公開からすぐに、とはいかずにヤキモキしたものの、筆者も御多分に漏れず、映画『トップガン・マーヴェリック』を観に行った。その『トップガン・マーヴェリック』に関する話を連載で取り上げられませんか、というリクエストが編集部に届いているという。そこで「飛行機のメカ」に関わる観点から取り上げてみようという、半ば強引な企画を考えた。

スーパーホーネットとSONY VENICE

戦闘機が飛び回る映画だから、飛んでいる戦闘機を外部から、あるいはそこに乗っている操縦士(米海軍ではパイロットではなくエヴィエーターという)の映像は不可欠。それなら普通は、地上にセットを組んだり、合成映像を使ったりすれば、となりそうなものではある。

ところが『トップガン・マーヴェリック』では、できるだけ本物を使おうということになった。そこで米海軍による協力の下、本物のF/A-18Fスーパーホーネットが撮影に使われた。コックピットにいる操縦士を正面から撮影すれば、操縦士の背後にある主翼や尾翼も映り込むことになるから、そこで他の機体を代用していたのでは興ざめである。

  • F/A-18Fスーパーホーネット。これは映画の撮影で使われた機体そのものではないが、同型機ではある 撮影:井上孝司

    F/A-18Fスーパーホーネット。これは映画の撮影で使われた機体そのものではないが、同型機ではある 撮影:井上孝司

そこで登場したのが、複座型のF/A-18F。前席には実際に機体を操縦する操縦士が座るから、カメラを設置するには後席を備える複座型が必要になる。コックピット内部に複数のカメラを取り付けて、一度のフライトで同時に複数の映像を撮れるようにした。

そこで使われたカメラが、ソニーのCineAltaカメラ「VENICE」。36×24mm(6K×4K)のフルフレーム・イメージセンサーを搭載している。機内映像撮影用のスーパーホーネットは2機が用意され、それぞれ6台ずつの「VENICE」を取り付けた。その位置は、前席後方に2台、後席前方の計器盤上部に3台(左右それぞれの斜め後方に向けて1台ずつと、中央に1台)。そして、中央向きカメラの上に、さらにもう1台。

この「さらにもう1台」が面白い。「VENICE」には「VENICE Extension System」こと「Rialto」という仕掛けの用意がある。これは、レンズとイメージセンサーを独立したユニットに分離して、それとカメラ本体をケーブルで接続するもの。最大で5.5m離して設置できるそうだ。レンズとイメージセンサーの組み合わせだけ独立させれば、一体型のカメラよりも小さなスペースに設置できる。

といっても、ただ単にカメラをポン付けすれば済むというものではない。なにしろ激しい機動を行う戦闘機に取り付けるものだから、荷重や振動が加わった際に、ずれたり外れたりしては困る。映像を撮れないだけでなく、そもそも飛行の安全に関わる。

そして、スーパーホーネットのコックピットにカメラ用の電源コンセントなんてものは付いていないから、バッテリーで駆動しなければならない。つまり、カメラ本体だけでなくバッテリーのスペースも考慮する必要がある。「VENICE」の設置に際しては、バッテリーはカメラ本体から離れた場所に設置して、ケーブルでつないで給電していたようだ。

また、カメラはレッキとした電子機器だから、それを搭載して作動させることで、機上の電子機器に対して「悪さ」をすることがあってはならない。すると当然ながら、電磁波干渉に関する検証作業も必要になったと思われる。

そしてなんといっても、戦闘機のコックピットは狭い。たまたま筆者はF/A-18Aのコックピットに座らせてもらったことがあるが、ことに幅方向の余裕のなさが印象的だった(その点、F-35とは対照的)。そこに何台ものカメラを設置して、しかも必要な画角を確保するのは、簡単な仕事ではなかろう。

こうしたさまざまな条件をクリアすることで、迫力ある高品質の映像を見ることができるようになった。

外部映像はどうなっている?

ここまで書いてきたのは機内の映像の話だが、外部の映像も欲しい。そこで、撮影用のスーパーホーネットでは、コックピット後方と胴体下面のセンターライン・パイロン部に、外部映像を撮影するためのカメラを設置する改造も行われた。もしも、外部にカメラが突出するとなれば、気流や荷重に耐えられるかどうか、配線や電源をどうするか、といった課題を解決しなければならない。

では、飛んでいる機体を外部から撮影する場合はどうするか。相手が戦闘機だから、理想をいえばカメラプレーンも戦闘機にしたいところだが、そうなると機体の確保、運用経費、そして誰が操縦するかという問題が絡んでくる。

そのためか、チェコのアエロ・ボドホディが製造している高等練習機「L-39アルバトロス」が使われた。映画の公開に合わせて、アエロ・ボドホディ自ら「うちの機体が使われました」といってプレスリリースを出している。

アエロ・ボドホディのリリース
Top Gun: Maverick starts in theatres. It was filmed on Czech L-39 Albatros aircraft!

実はL-39、アメリカのエアショーでは民間パフォーマー(!)の機体としてしばしば登場する機体で、筆者も何度も遭遇している。L-39は超音速飛行こそできないものの、高等ジェット練習機だけに飛行性能はなかなかよい。軍の仮想敵業務を請け負う民間企業や、民間アクロバットチーム「Patriots Jet Team」でも使われているぐらいだ。

  • Patrios Jet Team」のL-39。小さな機体を機敏に飛ばして、キレッキレのアクロを見せてくれる 撮影:井上孝司

    「Patrios Jet Team」のL-39。小さな機体を機敏に飛ばして、キレッキレのアクロを見せてくれる 撮影:井上孝司

そのL-39の機首に「SHOTOVER F1 RUSH」というカメラ・システムを搭載した。これは、650km/hの速度と・3Gの荷重まで耐えられるそうである。

このほか、映画出演者が戦闘機に搭乗して高機動飛行を行うための慣熟訓練にも、L-39が用いられた。こういう場面でも、すでに機体が手近なところにあって、しかも比較的安価に利用できるメリットが効いてくる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。