米Amazon傘下になったグローサリー・チェーン米Whole Foodsが、一部の店舗で行っていたPrimeメンバーに対する特売商品の10%割引きプラスを全米規模に拡大すると発表した。ウチの近くのWhole Foodsはしばらく前から提供店になっていて、支払いの時にレジでWhole Foodsアプリをスキャンしてもらうと (または登録してある電話番号を言う) 、Primeメンバーはさらに1割引きが加算される。

Amazon傘下になって低価格競争を仕掛け始めた思うかもしれないが、オーガニックや自然食品を主に扱うWhole Foodsは価格が高めの商品が多く、セール商品がさらに安くなっても最低価格を競争するようなスーパーにはならない。AmazonがWhole Foodsを買収した時に「Wal-Mart対抗」と言われたが、最安値で勝負するWal-Martとは同じグローサリーを扱うスーパーでも顧客層が異なる。とにかく安く買い物したい人は、Wal-MartやSafewayなど最低価格アピールの店を選ぶだろう。

  • 黄色の札が付けられている特売商品は、Primeメンバーがさらに10%引きで購入できる

しかし、以前からのWhole Foodsの顧客だったら、あまり安売りしないグルメ・グローサリーのセール+10%割引きは大きい。それなら年会費119ドルのPrimeを利用しようと思うかもしれない。Amazonは、最安値よりも良い品物にこだわる人たち、価値を認めたら積極的に出費してくれる層に効果的に働きかけられる。同社はこれまでPrimeの価値を認めて年会費を支払ってくれるPrimeメンバーを優遇してきたが、Primeメンバーであり、そしてWhole Foodsでも買い物する人は、Amazonにとってさらに上客として見込める。それらに容易にターゲティングできる体制を整えたことが、AmazonがWhole Foodsを持つ最大の強みと言える。

  • 支払い時にWhole Foodsのバーコードをスキャンして、Primeメンバーはプラス10%の割引きを受ける

2月からAmazonの「Amazon Prime Now」でWhole Foodsの商品の取り扱いが始まった。Primeメンバーなら、35ドル以上の買い物は無料で2時間配達してもらえる。少しずつだが、Whole Foods買収によって、全米にあるWhole FoodsがAmazonの生鮮食料品の配送センターのように機能し始め、またAmazonによってWhole Foodsのオンラインサービスが充実している。

ただ、Whole FoodsがAmazonの傘下になってから10カ月、自宅からWhole FoodsやAmazonのPrime Freshを使うよりも、Whole Foodsに行くことが以前よりも増えている。

inMarketの調査によると、Amazonによる買収後、Whole Foodsのマイクロトリップが約11%増加した。マイクロトリップというのは3~5分の短い滞在の買い物客だ。増加分は、Amazonで注文した荷物を受け取るAmazonロッカーの利用客だと見られている。

マイクロトリップの買い物客は、飲み物や軽食、広告の商品などをサッと買っていくだけ。グルメ・グローサリーのWhole Foodsにはマイクロトリップが少なかった。他のグローサリー・ストアが買い物客全体の約9%であるのに対して、Whole Foodsは今も6.5%である。しかし、Whole Foodsが質より量のスーパーになったのではなく、以前と変わらないグルメ・グローサリーでありながら、マイクロトリップが増えたのは大きな変化だ。

グルメ・グローサリーに行くのは楽しいけど、コンビニのようにどこにでもある店ではないので車を運転して行くのがおっくうだ。Amazonロッカーも同様に、ロッカーの方が安全で安心できるけど、宅配してくれるものをわざわざ受け取りに行くのは面倒である。それが今は、Whole Foodsが「どうせならWhole Foods受け取りにするかな」と思える場になっている。

その感覚は、Appleの直営実店舗に対するものに似ている。Apple Storeは文字通り、Apple製品を販売するストアだが、特に安く買えるわけではない。製品を手間なく購入するなら、実店舗よりオンラインストアの方が便利だろう。でも、Appleユーザーにとって快適なコミュニティ・スペースのようになっていて、実店舗ならではの体験があるから、実店舗を利用するユーザーが多い。Whole Foodsは、Amazonユーザー以外にとっても快適なグルメ・グローサリーだが、Primeメンバーならより満足できる。グルメ・グローサリー以上の場になろうとしている。

米国では、USPS (米郵便公社)が長引く売上低迷の対策として、現在週6日行っている郵便配達を週3~4日程度に制限することを検討している。配達荷物を増やすために、USPSはAmazonと契約したが、Amazonが不当に安い料金で配達を強いているとトランプ大統領がおかんむりだ。加えて、宅配荷物の盗難と、自宅への配達はトラブルばかり。オンランショッピングの体験を損なう大きな要因になっている。それでもオンラインショッパーは宅配を選び続けてきた。

Whole Foods受け取りにしたら、最初から最後までAmazonによる快適な体験で買い物を完了できる。その価値を評価する人が増えているのは、オンラインショッピングのこれからを考えたら、画期的な変化である。ちなみに7-Elevenやドラッグストア、スーパーなど、Amazonロッカーを設置する店が少しずつ増えている。今はまだプラス循環と呼べるほどの動きにはなっていないが、荷物を受け取りに来た人たち (マイクロトリップ)を買い物客にする工夫が広がり、顧客にとって受け取りに便利な場所、ついでに何かを済ませやすい場所が増えたら、ロッカーの設置ペースが加速しそうだ。