ON Semiconductorは4月22日(米国時間)、米Globalfoundries(GF)の300mm工場であるFab 10を買収する事を発表した(ON Semiの発表資料GFの発表資料)。この発表に合わせてON Semiが投資家向けに今回の買収についての説明会を開催した。

今回の買収の概要は、GFが米国ニューヨーク州イーストフィッシュキルに構えているFab 10を、ON Semiが買収するというもの。買収総額は4億3000万ドルとなっている。まずその最大の理由についてON Semiは、300mmウェハを利用できるFabを入手することで、よりコスト効率を改善したいという事を挙げている。つまり経済性だ。

  • 300mmファブ

    Photo01:同社によれば、新規に300mmウェハのFabを建設する場合の1/3のコストで済むとする。ちなみに200mmのFabで立ち上げる場合でも、同じ生産量を実現するには15~17億ドル要するとの試算である

同社は2018年10月に富士通の会津若松の200mmラインに関するジョイントベンチャーで6割の株を買収して事実上傘下に置いているが、最近、200mmウェハのラインは逼迫気味であり、新規投資を行っても高くつく。というのも200mmの製造装置を新規で製造している企業はごく限られており、その多くが中古市場でしか手に入らないのだが、この数年で良質な中古装置はほぼどこかが購入してしまっている状態で、下手をすると新品以上の値段が付くといった場合もある)。かといって300mmウェハのFabを新規に立ち上げるのは相当な投資となる。今回の買収は、先端の300mmウェハのラインを格安で手に入れる絶好の機会という訳だ。

今回の買収対象となるのは、GFがFab 10と呼ぶ工場である(Photo02)。

  • Fab 10

    Photo02:上の写真で緑で囲われた部分がFab 10

ここは元々はIBM Microelectronicsが保有していたBuilding 323というFabで、2002年に操業を開始している。IBM時代には45/32/28nmプロセスの製造を行っており、その後GFがIBM Microelectronicsを丸ごと買収した際にGFの管理下に移動してFab 10となった。GFはこのFab 10で14nmのFinFETプロセスの量産を行っていた模様だ。

ちなみに今回の買収が完了すると、ON Semiはこの"元"Fab 10でMid/High Voltage MOSFETやトレンチIGBT、アナログ/BCDプロセスの製品を製造する予定としている。実際このあたりの製品の生産が逼迫しそう、ということから今回のFabの買収につながったと思われる。ただ今回の買収はFabおよびそこで働く従業員(おおよそ450名との事である)以外に、65nmおよび45nmのテクノロジーならびに製造技術の移転、さらにテクノロジーライセンスも含まれるとされる。

ちなみに支払いは今回の契約締結に伴いまず1億ドルを、ついで2022年までに残り3億3000万ドルを支払うというもので、おおよそ毎年1億ドルほどの支払いとなる形だ。これによってCAPEXは大体10億ドル(質疑応答では12億ドルほど、という話だった)節約できる、というのは先に説明した通りだ(Photo03)。

  • 財務上の影響

    Photo03:財務上の影響はほとんど無い、という説明であった。まぁFabを自前で1から建設するのに比べれば、確かに影響は軽微だろう

移行については、おおむね2025年までのタイムラインが予定されている(Photo04)。

  • Fab 10

    Photo04:そういう意味では、最初の1億ドルは手付で、その後ON Semiの比率が高まるのに合わせる形で残りの3億3000万ドルを順次支払う、という判りやすい構図なのかもしれない

2020年中にON Semiによる操業が開始されるが、いきなり100%という訳ではなく、最初は小さく始めていき、2022年末までにその割合を100%まで高めてゆく一方で、それにあわせてGF側も利用の割合を段々減らしていき、2022年中に0%にする計画だ。ただその後の3年間は、ON SemiがGFの製造委託を行う事で、スムーズなトランジションが行える、ということになっている。

さて、今回の買収でON Semi側の事情は分かりやすい。同社はオレゴン・アイダホ・ベルギー・マレーシア・チェコと先に挙げた日本(会津若松ならびに新潟)にFabを持つが、いずれも150mmないし200mmのFabで、コスト効率はよろしくない。だからといって自社で300mm Fabの建設は高くつく訳だが、そこに格安でGFのFab 10が入手できる機会があったわけで、これに応じるのは理にかなっている。恐らくは将来、このFab 10の稼働率が十分高まったら、150mmウェハのFabは閉鎖あるいは売却などを行ってコスト削減を図る余地もあるだろう。見えないのは、45mmと65mmのCMOSの技術移転である。これを手に入れる事でON Semiにどんなビジネスが生まれるのか(あるいはどんなビジネスを念頭にこの技術を手に入れたのか)は注目すべき点だろう。

その一方、GFの意向は見えない。同社は上場企業ではないので投資家向けカンファレンスコールなどは実施される訳もなく、今回もリリースの中でCEOであるTom Caulfield氏の「ON Semiconductor is an ideal partner for GLOBALFOUNDRIES and this agreement is a transformative step in our journey to build GLOBALFOUNDRIES into the world's leading specialty foundry" "This partnership enables GLOBALFOUNDRIES to further optimize our assets globally and intensify our investments in the differentiated technologies that fuel our growth while securing a long-term future for the Fab 10 facility and our employees.(「GFが世界で最先端の専門性を持ったファウンダリに転換する過程において、ON Semiとの今回のパートナーシップは理想的なものである」、「今回のパートナーシップによって、GFは差別化要因となる技術開発に投資を集中させることが可能になると共に、Fab 10とそこで働く我々の従業員の長期的な未来を保証するものでもある」)」という短いコメントが示されているだけである。

元々同社は7nmの開発を中止し、その投資をFinFETやFD-SOIに振り分けるという話になっていた訳だが、FD-SOIはともかく(こちらは最近の5Gブームのおかげで、特にRF SOIが猛烈に出ている)FinFETについては、TSMCの12FFCに流れる顧客が多いとは聞いており、そのあたりをどうテコ入れするのか気になっていたところだが、今回の提携からすると、テコ入れも半分諦めつつあるのかもしれない。幸いにも12/14nmの製造は、同じニューヨーク州のSaratoga CountyにあるFab 8でも行われており、AMDやIBM向けの製品の製造はそちらで賄えている。そのためFab 10が無くても間に合うという判断なのかもしれない。

ただ、それにしても10億ドルは下らないであろうFab 10を4億ドルそこそこで売却してしまうというのは、どんな事情があったのか。親会社であるATICの意向なのか、それとも別の理由なのかは判らないが、ちょっと先行きに不安を感じさせる動きではある。