筆者はかなり前から、1 on 1を直属の部下や部門のメンバー全員と行っています。たしか、かれこれ30年ほど前のマイクロソフト時代がスタートだったと思います。1 on 1研修を受けたとき、1 on 1は部下のキャリアを中心に話しなさいと教えられた記憶があります。
一般的に1 on 1の効果は以下のように多いです。
・従業員のエンゲージメントの向上
・チームメンバーの成功
・人間関係の構築
・ダイバーシティ&インクルージョンの推進
・部下の成長 / 能力開発の促進
・マネージャーの成功
なぜチームメンバーの成功かというと、マネージャーになり等級が上がれば上がるほど、部下の成長で評価されるからです。1 on 1で部下の成長を促進することは、結局は自分に有利に跳ね返ってきます。それに、部下の成長を見るのはとても楽しいです。
書籍『世界標準の1on1 科学的に正しい「対話の技術」のすべて』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 著者:スティーヴン・G・ロゲルバーグ)によると、1on1を定期的に行わないマネージャーの部下のエンゲージメントは平均するとわずか15%だったのに対し、1on1を定期的に行うマネージャーの部下のエンゲージメントはその約3倍高かったそうです。1 on 1はすごいパワーですね。
この書籍によると、全体の会議の20%から50%が1 on 1で、毎日、地球上で2億件実施されていると推定されるそうです。すごい数!今では、1 on 1は日本の職場でも当たり前に行われています。
しかし、この1 on 1。実は、部下側の約半分が「適切ではない」と感じているという、ちょっとショッキングなデータがあるのをご存じですか?なぜ、そんなミスマッチが起きるのか。理由はシンプルです。多くのマネージャーが1 on 1を業務の進捗確認の場だと勘違いしてしまっているからです。
本来、1 on 1の主役は部下です。マネージャーはあくまでも聴き役です。「成長を支援する」「信頼関係(ラポール)を築く」「個人のキャリアに寄り添う」「組織と個人のベクトルを合わせる」。この4つの目的を忘れてはいけません。1 on 1は、あなたが指示を出す場ではなく、部下が安心して「自分」を出し、成長の種を見つけるための時間なのです。指示を出したり、進捗を確認したりするのは、別の場や報告書で聞けばいいのです。
ちなみに、ラポール(Rapport)とはフランス語が語源で、心理学の用語で、二人の間の心が通い合い、互いに信頼し、リラックスして交流できる関係性のことです。部下とラポールを作りなさいとマイクロソフトのリーダー研修で教わった記憶があります。
1 on 1の実施には"こつ"があります。それをかいつまんで紹介します。
かならず定期的に実施する
1 on 1はルーチン化して、かならず定期的に実施してください。1 on 1を実施しないと、類似性バイアスによって同種の人と交わる傾向が強くなり、多様性が損なわれる可能性があるからです。
それに、半年や一年間隔の人事評価だけだと直近の印象が強く出てしまうので、それを避けるためには普段からの会話が大切です。1 on 1の頻度は、一般的に週一度や隔週で実施することが多いのではないでしょうか。等級が上がるほど頻度が多くなるとの報告もあります。
そして、なるべくキャンセルはしないことです。どうしても都合がわくるなった場合は、リスケをします。そうでないと、重要な場だという認識が薄れてしまいます。
アジェンダは部下が決める
事前にアジェンダがあった方が1 on 1の評価は高くなります。基本は部下単独、または、部下と一緒にアジェンダを作ります。1 on 1の前に、Notionなどに部下が話したい内容をリストアップしてもらうのが効果的です。絶対避けるべきなのは、マネージャーだけでアジェンダをつくることです。だれのための1 on 1かが分からなくなります。
1 on 1進め方は、次のようになります。
・前回の1 on 1を振り返る
・感謝していることを伝える
・アジェンダを確認する
・アジェンダに沿って聞きフィードバックを行う
・最期にマネージャーのアクションアイテムを確認する
もちろん部下に応じて、アジェンダは変えます。部下によって、部下の業務によって、成熟度が異なるからです。ときには、マネージャーへのフィードバックを求めるのもいいでしょう。Notionなどを使って、部下ごとにアジェンダとメモを残す場所を作るのもいいと思います。
耳だけでなく、目と心で"聴く"
1 on 1で一番やってはいけないこと、それはマネージャーが話しすぎることです。全体の50%~90%の時間は部下が話すように我慢です。筆者がよくお伝えしているのは、「聞く」のではなく「聴く」ということ。門の隙間から音を拾うのではなく、耳と目と心を添えて、相手の真意を汲み取るのです。
共感も大事です。共感は、相手の視点に立って物事を見ることです。これは全に同意することではありません。相手の考えや状況を理解することです。
ここで効いてくるのが、非言語コミュニケーションです。共感はボディーランゲージに出ます。有名なメラビアンの法則では、言葉そのものが相手に与える影響はわずか7%。残りの93%は、表情や声のトーンといった「非言語情報」です。
リモートであっても、カメラ越しにしっかりと頷き、豊かな表情で「あなたの話を聴いていますよ」というサインを送り続ける。その姿勢が、部下の心理的安全を生み出し、本音を引き出す鍵になるのです。怖い顔で会議するなど、もってのほかです。
思考を深める「問い」の魔法をかける
部下が話し始めたら、あなたは「思考の伴走者」になってください。人間は、具体と抽象を行ったり来たりすることで思考が深まります。これは、書籍『「僕たちのチーム」のつくりかた メンバーの強みを活かしきるリーダーシップ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 著者:伊藤羊一)の受け売りです。
・「具体」へ落とす:「なんだかモヤモヤします」→「具体的に、何が原因でそう感じるのかな?」
・「抽象」へ上げる:「こんなことがあって困りました」→「つまり、本質的な課題は何だと思う?」
また、「なぜ(Why)」と問い詰めてはいけません。「なに(What)」を聴くようにしましょう。「なぜできなかったんだ?」ではなく、「何がハードルになったのかな?」と聴く。そうすることで、部下の視点は自然と客観的な事象へと移り、前向きな解決策が見えてくるようになります。
一人一人と向き合うことが、最強のチームを作る
どれだけチャットツールが発達し、チーム全体の交流が増えても、1 on 1という個別の対話に代わるものはありません。あえて業務を離れ、一人の人間として、相手の人生や関心事に心から寄り添ってみてください。
筆者は1 on 1の冒頭で、できるだけプラベートな話題を聴きます。週末は何していたの?とか、ご家族はどう?とか。そうすることで、あなた個人に関心がありますとサインを送るのです。人は大切にされていると感じたとき、最高の仕事をするものです。
そして、感謝を伝えることを忘れないでください。感謝には、単に「褒める」こと以上の心理的・組織的なメリットが凝縮されています。
「大切にされている」という実感こそが、エンゲージメントを高め、自律的な組織を作る一番の近道です。さあ、次の1 on 1では、パソコンを閉じて、相手の目を見て、静かなワクワクを持って話を聴くことから始めてみませんか?
