「自動運転車の量産となるとかなり先になろうが、ON Semiconductorはそのためのセンサに注力していく」。このように述べたのは、同社Automotive Sensing Division、Intelligent Sensing GroupのVP兼ジェネラルマネジャーのRoss Jatou(ロス・ジャトウ)氏(図1)。「自動運転は人命を救うことが第一。ここに情熱(パッション)を注ぎ、イメージセンサだけではなく、レーダーやLiDAR(Light Detection and Ranging)、さらにそれらを融合するセンサフュージョンに集中する」と、情熱という言葉を交え、自社の車載ビジネスの方向性を表現する。

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    図1 ON Semiconductor社Automotive Sensing Division、Intelligent Sensing GroupのVP兼ジェネラルマネジャーのRoss Jatou氏

自動運転が可能になるためには、安全基準のレベルを現在のレベル2からレベル4へ上げる必要がある。レベル4はおそらく2022年以降になると見ているが、その実現のためには、クルマの周囲を検知するセンサとして、同社が従来から手がけてきたCMOSイメージセンサだけでは不完全だという。イメージセンサはあくまでも可視光を検出するため、霧や吹雪のような悪天候では見えなくなり、使えない。このため同社は、可視光に代わる79GHz帯のミリ波レーダーICとLiDARの受信用3次元ToF(Time of Flight)イメージセンサを開発した。レーダーはクルマの周囲にある物体を検出し、LiDARはその物体との距離を計算し、前方になるならその距離からブレーキをかけるべきかを判断するために必要だからだ。

レーダーは認証を獲得

79GHzのSiGeプロセスを利用した車載向けのレーダー・トランシーバーチップである「NR4401」(図2)は、日本の無線設備に関する認証試験機関であるテレコムエンジニアリングセンター(TELEC)の認証をすでに取得済みだとJatou氏はいう。79GHzの電波を発射し、返ってくる電波を検出し、その差を距離として算出する。発射(送信)する電波には高速チャープ信号を4チャンネル、受信する反射波も4チャンネルをサポートしている。

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    図2 79GHzのレーダーIC「NR4401」の概要 (出典:ON Semiconductor)

79GHzというミリ波では、電波は遠くまで届きにくい。このためMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナとビームフォーミングを使って、指向性を強くし遠くまで飛ばせるように工夫している。ここではトランシーバチップと4×4のMIMOアンテナを組み合わせながら、短距離と長距離の2つを切り替えることができる。遠くまで飛ばすようにビームの広がりを位相と振幅で調整する。ただし、5Gのミリ波とは違い、高度のデジタル変調をかけるわけではなく、簡単な高速チャープ信号変調ですませている。長距離と短距離をスイッチで切り替えるだけであるため、2個のトランシーバICと1個のマイコンでレーダーを構成する。

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    図3 NR4401を用いたデモの様子。左がRange(距離)とVelocity(速度)の相関図

LiDAR映像を検出するシステム

LiDARシステムでは、クルマからすぐ近くの短距離(3m)と長距離(100m)にある物体を検出する。短距離では、レーザー光はレンズなどで広げ、フラッシュのように一瞬で照射しその反射光を受けるが、今回のシステムでは、100×400画素のSPAD(Single photon Avalanche Photodiodes)の2次元アレイで受光する(図4)。

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    図4 SPADアレイを用いたLiDARシステムの仕組み (出典:ON Semiconductor)

これに対して長距離では、レーザービームを空間的にスキャンする必要がある。ビームを上下に振りながら、左右にスキャンする。レーザー側にビームステアリングのためのMEMSがセットされている。これに対してもレーザー光を受ける側にエリアアレイを使う。レーザーの波長は905nmのIR(赤外線)が最適だという。

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    図5 SPADアレイセンサを用いたデモ。わかりづらいが、短距離と長距離の測定結果を1つの画面上で表示している

そこで、SiウェハのCMOSプロセスを用いた。LiDARシステムに使われる部品にはレーザーダイオードやビームステアリングICに加え、レーザー駆動回路、受光回路、タイミング発生回路、ヒストグラム発生器、ポイントクラウド発生器、電源ICなどがある(図6)。これらの内、同社が有している技術で過半数を賄うことができ、光学系とレーザーなどの送信系は外部ベンダーを使う。

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    図6 LiDARシステムとON Semiが供給できる回路 (出典:ON Semiconductor)

今回はSPADアレイイメージセンサを開発したことで、2次元画像として物体を検出できる。物体の奥行き情報は色を変えることで表現できる。

ダイナミックレンジの広いCMOSセンサは量産開始

ON Semiは今回、CMOSイメージセンサで、LEDランプのフリッカー抑制とダイナミックレンジを140dBと広げたHayabusaファミリ製品の第一弾である、260万画素の「AR0233」の量産を開始した。この製品は、130万画素から460万画素の2次元SPADアレイの共通アーキテクチャを持つ製品である。

参考:カーエレクトロニクスの進化と未来 第114回 信頼性重視で市場シェアをさらに高めるON Semiconductor

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  • 図7 Hayabusaファミリの第一弾「AR0233」(左)と従来型CMOSイメージセンサ(右)のデモ比較。従来ソリューションではLED照明にフリッカーノイズが生じている様子が見えるが、AR0233ではフリッカーノイズは見当たらない

また同社は、社内のドライバーの居眠りやスマートフォンの操作による不注意などを喚起するためのIVEC(In-Vehicle Experience Camera)モジュールに関しても言及、3Mとパートナーを組みカメラを設置するシステムを提案している。これは事故の94%がドライバーに起因するものであることから、ドライバーからは見えないようにカメラを設置するという提案だ。3Mはドライバーからは見えないカモフラージュフィルムを開発、カメラに被せてドライバーからは見えないような位置に設置する。車室内モニタリングカメラの普及を加速するための提案だ。

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    図8 ON Semiの最新世代の車載センサチップ群

ON Semiは品質に絶対的な自信を持っている。2010年以来、これまで累計1100億個のチップを出荷してきたが、今回披露されたセンサ各種に加え、LEDフロント照明やパワー半導体、超音波センサインタフェースなども含めた不良品の割合はppm(百万分の一)レベルではなく、ppb(十億分の一)に至るという。しかも2015年には55ppbであったものが、2018年には30ppb程度に減ってきており、出荷数は伸びても不良率は減る、という高品質化を実現してきている(図9)。今後も自動車の安心・安全を実現するトータルソリューションを手がける一方で、半導体に起因する故障をなくすべく、高品質を武器に製品の拡充を図っていくという。

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    図9 ON Semiの品質は毎年改善している。不良率はppbレベルに到達 (出典:ON Semiconductor)