艦艇に限ったことではないが、「現用中の装備品が老朽化しました、能力的にも見劣りするようになってきました。そこで新しい後継装備を開発・調達して置き換えます」という話が出る。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
すべてを一斉に一新するとリスクが増える
そこで車両・艦・航空機といったプラットフォーム(いわゆるドンガラ)と、そこに搭載する武器やセンサーやコンピュータ(いわゆるアンコ)の両方を新規開発すれば、一気に能力向上を図ることができる。
それはそれでメリットがある話だが、ウェポン・システムの高度化・複雑化とコスト上昇により、単純に喜べない話になってきた。何もかも一斉に新規開発するということは、それだけ開発リスクも増えるということだからだ。
もちろん「新しい酒は新しい革袋に」という考え方にも理はある。しかし、だからといって開発に難航したり、著しいコスト超過に見舞われたりして、開発計画そのものがおじゃんになってしまったのでは、身も蓋もない。
米陸軍のFCS(Future Combat System)がいい例だが、ラジカルな大風呂敷を広げれば、それだけ開発に際してのリスクは大きくなるし、失敗したときのダメージも大きい。もうちょっと堅実かつ確実なアプローチはないものか。
26型の装備を23型に先行導入
といったところで、イギリス海軍の話である。イギリス海軍では現在、1990年代に建造した23型ことデューク級フリゲートが古くなってきたため、後継艦を建造する計画を進めている。そのひとつが26型で、BAEシステムズのGCS(Global Combat Ship)がベースとなっている。
ところが、その26型に搭載する装備の一部を、既存の23型フリゲートに先行導入している。26型が出てくるまでにはまだ時間がかかるし、計画している8隻がすべて出そろうまでにはさらに時間がかかる。その間は23型も使い続けなければならないので、受容可能な範囲で延命・能力向上改修を実施して使い続ける必要がある。
外から見たときの主な変化としては、114mm艦載砲がステルス・シールド付きに変わったとか、垂直発射型シーウルフ艦対空ミサイルが新形のCAMM(Common Anti-air Modular Missile)に変わったとか、マスト頂部に設置された対空レーダーが新形のARTISAN(Advanced Radar Target Indication Situational Awareness and Navigation)に変わったとかいう点が挙げられる。
このうちCAMMとARTISANは、26型でも導入する装備。また、CAMMは45型駆逐艦にも追加搭載することになったし、ARTISANはクイーン・エリザベス級空母でも使っている。複数の艦で同じ装備を使えば、調達も維持管理も合理化できる。
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同じ23型の「モントローズ」を俯瞰する。艦首の114mm艦載砲はステルス・シールド付きに換装され、その後方のシーウルフ艦対空ミサイル用垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)も、新しいCAMM (Common Anti-air Modular Missile)用の “キノコ型” VLS に換装された 撮影:井上孝司
2クラスのフリゲートに的を絞ると、26型で導入する装備を既存の23型で先行導入、という話になる。ドンガラとアンコの開発が同時並行的に走るのではなく、いわば交互躍進になっているわけだ。すると、新しいアンコは既存の実績ある艦に載せることになるし、新しいドンガラにはすでに実績があるアンコを載せることになる。
おそらくは、こうすることでコストとリスクの抑制、調達と維持管理の合理化を図るという考え方がある。所帯が小さい海軍ならではの工夫といえる。もちろん、「必要とされる能力を実現できること」という前提条件を満たした上でのことだが。
アーレイ・バーク級フライトIIIとDDG(X)の関係も同じ
米海軍でも同じような話がある。1990年代から延々と改良しながら建造が続いているアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦だが、さすがにスペースや重量の限界に達しており、これ以上の発展は難しい。そこでプラットフォームを一新する、DDG(X)という計画が動き始めている。
DDG(X)では艦の設計を一新して、レーザー兵器をはじめとする新種の兵装に対応できる基盤を作ろうとしている。艦艇に載せる「電気製品」の数や種類は増える一方だから、DDG(X)では統合電気推進を導入する方向にある。とはいえ、現時点で出回っている想像図を見ると、ズムウォルト級ほどラジカルではない。
プラットフォームはかように一新する構想だが、そこに載せる戦闘システムの方は、すでにアーレイ・バーク級フライトIIIで実績を積み上げたものをそのまま持っていく考えとなっている。つまり、イージス戦闘システム・ベースライン10と、AN/SPY-6(V)1レーダーの組み合わせである。
細々した付帯設備(対水上レーダーなど)は新しくなるようだが、中核となる部分が同じであれば、その分だけ開発リスクは抑えられる。そもそも、水上戦闘艦をアーレイ・バーク級で揃えていること自体、多種多様なウェポン・システムを併用するよりも合理的な考え方ではある。
スウェーデン海軍では、ゴットランド級潜水艦・3隻を対象とする近代化改修に際して、建造中の新形・A26型ことブレーキング級で用いるのと同じ技術や装備を移入している。これも基本的な考え方は同じといえる。
F/A-18E/Fが発端か
実は、こうしたアプローチはDDG(X)が最初ではない。空の上にすでに先例があって、それがF/A-18E/Fスーパーホーネット。レガシーホーネット(F/A-18A/B/C/D)と似て見えるが実際には新設計といえるエアフレームと新型エンジンの組み合わせだが、搭載するミッション・システムはF/A-18C/Dから引き継いだ。
それが当初のブロックIだが、ブロックIIではAN/APG-79レーダーを初めとして、ミッション・システムの部分を新形化した。つまり、機体とミッション・システムを交互に新形化している。先に挙げた、23型に対する26型、アーレイ・バーク級フライトIIIに対するDDG(X)の関係と同じである。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。