Webの世界が広告収入によって支えられているように、急速に変化を続けるコンピューター関連の技術革新には、常に広告という存在が寄り添っていました。モバイル広告も例外ではありません。2016年、グローバルにおけるモバイル広告は対前年度+48%、800億ドルという巨大な市場へと急成長を遂げています。

IoTも同様に成長していくと考えられ、2020年までに2670億ドル規模にまでなることが見込まれています。広告での活用については、まだ模索段階ではあるものの、iPhoneが2007年に発売されたとき、モバイル広告の市場がここまで巨大になると予想できなかったように、IoT広告もまた巨大なビジネスになっていく可能性を秘めています。

今回はGlassViewがこれまでに手がけたさまざまのIoT広告キャンペーンを通じて収集した知見と、そこから予想される今後のロードマップについてご紹介します。

これまでに得られた知見

IoT広告に対して、現状、ほとんどの広告代理店が様子見をしています。一方でGlassViewでは、昨年よりペンシルベニア大学のWharton Future of Advertising(WFoA、ウォートン広告の未来)プログラムと連携して、IoT広告の研究に積極的に取り組んでいます。この研究は「All Touchpoint Value Creation Model(全方位タッチポイント価値創出モデル)」をベースとしていますが、これについてはWFoAのエグゼクティブディレクターCatharine Hayes(キャサリン・ヘイズ)とウォートンの教授Yoram Jerry Wind(ヨラム ジェリー・ウィンド)の共著「Beyond Advertising(広告を超えて):WFoA刊」にその概要が示されています。

私たちは現在もウォートンと密に連携をし、今回の研究の最終的な結論や知見を導き出すべく、精力的に活動しています。そして、研究を続ける中で以下のような消費者インサイトが得られました。

* ウェアラブル端末およびIoTの利用者のうち、最も人数が多い年齢層は35~44歳であり、中間値は38歳。男女比では均等だが、わずかに男性に偏りがあり、またテクノロジーのアーリーアダプターが占める割合が大きくなるという傾向が見られる。
* ターゲット層の特徴としては、テクノロジーに関する知識が豊富。複数のソーシャルネットワークプラットフォームに登録しており、ライフスタイルは活動的で、都市生活者が多く、可処分所得は大きい。また、インターネットに接続している時間が非常に長い。。
* ウェアラブル端末を使用した活動は午前中に活発に行われているということもわかった。これは、フィットネスや通勤に関連しているためと考えられる。

私たちはさまざまなクライアント企業に対して、ウェアラブル端末(主にAndroidをベースとしたスマートウォッチ)を活用したキャンペーンを実施しました。

具体的な実証実験データとして、あるアメリカの大手ラグジュアリー自動車メーカーのキャンペーンにおいて、5~15秒の長さの動画広告を下記のような属性に配信した結果、ブランド認知度の向上に大きな効果を発揮しました。

地域:米国
ターゲット:40代中盤の既婚男女、富裕層。リスクテイカー、グローバルマインド、カリスマ的、確立された価値観やライフスタイルを持ち、旅行好き
配信量:約30万ユニークユーザー

ブランド認知度の向上率は144パーセントという大きな数字を記録し、ブランド好感度が490パーセントも上昇しました。自動車メーカー以外でも、スポーツブランドのブランド親近感は212パーセントもアップするなど、ブランディング指標ではポジティブなリフトアップ効果がみられました。

残念ながらこの事例では、購買意欲という点では大きな効果は得られませんでした。というのも、IoT広告はブランド認知度の向上には効果的ではあるものの、すぐに売上に貢献するわけではありません。カスタマージャーニーの中で、どこのタッチポイントとして活用するかをしっかり戦略を立てることが重要になってきます。

まだまだ不確定な要素も多くありますが、ひとつ確実に言えることは、動画広告キャンペーンによって人々の注目を集めることができたということです。目新しさで消費者の注意力を引きつけた点を差し引いても、視認性という点では、そのほかの端末よりも優れていると言えます。

さらに、もう1つキャンペーンを通じて確認できたことがあり、広告は短ければ短いほどよいということです。IoTにおけるターゲット広告では、5秒が最も効果的な長さであると考えています。それは、5秒間あればメッセージをしっかりと伝達することができ、しかも受け手にとっても過度の負担にならないからです。

これからのIoT広告と消費者のプライバシー

私たちはIoTを実験室のようなものとして考えています。広告メッセージのテストを行い、何がうまく機能し、受け取ったメッセージに対して消費者がどのように反応するのかを確認することができます。これまでのところ結果は良好ですが、消費者の広告に対する許容範囲を広げ、よりエンゲージメントを高めていくことに、細心の注意を払っています。企業がIoT広告を成功させるためには、ユーザーのパーソナルデータの侵害という一線を越えることなく、データに基づくメッセージの発信を実現させる必要があります。そのためには、消費者のプライバシーに対して高い意識・モラルが重要です。この点に関して私たちは、たとえターゲット絞り込みの度合いは低くなったとしても、消費者のプライバシーを侵害していると疑われるようなことは避けるべきだと考えています。

IoT広告は、今はまだ初期段階ですが、今後数年間で大きなカテゴリーへと成長していくだろうと私たちは予想しています。前述の「Beyond Advertising」でも「ブランドは生き残るためには、人々から歓迎される(愛される)つながりを作り出さなければならない」と、述べられています。IoTを活用した新しい広告のあり方も、広告主のブランドメッセージを進化させ、ターゲットオーディエンスと価値のあるコミュニケーションを構築していくための革新でなければならないと私たちは考えています。

参考リンク

MAGNA ADVERTISING FORECASTS SPRING UPDATE (JUNE 14, 2017)
Boston Consulting Group market analysis, Winning In IoT, It’s All About The Business Processes. (JANUARY 05, 2017)
GlassView CEO James G. Brooks Jr. to Collaborate with the Wharton Future of Advertising Program on Research into the Future of Digital Video

MG(マイケル・ゴーフロン)

元IAB(Interactive Advertising Bureau)デジタルビデオ委員会の共同会長。現在は、ソーシャルビデオ・プラットフォーム、GlassView(グラスビュー)の創設メンバーとして、最高ブランドセーフティ責任者を務めている。これまでに、MTV、コンデナスト社をはじめ、テレビ業界、パブリッシャー大手、広告代理店、動画アドテック企業を経験。20数年に渡るキャリアをデジタル広告業界に捧げている。2014年にはIABデジダルビデオ委員会の共同会長に抜擢され、現在のオンライン広告のおける技術的標準規格の策定・法整備に携わった。