前回は、穴あき鉄板や、米海兵隊がベトナム戦争のときに使ったSATS(Short Airfield for Tactical Support)など、戦地で急いで固定翼機の離着陸ができるようにするための仕掛けを紹介した。

今回は、滑走路はあるものの、支援インフラが整っていない場合は……というお話。主として燃料補給の話を取り上げてみる。なにしろ飛行機は燃料がないと飛べないから。

裸の基地

ベア・ベースという考え方がある。ここでいうベアは、熊のbearではなくてbare。無塗装のことをベアメタルというが、そのベアと同じだ。

滑走路と駐機場は事前に構築して舗装もしておくが、その他の施設は必要最低限。普段は空き家で、戦時になったら所要の人員・機材・物資を持ち込んで稼働させるというもの。平時はコストをかけず、しかし戦時にはサッと飛行場を用意するわけだから、これも飛行場の急造だと強弁できそうではある。

  • ニューメキシコ州のホロマン空軍基地で、ベア・ベースを使えるようにするための演習を実施しているところ。滑走路と駐機場以外は何もないと考えてかからなければならないから、まずテントの設営から始める 写真:USAF

人間はテントを張れば寝泊まりや食事ができるし、トイレやシャワー施設も仮設は可能(もちろん、ちゃんとした建物と設備が整っているに越したことはないが)。そして機体は露天駐機で我慢してもらうとしても、ひとつ大事な問題が残る。それが燃料。燃料タンクを常設しておく手もあるが、いつ使うか分からないジェット燃料を入れっぱなしにして、長期保管するのはいかがなものか、という考え方もあるだろう。

燃料補給のための道具立ていろいろ

そこで「こんなこともあろうかと思って」考案されたのが、第87回でもちょっと触れたことがあるブラダー型燃料タンク。要するに、燃料を保管するための大きな袋である。ちなみにブラダーとはbladder、「嚢」あるいは「浮き袋」といった意味がある。

なにしろ袋だから、中身を入れていなければ畳んでコンパクトにできる。これを空輸搬入して地べたに広げて、別途、運んできたジェット燃料を入れる。そして、用が済んだら畳んで撤収する。これなら、前線に急造した飛行場、あるいはベア・ベースでも燃料補給のためのインフラを構築できる。

以下の写真は2012年4月13日の撮影で、キルギスタンのマナスで米空軍・第376遠征兵站即応隊(376th ELRS : 376th Expeditionary Logistics Readiness Squadron)の兵士が、ブラダー式燃料タンクを設置している現場。全体像が分からないが、このブラダー式燃料タンクで数千ポンドの燃料を保管できるという。

  • キルギスタンのマナスでブラダー式燃料タンクを設置している現場 写真:USAF

もっとも、タンクだけあってもダメで、燃料を補給するには給油ポンプも必要になる。そちらの方で使用する機材の一例が、米海兵隊が使用しているTAGRS(Tactical Aviation Ground Refueling System)。MV-22Bオスプレイや、大形輸送ヘリのCH-53Eスーパースタリオンで空輸できる、コンパクトな燃料補給装置だ。

しかし、まず燃料タンクを設置して、そこに燃料を移し替えてから機体に給油するのは迂遠だし、リードタイムも余計にかかるのではないか? という言い分もある。そこで出てきたのが、「燃料を搭載した輸送機または空中給油機から、相手の機体に対して直に燃料を補給してしまえば」というアイデアで、これは米海兵隊が実際に使っている手法。

補給できる燃料の量が給油機の搭載量に依存する難点はあるが、空になったら代わりの機体を寄越してもらえば済む。しかも、これなら地上に道具立てを持ち込んで設営する必要がない。用が済んだらサッと撤収できるし、立つ鳥は跡を濁さない。

最近、米海兵隊はEABO(Expeditionary Advanced Base Operations)といって、敵軍がいない島嶼をサッと占拠して作戦拠点にする(そして、用が済んだらサッと撤収して移動する)作戦構想を推進している。すると、この手の「迅速に飛行場や支援インフラを用意する」道具立てが、さらに強化されるかもしれない。

赤い馬

一方、「インフラがなければ、急いで造れるようにすればいいじゃない」と考えたのが米空軍。この辺が、機敏にあちこち飛び回る前提の海兵隊と、飛行場という固定インフラの存在が前提になる空軍の違いというべきか。

米空軍はベトナム戦争のときに、急いでインフラ建設を行うためにPRIME BEEF(PRIMary Base Engineer Emergency Force)という建設チームを編成した。その後の1966年に恒常的な組織として編成したのが、RED HORSE(Rapid Engineer Deployable Heavy Operational Repair Squadron Engineer)。迅速に戦地に乗り込んで、飛行場設営工事を実施する、約400名規模のチーム。自前の土木機材を持ち込んで、整地も舗装も建物の建設もやってしまう。

1990年にイラクがクウェートに侵攻して、いわゆる湾岸危機が勃発した。そこで米空軍がペルシア湾岸諸国に多数の戦力を送り込んだが、展開先の基地の中には、世界でも最高レベルの施設が整ったものがあった一方で、ベア・ベースに属するようなものもあった。そこで後者について、RED HORSE部隊を送り込んで、施設整備を実施した事例があったという。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。