インターステラテクノロジズ(IST)は3月19日、宇宙輸送サービスに関する事業戦略発表会を開催し、現在開発を進めている観測ロケット「MOMO」3号機と超小型衛星用ロケット「ZERO」の現状について説明した。サポート組織「みんなのロケットパートナーズ」を発足させ、ZEROの開発に協力して取り組んでいくことも明らかにした。

  • ISTの稲川貴大代表取締役社長。左はZERO、右はMOMO3号機の模型で、スケールはどちらも8分の1,AISTの稲川貴大代表取締役社長

MOMO3号機での改良点は?

同社は2018年6月30日、MOMO2号機の打ち上げ実験を行ったものの、離昇から4秒でエンジンが停止、機体は落下・炎上し、宇宙に到達するという目的を果たすことができなかった。当時の状況については、こちらの現地レポートを参照して欲しい。

参考:「MOMO2号機現地取材(再)」

回収した部品や、テレメトリのデータなどを解析し、原因の究明を進めたところ、2号機で新規に搭載した姿勢制御スラスタの燃焼器が設定範囲外で動作していたことが分かった。姿勢制御用のガスの温度が設計値以上の高温になり、配管が溶融。漏れた高温ガスがバルブを駆動するための配管を焼き切り、燃料の供給が止まったとみられる。

  • MOMO2号機の失敗原因

    MOMO2号機の失敗原因。再現実験を行ったところ、実際に配管が溶融した

3号機に向けて、改良を施したのは大きく2点。まずは配管形態の変更だ。2号機は、姿勢制御スラスタとメインエンジンへの燃料は、配管の途中で分岐させていた。しかし、この影響で燃料の流量が低下し、酸化剤の比率が増えた結果温度が上昇したとみられ、3号機では分岐はさせず、タンクから直接供給するようにした。

もう1つはインジェクタだ。2号機のものは、温度が上昇すると燃料が流れにくくなって、その結果さらに温度が上昇するという特性があった。3号機ではインジェクタの設計を変更し、こうした温度依存性を無くした。

これらの対策を反映して3号機の開発を進め、同社はCFT(Captive Firing Test)試験を実施。実フライトと同じ120秒間の燃焼に成功した。CFTは実機相当の機体を使って行う燃焼試験。同社は1号機と2号機では省略してきたのだが、ここで潜在的なリスクを全て出し切っておくため、3号機では実施する方針に切り替えた。

2019年3月1日に実施したCFT試験の様子。実機と同じ120秒の燃焼を行った

一連のCFT試験に成功したことで、技術的な課題はクリアしたと言える。次はいよいよ実機を製造して打ち上げとなるが、今回、打ち上げ日時についての発表は無かった。同社の稲川貴大代表取締役社長によれば、「近日中に機体公開を行い、そのタイミングで正式にアナウンスしたい」ということだ。

なお今回は、3号機のスポンサー契約について発表があった。実業家の丹下大氏、レオス・キャピタルワークス、日本創生投資の3者で、ネーミングライツを取得した丹下氏により、ロケットの名前は「宇宙品質にシフト MOMO3号機」となった。レオス・キャピタルワークスと日本創生投資は、機体にロゴが掲載される。

  • MOMO3号機の実物大モックアップ

    会場に展示されていたMOMO3号機の実物大モックアップ

会見で、丹下氏は「次の産業は、息子の世代には宇宙が来る。息子の世代への橋渡しができれば」、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は「2号機の失敗で泣いている男の子がいた。この子にまた来てもらって、3号機が宇宙に行く瞬間を見せたい」とコメント。日本創生投資の三戸政和CEOは「インターネット黎明期を彷彿とさせる宇宙ビジネスへの挑戦を後押ししたい」とメッセージを寄せた。

  • 実業家の丹下大氏

    実業家の丹下大氏。SHIFTの代表取締役社長だが、今回は個人として出資

  • レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長

    レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。2機続けてのスポンサーに

ZEROの初打ち上げは2023年に

MOMOの改良にめど処が付いたこともあり、今後、いよいよZEROの開発を本格化させる。これまでは基礎研究の段階だったが、PM(プロトタイプモデル)の開発をスタート。その後、2020年にEM(エンジニアリングモデル)、2021年にFM(フライトモデル)と開発をステップアップし、初号機は2023年に打ち上げる予定だ。

  • ロケットの開発計画

    ロケットの開発計画。MOMOとZEROの開発を平行して進める

近年、世界的に超小型衛星の需要が拡大している。稲川社長は、「今後5年間で2,000機以上の超小型衛星が打ち上げを待つと予想されるが、実際の打ち上げ機会は現在、年間30本程度しかない」と指摘。「世界的なロケット不足を解消したい。そのために開発しているのが我々のZEROだ」と述べた。

  • 超小型衛星用ロケット「ZERO」のイメージCG

    超小型衛星用ロケット「ZERO」のイメージCG (C) IST

拡大する市場でシェアを確保するには、なるべく早くロケットを実用化したいところだが、MOMOの失敗もあり、ZEROの打ち上げ予定はすでに当初の2020年から3年遅れている。超小型衛星用ロケットとしては、Rocket Labの「Electron」がもう運用中であり、競争を大きくリードしている。

Rocket Lab以外にも、多くのロケットベンチャーが開発を進めているところで、一説には100社あるという話も。厳しい競争になりそうだが、稲川社長は「各社の開発状況を見ると、実質的な競合は数社で、我々も大きく遅れてはいない。きちんとこれから開発できれば、世界で負けないロケットが作れる」と強気だ。

だが、サブオービタルのMOMOと、オービタルのZEROの間には、非常に大きな開きがある。全長は22mと2倍強なものの、重量は36tと約30倍も違う。より強力なエンジンが必要で、第1段ではクラスタ化を行う。またMOMOは高圧ヘリウムで推進剤を押し出しているが、技術的に難しいターボポンプの開発も必須となる。

  • ZEROのスペック

    ZEROのスペック。2段式で、第1段には60kNエンジンを9基搭載する

技術的にも資金的にも難易度が大きく上がるZEROの開発は、同社単独では困難。そこで発足させたのが、今回発表したみんなのロケットパートナーズである。

パートナーとして参加しているのは以下の企業や自治体。それぞれ、得意な分野でISTをサポートしていく。

  • 丸紅
  • 北海道大樹町
  • レオス・キャピタルワークス
  • 日本創生投資
  • キャステム
  • ユーグレナ
  • バスキュール
  • 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
  • みんなのロケットパートナーズの発足記念

    みんなのロケットパートナーズの発足を記念し、鏡開きも行われた

この中で、特に大きいのはJAXAの存在だろう。JAXAは言うまでも無く、日本の宇宙開発の中心機関だ。JAXAは現在、民間と協力して新しい宇宙事業を創出する「宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)を推進しているところで、今回はこの枠組みを利用して、ZEROのエンジン開発で協力していくという。

具体的には、JAXA角田宇宙センター(宮城県)の設備を使って試験を行うほか、ISTからのエンジニアも受け入れて研究開発に協力する。同センターはエンジン開発で長い歴史があり、H3ロケットでもターボポンプの試験などを実施してきた。ISTにとってターボポンプはノウハウがまだあまりなく、この連携は心強いはずだ。

日本の宇宙ベンチャーは、アクセルスペースやispaceといった"ロケットに乗る側"が数10億円~100億円規模の資金調達に成功している反面、"ロケットを作る側"への投資が少ない。JAXAの参画というのは、そうした投資マインドへ与えるポジティブな影響も期待できるかもしれない。

  • イベントの最後

    イベントの最後には、同社ファウンダーの堀江貴文氏と、FC今治オーナーの岡田武史氏による対談も行われた