前回は、空母などが装備する飛行甲板の話だった。この話を取り上げようと考えたきっかけの話題が、ヘリコプター護衛艦「いずも」におけるF-35Bの発着艦試験だったからだが、今回は原点に立ち返って、陸上の滑走路の話を。

不整地もあれば舗装もある

普通、滑走路というとアスファルト舗装やコンクリート舗装を施した立派なやつを連想するが、そういうものばかりとは限らない。平らに均してはあるが舗装をしていなかったり、草地だったり、ということもままある。

第2次世界大戦中に使われていた飛行場だと、ちゃんと舗装されていた飛行場がどれだけあったことか。本国に設ける常設の基地ならともかく、戦地で急造する飛行場となると、いちいち舗装していられないこともある。

もっとも、それでも何とかなるのはレシプロ・エンジンの機体だから。今のジェット機ではFOD(Foreign Object Damage)が問題になるから、最初からそのつもりで設計した機体でない限り、非舗装の場所から発着させることはしないのが普通だ。

その「最初からそのつもりで設計した機体」の典型例が、軍用輸送機の一群。エンジンの設置位置を高くしたり、FODを避けられる位置にエンジンを配置したり、タイヤの数を増やして1輪当たりの荷重を減らしたり、といった工夫をすることで、不整地でも離着陸できるようにしている。しばらく前にも、航空自衛隊のC-2輸送機が岐阜基地で不整地離着陸試験を実施していた。

  • 不整地離着陸試験を実施した際のC-17A輸送機。こんなに砂塵が舞い上がってもエンジンがちゃんと動くのだから、ビックリする 写真:USAF

    不整地離着陸試験を実施した際のC-17A輸送機。こんなに砂塵が舞い上がってもエンジンがちゃんと動くのだから、ビックリする 写真:USAF

また、「冬戦争」のときのフィンランド軍みたいに、全国に掃いて捨てるほどある湖を利用して、冬季に氷結した湖から戦闘機を発着させた事例もある。常設の飛行場だと簡単に場所が分かってしまうが、湖からゲリラ的に運用すれば捕捉されにくいというわけだ。もっとも、昔の小さくて軽い戦闘機だからできたことで、今の戦闘機を氷結した湖から飛ばすのは、ちょっと無理があると思われる。

ハイウェイは滑走路

その代わりということなのか、フィンランド空軍は現在でも、道路上から戦闘機を離着陸させる訓練を実施している空軍の一つだ。このほか、シンガポール空軍や台湾空軍も、道路を利用した発着訓練をやっている。また、昨年には米空軍がA-10をハイウェイで発着させる訓練を実施していた。

  • 2021年8月に、ミシガン州内のステート・ハイウェイで離着陸訓練を実施したA-10攻撃機  写真:USAF

    2021年8月に、ミシガン州内のステート・ハイウェイで離着陸訓練を実施したA-10攻撃機  写真:USAF

しばらく前に、フィンランド空軍のTwitterアカウントで道路上からF/A-18ホーネットを離着陸させる訓練の模様を撮影した動画を投稿していた。その投稿を見て、Google Mapsで現場を探し回ったところ、意外と簡単に見つけてしまった。それが以下の場所である。

https://www.google.com/maps/@65.8952174,25.6870941,2956m/data=!3m1!1e3?shorturl=1

投稿には地名が含まれていたので、まずそれで概略の当たりをつけて、あとは「不自然に直線が長く続いている区間」を探し回った。すると、1.8kmほどの直線区間、しかもその直線だけ道幅が広がっている、いかにも不自然な場所が見つかった。おまけに、その直線の両端にループが作ってある。そこで機体を駐めて燃料や兵装を補充するからだ。

上空からの写真で分かるのは、「直線」と「道幅」だけだが、おそらく、戦闘機の離着陸に耐えられるように、路面の強度を高めてあると思われる。

道路からの発着というと、昔から知られているのはスウェーデン空軍。そのために戦闘機に短距離離着陸性能を要求したのは有名な話だ。だから、サーブ37ビゲンは短距離で離着陸できるだけでなく、地上で小回りがきく。着陸したと思ったらたちまち止まり、そこでクルリと向きを変えて再度の離陸、というデモンストレーションを生で見たことがある。

戦地で滑走路を急造する

戦争をしていると、戦地でいきなり飛行場を整備しなければならない場面が発生する。第2次世界大戦中の戦闘機ぐらいなら、前述したように不整地でも草地でもなんとかなるが、大型の爆撃機になればそうも行かない。

変わった素材が使われた事例もある。それが珊瑚で、1944年・マリアナ諸島での出来事。米軍が1944年6月にマリアナ諸島の攻略作戦を発動して、占領に成功した。これは日本本土空襲のためにB-29爆撃機の基地が必要という理由だが、B-29は離陸重量が60t以上もあるデカブツだ。それを6個の車輪で支えているから、平均すると車輪一つに10トンの荷重がかかる。草地や不整地では、タイヤがめり込んでしまって動けない。

だから、マリアナ諸島のサイパン島、テニアン島、グアム島では、B-29のために飛行場を整備する工事を真っ先に実施したのだが、そこで滑走路の材料が問題になった。いくら物量に恵まれたアメリカ軍といえども、大規模な飛行場をいくつも整備するために必要となる大量の材料を、マリアナまで運ぶのは大変だ。

そこで、最後の表面仕上げに使うアスファルトはアメリカから現地まで運んだものの、その下に入れる基盤材については、珊瑚礁を掘り返して砕き、砂利の代わりとして使用したのだそうだ。環境保護団体の人が聞いたらひっくり返りそうな話ではある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。