日本でも「Google WiFi」の発売で注目され始めたスマートなメッシュWi-Fi。米国では今月、Plumeというスタートアップが提供するメッシュWi-Fiがサブスクリプション型に完全移行し、スマート・メッシュWi-Fiのビジネスモデルを巡る議論が広がっている。

【Plume】 メッシュWi-Fiセット (フルWi-Fiデバイス×1、小型Wi-Fiデバイス×2):39ドル スマートWi-Fiサービス:年間60ドルまたはライフタイム200ドル

【Google WiFi】 3パックのセット:299ドル (現在279ドルの特別価格で販売中)

【Eero】 (スマートなメッシュWi-Fiデバイスを米国で最初に投入したスタートアップ) メッシュWi-Fiセット (フルWi-Fiデバイス×1、小型Wi-Fiデバイス×2):399ドル

接続が安定して高速、ネットワークを管理しやすく、安全性でも優れるのが、最近のスマートなメッシュWi-Fiデバイスの特徴になっているが、Plumeのデバイスはサービスを契約しないとスタティックなメッシュWi-Fiでしか機能しない。しかし、ハードウェアの価格が安いので、ライフタイムで一括払いしても最初の支払いは239ドルである。EeroとGoogleは、スマートWi-Fiサービスがデバイスの価格に含まれる。

整理すると2ベッドルーム+1リビングルームぐらいの規模に適した3台セットは、Plueme:239ドル、Google WiFi:299ドル、Eero:399ドル。

  • Plumeの「SuperPod」と「Pods」

サービスに値段を付けて稼ぐか、デバイス販売のみから儲けるか、ビジネスモデルの違いが価格の違いになっている。いずれもメッシュWi-Fiを管理しやすく、安定して高速な無線ネットワークを実現する。そうなるとPlumeの価格は魅力だ。しかし、表面上は同じでも、ビジネスモデルの違いは背後に及ぶ。

ルーターに接続したデバイスを把握し、その振る舞いを分析しながら動的に最適の通信環境にアップデートするサービスがスマートWi-Fiの肝になる。その最適化のための分析を、Plumeは全てクラウドで行う。対して、Eeroは顧客の保護を重んじて、WiFiルーター内で分析を行った上でクラウドを活用している。

すべてをクラウドで処理するPlumeの方がスピード感はある。だが、Eeroはユーザーに安心感を提供する。また、Plumeが倒産といった理由でクラウドサービスを提供できなくなったらユーザーのデバイスはベーシックなメッシュWi-Fiルーターになってしまうが、Eeroの主なスマート機能はデバイスだけでも動作するから、Eeroが倒産しても、ある程度はその時点のスマート・メッシュWi-Fiのまま機能する。

  • Eeroの「Eero」と「Beacon」

この春にグーグルの行動規範から「邪悪になるな(Don't be evil)」という有名なモットーが削除されたのが話題になった。オープンなウエブの進化を後押しするグーグルをよく表した言葉だったが、その一方で広告ベースの無料サービスでユーザーから収集したデータから収益を上げるビジネスモデルとの矛盾が指摘されていた。

今日のIT産業において、「邪悪になるな」のような崇高なモットーを掲げ続けられる企業である方が難しい。だが、Eeroはそんな会社の1つに数えられる。顧客中心を理念とし、スマートWi-Fiというユーザーのプライバシーに大きく関わるデバイスとサービスだからこそ、顧客に安心を提供するためにデバイスでのデータ分析にこだわる。対して、Plumeのビジネスモデルは「B2B2C (ビジネスtoビジネスtoコンシューマ)」、ケーブル企業や通信企業などインターネットサービスプロバイダーとのパートナーシップも大きな収入源としている。

個人的には顧客として信頼できるEeroを支持している。規格策定でNestが主導したのにGoogleのデバイスでサポートされなかったThreadに対応するなど、使い始めてから「うれしい発見」に気づくことが多い。しかし、そうした顧客中心の姿勢は消費者には見えにくいものだ。対して、価格の違いは値札で一目瞭然であり、スタートアップだけではなく、Googleや周辺機器大手もスマート・メッシュWi-Fiに参入し、競争が激化する中でEeroが苦戦しているのは否めない。

この秋に登場するモバイルプラットフォームの次期メジャーアップデート、「Android P (開発名)」と「iOS 12」では、デバイスやアプリの使用を管理する機能やペアレンタル・コントロールが強化される。スマートフォンやタブレットの使いすぎ対策の機能だが、説明通りに親が子どものアプリ利用を簡単に管理できるなら、子どもの誕生日にAppleが教育イベントで発表した新iPadを買い与えてもいいかなと思っている。つまり、わが家では使いすぎを抑えるための機能によって、逆に利用時間が増える結果になってしまうかもしれない。だが、時間つぶしの道具ではなく、ちゃんと活用されるなら増えても構わないと思っている。

「中毒」や「依存症」の問題になるほど便利なデバイスなのだ。1人が使うデバイス、家庭に存在するデバイスが増加する傾向は止まらないだろう。さらにスマートな照明や鍵、セキュリティカメラなどIoT機器の導入も増え、デジタルホームが便利になるほどに、破綻なく、そして安全に無線ネットワークを機能させることが重要になる。今はプラスαでしかない無線ネットワークのスマート機能が、いずれ必須になりそうだ。そのスマートはハードウェアとソフトウェア、そしてサービスの組み合わせで実現する。だからこそ、スマートWi-Fiを選択する際には、価格の背後にあるビジネスモデルまで確かめて、自分のニーズを満たす製品を選ぶのをオススメする。