと発表した。GoogleがAndroidを採用するデバイスに同社のアプリをプリインストールさせ、モバイル検索やモバイルサービスにおける公正な競争を阻害していると判断した。それに対してGoogleは、Androidは無料で自由に使えるプラットフォームであり、廉価帯からハイエンドまで幅広いデバイスの選択を人々に提供していると指摘。その自由でオープンなプラットフォームの開発を支えるために、同社のサービスを統合したAndroidを提供しているが、それがAndroidの全てではないと反論した。

全てをAndroidでひとまとめにするブランディングの限界

EpicのようにGoogle Playで配信しないと決めたメーカーのゲームも楽しめる自由がAndroidにはあり、同じAndroidでもメーカーごとに工夫を凝らしたデバイスを選べる選択の幅がある。だが、それらは脆弱性というリスクをユーザーにもたらす。どのようなニーズやビジネスモデルにも応えられるのがAndroidの強みであり、そして混乱を生む原因にもなっている。私自身、Androidについて書いていて、よく矛盾に陥ることがある。そんな時に、まずやって欲しいと思うのがAndroidのブランディングの見直しだ。

Androidは元々、無料でオープンなAndroidを特色としていた。選択の自由こそAndroidのエコシステムの持ち味であり、自由なAndroidから多種多様なAndroidデバイスが誕生し、様々なビジネスモデルにフィットさせられることから高機能・高性能なのに格安なデバイスも実現した。しかしながら、自由であることは、Kryptowireが指摘するような脆弱性、アップデートの問題、効率性やパフォーマンスへの影響といった様々な問題を生み出した。Googleは同社のサービスを密に統合したGoogle版のAndroidで、そうした問題を解決し、さらにハードウェアも自身で手がけた"iPhoneのようなAndroidデバイス"も投入した。

Googleは、時に自由なAndroidをアピールし、時にしっかりとコントロールされたAndroidをアピールする。自由だけどリスクをはらむAndroid、シンプルで安全性が高いけど制限の多いAndroid、どちらもAndroidであり、どちらも正しく、そしてどちらもそれぞれ開発者やユーザーに支持されている。だが、それらのメリットは相反する。そして、それらをただAndroidと表現するだけでは、多くの普通の人々は混乱し、そして「全てのAndroidがGoogleにコントロールされている」とか、「全てのAndroidがセキュリティ問題を抱えている」というような誤解を生む。

ターゲットに対して、その商品の価値を分かりやすく伝えるのがブランディングの基本である。Googleのサービスが統合されたAndroid、サードパーティがカスタマイズしたAndroid、Android Open Source Projectから作り込まれたAndroidなど、Androidも様々だ。Androidをベースにどのように手が加えられ、そのメリットとデメリットが伝わるようなブランディングで展開してこそ、人々に選択の自由をもたらすAndroidの良さが存分に引き出されるようになる。不要な誤解を避けられるようになるのではないだろうか。