ついに、北海道で打ち上げの成功を見る日が来た。筆者は10年近く、大樹町に打ち上げ取材で通っているのだが、じつはこれまで一度も成功するところを見たことが無かった。ここまで縁起が悪いと、さすがにそろそろ「取材お断り」になりかねず、筆者にとっても今回は背水の陣。7回目のトライでの成功に、とても安堵している。

  • CAMUIロケット
  • CAMUIロケット
  • 2010年3月のCAMUIロケットは、強風で打ち上げ延期に。そして筆者が撤退したら翌日に打ち上がった

  • はるいちばん
  • はるいちばん
  • 2011年3月の「はるいちばん」は、東日本大震災によって延期に。打ち上げどころでは無く、東京に戻るのも大変だった

  • ひなまつり
  • ひなまつり
  • 2013年3月の「ひなまつり」は、打ち上がらず射点で炎上。特撮番組ばりの爆発シーンは撮れたが……

  • MOMO初号機
  • MOMO初号機
  • 2017年7月のMOMO初号機は、打ち上がったものの霧で何も見えず。機体はMax Qで破損し、残念ながら宇宙への到達はならず

  • MOMO2号機
  • MOMO2号機
  • 2018年4月のMOMO2号機は、チェック作業の遅れで延期。その後、窒素ガスのリークも発生し、打ち上げを断念

  • MOMO2号機
  • MOMO2号機
  • 2018年6月にはMOMO2号機が再挑戦。しかし、離昇直後にエンジンが停止、機体は落下・炎上した

さて、筆者の立場はともかく、安堵しているのはインターステラテクノロジズ(IST)の関係者だろう。

新型ロケットの打ち上げ失敗は珍しいことではない。今は飛ぶ鳥を落とす勢いのSpaceXも、一番最初のファルコン1は、成功までに3回の失敗があった。今はオンタイム打ち上げが当たり前になった日本のロケットも、初の衛星投入では4回も失敗を繰り返した。これまでの事例を見ても、2回くらいの失敗は別に驚くことではない。

とはいえ、失敗を繰り返すことが許されるのは、資金があってこそだ。いくら超小型の観測ロケットであっても、開発には数千万円オーダーのコストがかかる。一度も成功していないロケットに大金を出してくれる顧客はいないし、いたとしても大幅なディスカウントは避けられない。成功しないことには、出費が大きくなる一方だった。

海外のロケットベンチャーに比べると、ISTは資金調達に苦労している印象がある。過去に実施したクラウドファンディングでは、1,000万円オーバーの資金が順調に集まったものの、これから本格化する超小型衛星用ロケット「ZERO」の開発に必要な金額は桁が違う。投資機関からの大口の資金調達は不可欠だ。

投資機関の腰が重い理由はちょっと良く分からないが、いずれにしても、今回、初めて宇宙に到達したというのは意義が非常に大きいだろう。

2号機に続き、3号機でもスポンサーとなったレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、今回は社内から反対の声もあったため、大半は個人としての出資だったことを明らかにしている。会見では「私にとっても背水の陣だった」と安堵の表情を見せたが、3号機が成功したことで、4号機以降のスポンサー集めに好影響が出るのではないかと思う。

  • MOMO2号機

    この爆発映像が世界中に流れ、ひふみ投信の知名度は確実に上がったとは思われるが……(提供:IST)

ロケットベンチャーの中には、ISTの堀江貴文取締役が「CGベンチャー」と呼ぶような、いつまで経ってもCGだけで実物が出てこないところも多い。実際に宇宙に到達したのは少数だ。ISTがその実力を示したことで、今まで様子見だった投資機関が動き出す可能性は少なくないだろう。

そして、開発資金もそうだが、同社に圧倒的に足りていないと感じるのは人材だ。筆者が見る限り、同社には優秀な若者がどんどん集まってきているものの、ZEROの開発を加速するには、それでもまだまだ足りない。今回、名実ともに宇宙企業となったことで、同社の門を叩く人材も増えてきそうだ。

  • 植松千春

    MOMO3号機プロマネの植松千春氏。同社では若い人材が確実に成長している

次の4号機からは、いよいよ本格的に事業化が始まる。

同社の稲川貴大社長によれば、「MOMOの打ち上げ価格は現状で数千万円程度で、将来的にはそこからさらに数百万円下げることを目指す」とのこと。数千万円オーダーであれば、企業1社でも出しやすい。同社は以前、「ポッキーロケット」で商業打ち上げを行った実績があるが、宇宙まで届けられるとなれば、使ってみようと思う企業も多いはずだ。

ポッキーロケットは、2013年11月11日に高度1,111mを目指して打ち上げられた

4号機の打ち上げ時期はまだ公表されていないが、稲川社長は「1年に何回か打てる体制は現状でも整っている」と述べており、年内に打ち上げるのはほぼ間違いないだろう。4号機については、設計を大きく変えることはないそうなので、3号機のレビュー状況によっては、早ければ夏が終わるまでに打ち上げることも可能かもしれない。

  • 稲川貴大

    ISTの稲川貴大社長(提供:nvs-live.com齋藤)

3号機の打ち上げ成功が伝わったとき、IST広報担当の笹本祐一氏が「指先だけやっと届いた」と語ったように、同社はまだ宇宙への入り口にたどり着いたに過ぎない。同社が目指すインターステラ(恒星間)空間はまだ遙か先だが、まずは同社の宇宙への船出を祝福しつつ、これから襲ってくるであろう荒波に負けない船作り、体制作りを期待したい。