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V1094 Scoの原始惑星系円盤の想像図。中心星の周囲に幾重ものリングと溝が刻まれ、内側の二重の溝の間には、未発見の惑星(土星の約0.6倍/海王星の約3.2倍の質量)が描かれている。今回の研究により、内側の二重の溝は未発見の惑星が、外側の規則的なリングはダスト自身の重力が形成したと考えると、全体を無理なく説明できることが示された。円盤を包む淡い広がりは、ダストの円盤の外側まで広がるガスの円盤を表す(イラスト:九大大学院 理学府 地球惑星科学専攻 博士課程2年Yurika Nakamura) (出所:九大ニュースリリースPDF)
近年、アルマ望遠鏡の観測により、原始惑星系円盤には、土星の環のように明るいリングと暗い溝がいくつも存在することがわかってきた。これらの溝は形成中の惑星によって掘られた可能性があるが、すべての溝にそれを当てはめようとすると、惑星が形成されるまでの時間や軌道の安定性の面から難しく、どのようにして溝が形成されたのかは結論が出ていない。そのため、惑星に頼らずに溝が形成される仕組みが求められていた。
九州大学は、おおかみ座の方向約500光年の距離にある年齢約200万年の若い星「V1094 Sco」を観測したアルマ望遠鏡の複数の公開データを1つに統合し、日本発の超解像技術「PRIISM」を適用した結果、中心星から100〜230天文単位の範囲内に存在する四重のリングと溝をこれまでで最も鮮明に解像することに成功。ダストの円盤は太陽〜海王星間の約13倍、ガスの円盤は約25倍にまで広がっていることを明らかにしたと、10月15日に発表した。
さらに、円盤表面を観測した近赤外線画像と比較したところ、内側の二重の溝は表面の溝と同じ位置にあり、外側のリングには表面に対応する構造が存在しないことから、内側は惑星によるもの、外側はダストの自己重力という、それぞれ異なる仕組みによって形成されたことが示唆されたこともあわせて発表した。
同成果は、九大大学院 理学研究院の山口正行特任助教(国立天文台 特任助教兼任)、町田正博教授らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学分野のオープンアクセスジャーナル「The Astrophysical Journal」に掲載された。
原始惑星系円盤に、多重リングによる“縞模様”が表れる理由
原始惑星系円盤に溝が形成される理由として、最も広く受け入れられているのが、円盤内で誕生しつつある惑星が周囲のガスとダストをかき分けて溝を掘ったという説だ。しかし、中心星から遠方の領域に多くのリングが規則的に並ぶ円盤では、惑星ができるまでの時間や軌道安定性の面で無理が生じるため、溝ごとに惑星が存在しているという解釈は難しかった。
そのため、乱流の弱い冷たい円盤で機能する、円盤内のダストがガスとの摩擦を受けながら自己重力で集積してリングを形成する「永年重力不安定」説など、惑星に頼らない仕組みも理論的には提案されている。しかし、実際の円盤でその条件が満たされるのかを観測から定量的に検証した例はほぼ存在していなかった。
V1094 Scoは、国立天文台がチリ・アタカマ砂漠で運用する口径10mのサブミリ波望遠鏡「ASTE」による観測で、際立って明るく冷たい円盤を持つことが見出され、その後のアルマ望遠鏡による観測で、複数のリングを持つ巨大な円盤であることが確認されていた。
研究チームは今回、この星の円盤を「模様の起源を切り分けるための基準天体」と位置づけ、アルマ望遠鏡の公開データを統合して詳しく調べることにした。
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アルマ望遠鏡が捉えたV1094 Scoのダストの円盤。波長1.3mmの電波で見たダストの分布。超解像技術「PRIISM」により、幾重ものリングと溝が鮮明に解像された。(左)天球面上の見え方。(右)円盤を真上から見た形に補正したもの。画像左下の印は太陽と海王星の軌道の大きさ、白い線は1秒角(約155天文単位)を表す。Credit:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Yamaguchi et al. (出所:九大ニュースリリースPDF)
今回の研究成果
今回の研究では、複数年分のアルマ望遠鏡の公開データを1つに統合した後、国立天文台と統計数理研究所によって開発された数理手法「スパースモデリング」に基づく電波画像化ソフトウェア「PRIISM」が適用された。その結果、中心星から100〜230天文単位の範囲内に存在する四重のリングと溝が、従来手法の約2倍の解像度で最も鮮明に画像化された。
まずダストの円盤は、半径約380天文単位(太陽〜海王星間の約13倍)にまで広がっていた。これは、近傍の星形成領域で調査されているどの円盤よりも巨大である。一酸化炭素分子の電波で観測したガスの円盤はさらに巨大で、半径約760天文単位(同約25倍)にまで達していた。ガスは円盤全体で整然と回転しており、母体の分子雲からガスが降り積もる痕跡は観測されなかったという。この回転運動から、中心星の質量は太陽の約0.88倍と精密に決定された。
円盤の明るさを中心からの距離に沿って調べると、内側(約100天文単位)には2つの溝が近接して並ぶ特徴的な構造が存在し、その外側には規則的なリングが続いていた。内側の2つの溝は、明るさの分布が「W」の形を描くことから「W字構造」と命名された。また、各リングの幅から、円盤中の乱流が非常に弱いことも判明した。
次に、ヨーロッパ南天天文台がアタカマ砂漠で運用するVLT/SPHERE望遠鏡によって取得された円盤表面の近赤外線画像との比較が行われた。すると、W字構造の位置では、円盤表面にも溝があることが確かめられた。円盤の中心面(内側)と表面で溝の位置が一致する例は、TW HyaやHD 169142と呼ばれる円盤など、ごく少数しか知られていなかった。一方、外側のリングの位置には、表面に対応する構造が見られなかった。
これらの手がかりを、惑星と円盤の相互作用に関する理論と1つずつ突き合わせた結果、惑星によるものはW字構造のみと推測された。地球の約55倍の質量を持つ惑星(土星の約0.6倍のサブ・サターンクラス、または海王星の約3.2倍のスーパー・ネプチューンクラス)が1つ存在すると考えると、乱流の弱い円盤で複数の溝が同時に作られる理論と整合的だとした。
そして外側の規則的なリングは、観測から求めた温度や乱流の弱さのもとで、永年重力不安定が働き得る条件が満たされていた。つまり、内側は未発見の惑星、外側はダストの自己重力というハイブリッドな組み合わせにより、この円盤の多重リングを無理なく説明できることが示された。なお、この結論を確認するには、すばる望遠鏡などによる高コントラスト観測により未発見の惑星を直接捉えることが重要となるとした。
また、ダストが自己重力で集まる仕組みは、リングの形成だけでなく、そこに集積した濃いダストが次の惑星の材料になる可能性を持つ。今回の観測から求められたリングの位置や乱流の強度は、この仕組みを数値シミュレーションで検証する際の重要な基準となる。今後、同じ解析を多くの円盤に広げることで、惑星がどこでどのように生まれるのかという根源的な問いの理解が深まることが期待されるとしている。