なぜ次世代ロボットの市場を日本では形成できないのか?

比留川研究部門長に続く5人の研究者による講演にて、前回提示した2010年代に産業化が期待されている5つの次世代ロボット分野について取り上げていくつもりだが、最初の登壇となった比留川研究部門長の講演では、なぜそうした次世代ロボットの市場が形成されないか、という点が掘り下げられた。そのはっきりとした理由はわからないというが、確実に課題とされる点も3点あるという。「安全性が不十分」なこと、「効果が不明」なこと、「現在開発している企業が大企業過ぎる」ことを挙げる。

これら3点に対しては、まず上の2点に関しては、それぞれ国家レベルのプロジェクトや実証事業などが行われ、事態の改善が図られているか、そのための手段が模索されているところだ。安全性が不十分という点に対しては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「生活支援ロボット実用化プロジェクト」が進行中である。そして効果が不明な点に関しては、パーソナルモビリティなら「つくばモビリティ特区実証事業」が、介護機器に関しては経済産業省による「ロボット介護機器開発導入促進事業」などが行われている次第だ。

ちなみに比留川研究部門長によれば、効果が不明な点については、現状、自身も含めたロボットの研究者が、大金を投じて作りたいものをまず作って、それから「これ、どこかに使えませんか?」とやっていることが多いことも問題だ自嘲気味に話す。

本来は解決すべき課題があって、それに合わせて機器を作るべきなのが正しいし、そのようにして開発されたロボットももちろんあるわけだが、ともかく研究者が自己満足的に作ってしまっているケースも多々あり、それが「ロボットが使えるのかどうか効果が不明」という事態を招いてしまっていたというわけだ。

また3つ目の開発企業が大きすぎる点に関しては、例として本田技研工業(ホンダ)とその「歩行アシスト」を挙げる。ホンダは、歩行アシストに対して数10億円規模で売れるのではないかと見込んでいるそうだが、ホンダは8兆円という売り上げを誇る巨大な企業だ。仮に歩行アシストが40億円の売り上げを出したとしても、割合としてはわずか0.05%でしかない。

それにも関わらず、もし歩行アシストを装着した高齢者が、自分自身の不注意から転んでケガをしたとしても、まずセンセーショナルさで目を引きたいマスコミの多くが、間違いとも言い切れないのだが、「ホンダの歩行アシストを装着したお年寄りが転倒」という、ホンダの技術に問題があるような見出しで報道する可能性が高い。

そうするとどうだろう。本文では高齢者の不注意、と真実が書いてあったとしても、見出しのイメージで「ホンダのロボット技術はダメ」みたいな印象を世間一般に与えてしまわないだろうか。つまり、ブランド毀損のリスクが大きいのである。となると、0.05%の売り上げのために本格的な事業化に踏み切れるかというと、なかなか難しいはずだ。トヨタ自動車やパナソニックなどの大企業も、医療用や福祉・介護用などのロボットを開発中だが、同じことがいえそうである。

そこでロボット事業に向いているのが、目安として売り上げ1000億円ぐらいの「中規模」の企業ということだ。これならブランド毀損の心配も少ないとみてとれるというわけである(悪い見方だが、事故の報道記事ですら宣伝になる可能性もある)。とはいっても、なかなか規模的に自社が中規模だからといって、「じゃあ、やってみようかな」とそう簡単に判断する経営者もいないだろう。そこでそれをサポートしようというのが、ロボット介護機器開発導入促進事業である。このような形で、国がまずはサポートしていかないとダメだろう。とにかく、日本は技術はあるので、あとは市場を形成するためのあと一押しが重要というわけだ。