このものづくり関連ニュースのまとめ
・京セラが電子投開票システム「デジ選」の機能と運用を拡充
・視覚に頼らず投票できるユニバーサル投票レーンを2027年1月に初導入
・移動期日前投票所と投票運営システムにより投票機会の確保と運営効率化を支援
京セラは11月5日、同社が2024年より提供してきた電子投開票システム「デジ選」のバージョンアップに関する説明会を開催し、視覚障がいのある人の投票を支援する「ユニバーサル投票レーン」、投票所までの移動負担を軽減する「移動期日前投票所」、選挙人名簿との照合や各種記録の作成を効率化する「投票運営システム」といった機能を追加することを発表した。
説明会に登壇した京セラ 通信機器事業本部 ビジネス統括部 ビジネスインテグレーション事業部長で電子投票事業責任者を務める與那嶺徳弘氏は、「電子投票を『速く正確に数える仕組み』から、誰もが投票しやすい選挙インフラへ進化させていく」と、バージョンアップの方向性を説明する。
2024年より再開された日本の電子投票
日本の電子投票は2002年、岡山県新見市で初めて実施され、以降、2016年までに合計25回実施されたものの、開発企業の採算性や機器トラブルなどを背景に、青森県六戸町での導入を最後に実施が途絶えていた。
転機となったのが、総務省による2020年の「電子投票システムに関する技術的条件」の改訂だ。従来の専用機に加え、タブレットなどの汎用端末も利用できるようになったことを受けて、導入に向けた動きが官民ともに再び出てきた。
京セラも、デジタル庁、総務省、大阪府四條畷市と実証を進め、2024年12月に四條畷市で実施された市長選挙と市議会議員補欠選挙にデジ選を提供。日本では8年ぶりとなる電子投票の再開を支えた。
その後、デジ選は2026年3月の宮崎県新富町、同年8月の香川県善通寺市と福岡県粕屋町、同年10月の岐阜県美濃加茂市の選挙に導入された。富山県舟橋村でも導入が予定されていたが、選挙は無投票となった。
2024年の電子投票再開以降、実際の公職選挙で電子投開票システムを提供した企業は、2026年11月5日時点で京セラのみだという。
機器の提供ではなく、選挙運営の伴走支援へ
デジ選は、投票用タブレットや開票用パソコン、投票データを保存する記録媒体などの機器だけを提供するシステムではない。住民への事前啓発、自治体職員への研修、投票所での支援、開票作業の支援まで、選挙の実施に必要な機器と運営支援を一体で提供する。
投票用タブレットはネットワークへ接続せず、投票データを端末に直接接続した記録媒体へ保存するスタンドアロン方式を採用する。総務省の技術的条件に全項目で適合し、京セラが自社で開発したタブレットを自社工場で選挙用にキッティングすることで、選挙事務に求められる品質を確保しているという。
京セラが選挙運営まで踏み込む背景には、2024年の四條畷市における経験がある。同市での電子投票では、疑問票や案分票をなくし、投票者1人当たりの投票時間を約半分に短縮。開票所の人員を約3分の1、使用スペースを約4分の1に削減した。
一方、投票所の人員は紙投票時の約1.5倍となり、開票時間も紙投票と同等の100分にとどまった。京セラは、この結果から、投票を電子化するだけでは選挙運営全体の効率化にはつながらないと判断。機器を提供する会社から、選挙の成果を支えるパートナーへと役割を変更した。
具体的には、複数選挙への対応や、選挙条件に基づいて必要なタブレット数を算出するシミュレーションを導入。集計処理も高速化し、1万票を約3分で集計できるようにした。
また、二重投票を防止する仕組みを刷新し、自治体職員向けのトレーニングや運用マニュアルも拡充。住民への啓発から、選挙後の異議申し立てへの対応までを含めて支援する体制を整えた。
開票時間を最大120分から25分に短縮
こうした改善を重ねた結果、2026年3月に実施された宮崎県新富町の選挙では、紙投票時に80分を要していた開票時間を42分へ短縮した。
同年8月の香川県善通寺市では95分から27分、福岡県粕屋町では120分から25分へ短縮。10月の岐阜県美濃加茂市では、紙投票時の127分から67分へ短縮した。
この時間は紙での投票が行われた期日前投票分と合わせたもので、電子投票分だけを見ると、新富町は22分、善通寺市と粕屋町は10分、美濃加茂市は15分で集計を完了したという。投開票所を合わせた人員も、新富町では44人、善通寺市では50人、粕屋町では17人、美濃加茂市では32人を削減した。
各自治体で実施した出口調査では、電子投票の満足度が90.5~96.5%となった。操作の分かりやすさに関する評価も96.9~99.3%、次回も電子投票を支持する割合は88.5~94.1%だった。
與那嶺氏は、導入自治体の数を増やすことだけを目標とはしていないと説明。1回の選挙で見つかった課題を確認し、次の選挙で改善するサイクルを繰り返すことで、デジ選を進化させる考えを示した。
音声と専用コントローラで自ら候補者を選択
今回発表したユニバーサル投票レーンは、画面の確認やタッチ操作が難しい人でも、視覚に頼らず自ら候補者を確認し、投票できるようにする仕組みだ。
音声読み上げ機能を搭載したデジ選のタブレットにイヤホンとガイド付き専用コントローラを組み合わせる。コントローラには、音量を調整するつまみと、候補者の選択、選び直し、確定などに用いる点字付きの3つのボタンを配置する。
投票者は音声案内に従ってコントローラを操作し、候補者を選択する。投票所の職員などが候補者の選択を代行するのではなく、投票者自身が投票内容を確認して確定できるため、投票の秘密を守りながら意思を反映できる環境の実現を目指す。
京セラが、これまで電子投票を実施した自治体や、導入を検討する自治体から、視覚障がいのある人にも利用できる仕組みを求める声を受けて開発を進めてきた機能で、機器の企画、設計、評価に当たっては、視覚障がいのある当事者の協力も得る形で、ボタンの形状や配置など、設計段階では把握できなかった使いにくさを確認しながら改善したという。
ただし、ユニバーサル投票レーンは標準装備ではなく、通常の投票用タブレットへ音声案内、イヤホン、専用コントローラを追加する方式を採用する。すべての投票所へ一律に導入するのではなく、自治体が必要とする期日前投票所や公共施設などへ必要な台数を配置できるとする。
2027年1月の筑前町議選で初導入
ユニバーサル投票レーンは、2027年1月24日に実施される福岡県筑前町の町議会議員一般選挙で初めて導入される予定だ。
筑前町役場本庁舎と男女共同参画センター「リブラ」の期日前投票所に設置することが予定されており、視覚障がいのある人などが音声案内に従って自ら投票できる環境を整え、電子投票による開票時間と開票人員の削減も進める。
導入に向けて筑前町内の福祉団体などを対象とした体験会を開催し、参加者の意見を基に機器の操作性や投票所の動線、職員の対応方法を検証するほか、電子投票出前体験会や町内行事での体験コーナー設置、役場庁舎へのデモ機の常設、広報紙やWebサイトを通じた情報提供も行うとしている。
京セラは、筑前町で得た知見を基に運用マニュアルを整備し、ユニバーサル投票レーンのほかの自治体への展開につなげる考えだ。
投票所が有権者の近くへ移動
もう1つの新たな取り組みが、移動期日前投票所におけるデジ選の活用だ。
高齢化などにより、投票所へ移動すること自体が負担になる人が増えていることを受けて、車両へ投票用タブレットや受付機器を搭載し、有権者の生活圏に近い場所へ投票所を移動させることで、投票をしやすくしようという試みとなる。
デジ選のネットワークへ接続しないスタンドアロン方式で、バッテリーでも動作可能という特徴を生かすことで、通信環境に左右されず、車両で移動した先に投票環境を構築。投票したいが投票所に行くのが難しいという人であっても秘匿性を持たせた形で投票ができる仕組みを整える。
與那嶺氏は、「有権者が投票所へ行くのではなく、投票所の方が有権者の近くへやってくる」と、移動期日前投票所の考え方を説明した。
第1弾として、2026年12月に行われる鹿児島県阿久根市の選挙で導入する予定。車両の振動を伴う環境でも安定して使用できるよう、振動試験などをクリアした京セラ製の高耐久タブレットを使用する。
選挙人名簿との照合や記録作成も自動化
京セラは併せて、選挙人名簿との照合や投票受付、投票録と開票録の作成を効率化する投票運営システムも開発した。
投票所入場券に記載されたバーコードをタブレットのカメラで読み取り、選挙人名簿との照合や受付結果の記録を自動化する。外付けバーコードリーダーを必要とせず、受付に必要な機器を簡素化できる。
期日前投票から投票日当日までの投票状況を記録する投票録に加え、デジ選の開票システムと連携して開票結果を記録する開票録も自動作成する。
これにより、選挙人名簿の準備や照合作業、集計結果の転記に伴う確認漏れや記載ミスを防ぎ、自治体職員の作業負担を軽減する。
電子投票によって投票と開票を効率化するだけでなく、受付を含む選挙運営全体をデジタル化し、投票受付から投票、開票までを一体的に支援する狙いだ。
京セラは、2024年の電子投票再開以降に蓄積した現場経験を生かし、デジ選を無効票の防止や開票時間の短縮を目的とするシステムから、視覚障がいのある人や移動が難しい人を含め、誰もが投票しやすい公平・公正な選挙を支える社会インフラへ進化させるとしている。






