2022年10月1日、ソニーグループのR&Dセンターは、kWクラスの出力ピークを持つチップスケールのモノリシックな半導体・固体垂直統合レーザの提案という内容の論文を『Nature Communications』にて投稿した。彼らによると、コンパクトな高ピーク出力レーザを実現するために半導体レーザと固体レーザを統合したものだという。
では、なぜソニーグループのR&Dセンターは、このレーザを開発しようとしたのか。また、このレーザはどのようなものなのか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
高ピーク出力のコンパクトな半導体・固体垂直統合レーザとは?
ソニーグループR&DセンターのJianglin Yue氏らは、kWクラスの出力ピークを持つチップスケールの半導体・固体垂直統合レーザに関する論文を『Nature Communications』に投稿した。では、なぜ彼らは、このkWクラスの出力ピークを持つチップスケールのモノリシックな半導体・固体垂直統合レーザを開発したのだろうか。
高ピーク出力の固体レーザは、さまざまな分野で活用されている。例えばリモートセンシング分野では、人工衛星に搭載され、地球の雲や風向き、風力など観測したり、温室効果ガスであるメタンガスの状況調査などに使われている。他にも、レーザマイクロマシニング分野でのフェムト(10-15)秒レーザ微細加工や、生物医学フォトニクス分野での内視鏡を使った低侵襲レーザ手術などに使われている。
しかし固体レーザでは、媒質は誘電体またはガラスで構成されており励起用の外部レーザが必要なため、コンパクトなチップスケールでの高ピーク出力レーザは実現が困難だという。システムの大型化と組み立てコスト増大がデメリットであり課題なのだ。
そこで研究チームは、コンパクトな高ピーク出力レーザを開発すべく、半導体レーザと固体レーザをモノリシックに集積し、垂直外部共振器面発光レーザ(VECSEL)を共振器内励起源として採用する方式を選択した。
以下の模式図をご覧いただきたい。模式図の下部にInGaAs quantum well(量子井戸)がある。VECSEL cavityは、両端にある2つの高反射(HR)層と中間の部分反射(PR)層で構成されている。VECSEL cavityには、Yb:YAGでの吸収以外の出力結合はない。1030nm Passively Q-switched laser cavityは両端に2つの反射層があり、そのうち1つはHR層で、もう1つはレーザ発光の出力カプラーとして機能するPR層。Yb:YAGは固体ゲイン媒体として選択され、940nm励起レーザと1030nm Q-switchedレーザ発振の組み合わせにより、高い量子効率が期待される。VECSEL共振器内にあるInGaAs量子井戸に電流を注入することで、940nm励起レーザと1030nm Passively Q-switchedレーザが連続発振し、高いピーク出力の短パルスが放出されるという仕組みだ。
いかがだったろうか。彼らによると、これはコンパクトな高ピーク出力レーザを実現するための半導体と固体レーザのモノリシックなものとして初めての技術だという。論文には、チップスケールの半導体・固体垂直集積レーザのデモンストレーションにおいて、1mm3というコンパクトなレーザで57.0kWの推定ピーク出力、450ps(10-12)のパルス幅という出力を実現したと記載がある。これにより、リモートセンシング・レーザマイクロマシニング・生物医学フォトニクスの分野に大きく貢献することだろう。