2013年3月23日から、ICカード乗車券の全国相互利用がスタートした。

そこで試しに、手元にあるKitaca(JR北海道のICカード乗車券)で地下鉄に乗ってみたらちゃんと乗れたので(当たり前である)、相互利用が実現したことを実感できた次第。その後、さらにSuicaで名古屋市営地下鉄(manacaエリア)や近鉄名古屋線(PiTaPaエリア)にも乗車してみた。もちろん問題なく乗れている。

単にカードを認識すれば済む問題ではない

全国相互利用といっても、日本国内で使用しているすべてのICカード乗車券が対象になっているわけではないが、大都市圏とその周辺で使用している主要なものはおおむね網羅したといえる。念のためにリストアップしてみた。

  • Kitaca (JR北海道)
  • Suica (JR東日本)
  • TOICA (JR東海)
  • ICOCA (JR西日本・JR四国)
  • SUGOCA (JR九州)
  • PASMO (首都圏の各社局)
  • manaca (名古屋圏の各社局)
  • PiTaPa (近畿圏の各社局)
  • nimoca (西日本鉄道)
  • はやかけん (福岡市交通局)

ちなみに、その他のICカード乗車券も含めた相互利用の相関関係については、Wikipediaの図が詳しい。

それはともかく。日本国内で使用しているICカード乗車券は、一部の例外を除いて「Felica」をベースとする共通規格に基づいて実現しているため、カードや読み取り装置の仕様は共通である。だから、相互利用を実現するために自動改札機を取り替えたり改造したりといった作業は必要ないと思われるが、単に「他所のICカード乗車券も読めるようにする」というだけでは相互利用は成り立たない。

問題は運賃精算

ポストペイ(後払い)を使用しているPiTaPaは別として、その他のICカード乗車券は事前にチャージする方式である。ところが、相互利用することになると、チャージする事業者と運賃を支払う事業者が異なるケースが出てくる。

それをそのまま放置したのでは、事業者ごとの収入配分がおかしなことになる。実際、筆者自身も手持ちのSuicaを東京メトロや小田急の駅でチャージしたことがあるし、手持ちのKitacaのごときは購入時以外、すべてJR東日本エリアでチャージしている。

だから、相互利用の実現に際しては、カードごとに「チャージした額」と「事業者ごとの利用額」を突き合わせて、差分を事業者間で相互に精算する仕組みが必要になる。また、異なる事業者間をまたいで利用する際に、ノーラッチ乗り換え(改札を通らない乗り換え)や乗り継ぎ割引の適用など、いろいろと考慮しなければならない要因があるので、さらに話がややこしい。

個々のICカード乗車券ごとに割り当ててある固有の識別番号は発行元の事業者ごとに異なっているから、自動改札機を通過する際に識別番号を把握すれば、発行元の区別はつく。もちろん、個々のカードごとに精算していたらデータ量が増えすぎて洒落にならないので、すべてのカードについて事業者ごとにチャージ金額と利用金額の合計を出して、その差分だけをやりとりすることになるのだろう。

筆者の手元にあるSuica(上)とKitaca(下)。識別番号の先頭2文字がそれぞれ異なっているのが分かる

もっとも、この手の課題はICカード乗車券の相互利用以前から存在していた。ことに首都圏では、自社だけでなく他社の分までまとめて乗車券を購入できるケースが多かったからだ。相互乗り入れを行っている路線同士であれば、乗り入れ先の事業者までまとめて乗車券を発売する必要があるが、そうでなくても他の事業者まで乗車券を買えるケースは少なくない。

JRの駅で、接続している民鉄各線の分まで一括して乗車券を購入できる。これはICカード以前の時代から同じである。もちろん、後で各社との精算が必要になる(上野駅)

こちらは、同じ上野駅でも東京メトロ銀座線。東急東横線・東急田園都市線・東葉高速線について、一括して乗車券を購入できることが分かる

そして、国鉄の分割民営化でJR旅客会社6社が発足した時点で、相互に他社の乗車券を販売するケースが発生したが、こちらの方が話がややこしい。各社の境界で打ち切らなずに通しで乗車券を購入できるから、それを各社にどう配分するかというルールが関わってくるためだ。

いずれにしても、毎日のようにべらぼうな数の乗車券(ないしはそれに相当するICカードなどの利用)が発生しているわけだから、その膨大なデータをきちんと管理して、かつ事業者相互間の精算を実現するというのは、よくよく考えるとすごい仕事である。ITの助けがなく、これを人手に頼って実現しようとしたら、あっという間に破綻しそうである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。