今年6月、著作権法改正法案が成立し、来年1月から施行されることになりました。その中で気になるのは「ダウンロード違法化」という点です。ファイル交換ソフトや一部サイトにおいて映像や音楽ファイルなどが著作権者に無断で配信されているケースは多々見受けられますが、改正法においては、無断配信コンテンツのダウンロードは明確な"違法行為"となります。

改正法では、通常のインターネット利用を萎縮させないために、違法とする行為の適用範囲を含めて配慮がなされてはいます。とはいえ、複雑な構造を持つ著作権法なので、理解することはなかなか難しいものです。今回は、改めて「どんな行為が違法なのか」「法に抵触する場合はどうなるのか」という点について見ていきたいと思います。(編集部)


【Q】海賊版音楽ファイルのダウンロードが違法になるって聞いたけど?

私は、今までいわゆるファイル交換ソフトを用いて、海賊版音楽ファイルなどのダウンロードを行ってきました。しかし、このたび著作権法が改正され、ファイル交換ソフトによる海賊版ダウンロードが許されなくなると聞きました。その内容と違反した場合の罰則について教えて下さい。


【A】著作権法の改正で違法になり、民事的な制裁が可能になりました。

著作権法の平成21年改正により、従来許されていた「私的使用を目的とする複製」も「著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」には許されず、著作権を侵害するものとされました。これにより、法形式的には、「Winny」などのファイル交換ソフトを用いて音楽や映像作品の海賊版(違法複製物)をダウンロードした受信者側にも民事的な制裁(差止請求や損害賠償請求)が可能となりました。ただし、その一方で、この形態の複製についての刑事罰の適用は見送られています。この改正法は平成22年1月の施行が予定されています。


「ダウンロード側の一定の行為」を違法化

ファイル交換ソフトによる違法配信には、通常、「送信者」「P2Pサービス提供者」「受信者」の3者が関与します。

現行の著作権法では、無許諾で著作物をインターネットサイトやファイル交換ソフトなどで公衆(特定かつ多数の人)に送信あるいは送信可能な状態にした場合には著作権侵害となる一方で、それをダウンロードした受信者側には著作権侵害は成立しないと考えられてきました。違法配信からのダウンロード行為自体は、著作権法上の「複製」(印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること)に該当しますが、現行著作権法第30条1項では、私的使用目的の場合には無許諾での複製が許されるとされているからです。

権利者以外の者によるファイル交換ソフトにおける著作物のアップロードは、著作権法から見て、その違法性は明確であるにもかかわらず、送信者の特定が困難であることから、民事的・刑事的な措置をとることは実際上困難な場合が多いとされます。

送信者に対する規制が難しい事を踏まえて、P2Pサービス提供者に対しても、現状、いわゆる「間接侵害」(直接侵害について手段を提供することで加担する者の責任の問題)として法規制が検討されているところです。

一方、著作物の違法配信について受信者側に対しても一定の対応の必要性があると考えられてきたものであり、今回の法改正はこの点の手当てをするものです。

ただし、こうした受信者側の責任の厳格化の要請がある一方で、多様な情報が流通しているために適法・違法の区別が必ずしも容易とはいえないインターネットの現状に照らせば、受信者側に対する規制は、適法なインターネット利用についてまで委縮させるのではないかと懸念する声もあります。

そこで、本件の改正にあたっては、違法とされる範囲を明確にすることを今後の課題として、ダウンロード側の一定の行為を著作権侵害として違法化することになりました。また、これに併せて、利用者の不安を除去するために、政府や権利者による法改正内容の周知徹底が図られるとともに、正規の配信を簡単に識別できるようにする「識別マーク」の推進などによる対処が検討されています。

どのような行為が違法となったのか?

著作権の保護期間内に著作物を利用しようとする場合には、権利者から利用許諾を得なければなりません。権利者の許諾なく著作物を複製した場合には、著作権侵害となります。先に述べた著作権法第30条1項はこの例外を規定したもので、私的使用目的の複製は権利者の許諾なく行うことができる旨を規定しています。

今回の法改正では、同法第30条1項に3号が加わり、私的使用目的の複製について、許されない場合としての例外が追加されました。いわば著作権侵害の「例外の例外」が加わったといえるものです。

新しく加わった著作権法第30条1項3号では、「著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音または録画を、その事実を知りながら行う場合」は、私的使用目的の複製の例外として著作権侵害となるとされています。

ここでいう「自動公衆送信」とは、公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として無線通信または有線電気通信の送信を行うこと)のうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものです。具体的には、データベースのオンラインサービスのように利用者の個別の要求に応じて著作物を送信する場合や、インターネットのホームページで利用者の求めに応じてファイルを送信する場合が考えられ、ファイル交換ソフトによる送信もこれに該当します。

また、「その事実を知りながら行う場合」の「その事実」とは、「著作権などを侵害する自動公衆送信であること」を指し、違法サイトであることや海賊版のやりとりが行われるファイル交換ソフトであることなどを承知の上で、音楽や映像作品のファイルをダウンロードして録音・録画を行うことは、著作権侵害成立の要件の一つとなります

改正法の特徴的な点として、従来の条文では「複製」という表現が用いられている箇所について「録音または録画」というように、「複製」よりも限定された表現が用いられている点が挙げられます。

著作物の複製方法はその著作物の種類に応じて異なり、「録音(音を物に固定し、又はその固定物を増製すること)」「録画(影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること)」に限られません。従って、違法サイトやファイル交換ソフトからのダウンロードの全てが違法となったわけではありません。例えばソフトウェアプログラムについては、改正による規制の対象となっておらず、権利者の側からは異論も出ています。

なお、改正法では、ネット上の動画をPC上で再生するために、キャッシュがPC上に残る場合を、著作権侵害の例外とする旨を明示する規定も設けられました(改正著作権法第47条の8)。こうした他の規定との関係から、単に動画配信サイトで配信される動画を見た際にキャッシュがPCに作成されるにすぎないような場合には、違法とはなりません。ただし、利用者がそれを改めて音声や映像ファイルとしてPC上で使用する場合には、他の規定により複製が許容される場合でない限り著作権侵害となる可能性があります(同第49条1項7号)。

文化庁「平成21年通常国会 著作権法改正について」 http://www.bunka.go.jp/chosakuken/21_houkaisei.html

違法行為を行ったらどうなる?

一般に、著作権侵害行為に対しては、民事的措置と刑事罰の適用が考えられます。では、本件の場合についてはどうでしょうか。

第一に、刑事罰の適用については、著作権法第30条の適用がない私的使用目的の複製は、違法性は重くないとして従来罰則の適用を除外されており、今回の改正でもこの点は維持されました

第二に、民事的措置についていえば、著作権法上の差止請求(著作権法第112条)、損害賠償請求(民法第709条)、不当利得返還請求(民法第703条)、名誉回復などの措置(著作権法第115条)が考えられます。このうち、本件のケースでは、録音・録画をした者あるいはしようとする者が、差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求を受けるという事態が考えられます。

無論、ネット上のサイトから、あるいはファイル交換ソフトによって音楽や映像作品のダウンロードを行っている利用者を発見するのは困難です。また、権利者がサイト運営者に対して、ダウンロードを行った利用者を特定するための情報開示を請求できる制度は現在のところ存在しません。こういった点から、改正法の実効性については必ずしも強くないといえます。

また、監督官庁である文化庁としても、「権利者団体においては、今回の改正を受けて、違法に配信される音楽や映像作品をダウンロードする行為が正規の配信市場を上回る膨大な規模となっている状況を改善するため、違法なダウンロードが適切でないということを広報し、違法行為を助長するような行為に対しての警告に努めるもの」としており、利用者への損害賠償請求をいきなり行うことは、基本的にはありません

仮に、権利行使が行われる場合にも、「事前の警告を行うことなど、慎重な手続を取ることに努めるよう、文部科学省から権利者団体に対して指導する予定」である旨を宣言しており(上記URL)、法改正を根拠とした即時の損害賠償請求権の行使については抑制的であるべきと現時点では考えているようです。

第三に、著作権法はそもそも複雑な構造を持っていることに加え、本件の改正は「例外に例外をさらに加える」というもので、法律になじみのない方には理解しにくいものです。 とはいうものの、著作権侵害の違法行為と明定された以上、違法配信サイトやファイル交換ソフトからの録音・録画は厳に控えて頂きたいと思います。

(白木健介/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/