この半導体ニュースのまとめ

・南九州3県の電子デバイス産業による経済波及効果は2022~2031年の累計で約13.8兆円
・製造業の調達は7~8割超を南九州3県外に依存し、3県間の相互調達は1%台
・3県間の調達を1%増やすと、年間2160億円の波及効果と983億円のGRP増加を見込む

九州フィナンシャルグループ(九州FG)は10月27日、地方総研と共同でまとめた「南九州3県における電子デバイス関連産業集積の経済波及効果について」を公表した。調査には、みやぎん経済研究所が協力した。

対象となるのは熊本県、鹿児島県、宮崎県の南九州3県。JASMをはじめ、ソニーグループ、東京エレクトロン、三菱電機、京セラ、ローム、データセンターなどによる設備投資と、それらの稼働・生産が地域経済に与える影響を推計した。

同グループの集計によると、2022年以降に南九州3県で判明した電子デバイス関連の投資は、100億円未満の案件を含めて270件を超えるという。

  • 熊本県、鹿児島県、宮崎県における電子デバイス関連企業の投資状況

    南九州3県で進む100億円以上の電子デバイス関連投資。JASMやソニーグループ、東京エレクトロン、三菱電機、京セラ、ロームなどが工場や開発・物流拠点への投資を進めている (出所:九州フィナンシャルグループ)

電子デバイス関連投資は総額6.8兆円超

2022~2031年の投資件数と投資額は、熊本県が263件・5兆5959億円、鹿児島県が8件・9084億円、宮崎県が5件・3241億円としている。3県の合計では276件、6兆8284億円となる。

年間生産額の推計値は、熊本県が1兆7969億円、鹿児島県が642億円、宮崎県が1887億円で、3県合計では2兆498億円となった。

熊本県ではJASMやソニーグループなど、鹿児島県では薩摩川内データセンターや京セラなど、宮崎県ではロームなどの投資を織り込んでいる。公表されていない投資額やフル稼働時の生産額については、九州フィナンシャルグループが推計した。

経済波及効果は10年間で約13.8兆円

2022~2031年の設備投資を起点とする経済波及効果は、熊本県が4兆8817億円、鹿児島県が8059億円、宮崎県が2188億円で、合計5兆9065億円となった。

生産を起点とする経済波及効果は、熊本県が5兆8415億円、鹿児島県が8145億円、宮崎県が1兆2857億円で、合計7兆9417億円と推計した。

設備投資と生産を合わせた10年間の経済波及効果は合計約13.8兆円となる。国のGDPに相当する各県の県内総生産(GRP)への影響額は、設備投資が3兆2966億円、生産が3兆6346億円で、合計約6.9兆円に上るとしている。

  • 南九州3県の電子デバイス関連産業による経済波及効果とGRP影響額

    南九州3県の電子デバイス関連産業による経済波及効果とGRP影響額の年次推計。2022~2031年の経済波及効果は累計約13.8兆円、GRPへの影響額は累計約6.9兆円と試算された (出所:九州フィナンシャルグループ)

工場新設や設備増強に伴う投資効果に続き、各拠点の稼働と量産による生産効果が継続するため、2030年と2031年には経済波及効果が2兆円を超える見通しを示している。

県別の10年間の経済波及効果は、熊本県が10兆7232億円、鹿児島県が1兆6204億円、宮崎県が1兆5045億円となる。

ただし、JASMは順次生産能力を増強する方針であり、経済産業省が公表した計画変更も暫定的なものとなる。このため、JASMの投資全体が確定すれば、経済波及効果がさらに拡大する可能性があるとしている。

製造業の7~8割超を3県外から調達

電子デバイス関連産業の集積によって大きな経済効果が見込まれる一方、その恩恵を南九州の域内へ十分還流できるかが課題となる。

2020年の産業連関表を基にした製造業全体の域内自給率は、熊本県が23%、鹿児島県が21%、宮崎県が17%だった。電子部品に限っても、熊本県が15%、鹿児島県が29%、宮崎県が11%にとどまる。

工業県である大分県と比較すると、南九州3県は多くの製造業分野で自給率が低い。企業の生産が増えても、必要な部品、材料、設備、サービスを域外から調達すれば、増加した需要の一部が地域外へ流出する。

製造業の調達先を見ると、自県内からの調達比率は熊本県が24.4%、鹿児島県が27.1%、宮崎県が15.1%。一方、南九州3県外からの調達比率は、熊本県が74.6%、鹿児島県が71.6%、宮崎県が83.7%となった。

他の南九州2県からの調達は、熊本県が合計1.0%、鹿児島県が同1.3%、宮崎県が同1.2%にとどまっている。

  • 熊本県、鹿児島県、宮崎県の製造業における地域別調達比率

    南九州3県の製造業における調達先。3県外からの調達比率は熊本県が74.6%、鹿児島県が71.6%、宮崎県が83.7%となり、他の南九州2県からの調達はいずれも1%台にとどまる (出所:九州フィナンシャルグループ)

隣県で生産や設備投資が増えても、3県間の取引が少なければ、その効果を相互に取り込むことは難しい。各県内の自給率向上に加え、南九州3県間で材料、部品、設備、サービスなどの相互調達を増やす必要があると指摘している。

3県間の調達1%増で年間2160億円の波及効果

九州フィナンシャルグループは、各県の自給率を変えず、南九州3県の製造業が他の2県からの調達を1%増やした場合の経済効果も試算した。

追加の経済波及効果は、熊本県が547億円、鹿児島県が784億円、宮崎県が829億円で、3県合計2160億円となる。

GRPの増加額は、熊本県が239億円、鹿児島県が376億円、宮崎県が368億円で、合計983億円。2023年度の名目GRPに対する押し上げ効果は、熊本県が0.4%、鹿児島県が0.6%、宮崎県が0.9%、3県合計で0.6%と推計した。

  • 南九州3県内の相互調達を1%増やした場合の経済波及効果

    南九州3県の製造業が他の2県からの調達を1%増やした場合の経済効果。3県合計で2160億円の追加波及効果と983億円のGRP増加を見込む (出所:九州フィナンシャルグループ)

産業集積に伴う毎年の生産増加と、3県間の調達1%増加を組み合わせた場合、3県合計の経済波及効果は2兆5528億円、GRPへの影響額は1兆1551億円になるとしている。

これは2023年度の3県合計GRPに対して6.7%に相当する。県別では、熊本県が13.7%、鹿児島県が1.4%、宮崎県が3.6%の押し上げ効果に相当するとの試算となる。

県境を越えたサプライチェーン形成が課題

九州フィナンシャルグループは「新生シリコンアイランド九州」の実現に向け、各県の自給率向上と、南九州3県における相互調達の促進が必要と結論付けた。

電子デバイス関連企業の取引先となる材料、部品、製造装置、物流、保守、建設、業務サービスなどの企業が県境を越えてサプライチェーンへ参画できれば、生産拡大の効果を南九州域内へ還流させやすくなる。

その前提として、産業界、行政、大学・研究機関、金融機関が連携し、インフラ、人材、産業用地、企業誘致、情報共有などを進める必要があるとしている。

併せて、南九州経済の結節点である熊本県南地域について、震災被害からの経済活動の早期正常化と振興も課題に挙げている。

電子デバイス産業向け融資は累計4200億円

九州フィナンシャルグループでは、肥後銀行と鹿児島銀行を通じ、半導体関連企業の資金調達とサプライチェーン参入を支援している。

2022年4月から2026年9月までの電子デバイス関連産業向け貸出金実行額は、累計4200億円となった。TSMCサプライチェーンへの参入支援実績は、2026年9月末時点で累計41件としている。

熊本県へ進出した海外企業は119社で、このうち台湾企業が103社。肥後銀行で口座を開設した進出企業は81社で、このうち台湾企業は72社となった。

  • 九州フィナンシャルグループによる半導体産業向け融資とサプライチェーン参入支援

    九州フィナンシャルグループによる半導体産業向け支援。電子デバイス関連産業向け貸出金は2022年4月から2026年9月までに累計4200億円、TSMCサプライチェーンへの参入支援は累計41件となった (出所:九州フィナンシャルグループ)

肥後銀行と鹿児島銀行は、サプライチェーン強靱化プロジェクトや台湾商談会への参加支援にも取り組んでいる。

九州・沖縄の地方銀行による連携協定「Q-BASS」も活用し、サプライチェーン参入や台湾企業との商談を支援するほか、策定中の次期中期経営計画では、南九州3県の連携を支える体制を構築する予定としている。

電子デバイス関連の工場や研究・物流拠点の誘致だけでなく、地域企業が供給網へ参画し、県境を越えて取引できる環境を整えられるかが、投資による経済効果を南九州へ定着させる鍵になりそうだ。