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リュウグウ試料研磨片の反射電子像(主に走査型電子顕微鏡で得られる像)と透過電子像(主にTEMで得られる像)。略語は、Po:ピロータイト、Do:ドロマイト、Mag:マグネタイト、Phys:層状ケイ酸塩 (出所:共同ニュースリリースPDF)
C型小惑星リュウグウは、母天体が崩壊した後、その一部が集積して形成されたと推測されている。これまでの研究から、その母天体では水と岩石の反応(水質変成)が起こったことが明らかにされており、その際の水はナトリウムや塩素を多く含む塩水だと考えられていた。しかし、試料からはNaClのような塩を含む塊はほとんど見つかっておらず、残る大半のナトリウムや塩素の所在は不明だった。
東京大学、金沢大学、東北大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、高輝度光科学研究センター(JASRI)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、広島大学の7者は、X線吸収端近傍構造を用いてリュウグウ試料中の元素の化学種を分析。その結果、母天体中に存在した液体の水の中で、ナトリウムや塩素の大半はNaClのような塩ではなく、粘土鉱物への吸着態などとして存在することを発見したと、10月16日に共同発表した。
研究成果の詳細は、英科学誌「Nature」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Nature Communications」に掲載されている。共同研究チームを構成する発表者・研究者については後述する。
リュウグウ母天体にあった水の組成を推定
リュウグウやベヌー(厳密にはC型のサブタイプであるB型)などのC型小惑星は、他の小惑星と比べて炭素などの有機物に富み、生命の起源に関わる天体として重視されている。こうしたC型小惑星が起源とされる「炭素質コンドライト」隕石や、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウ試料の分析から、それらの母天体の小惑星において水質変成が起こっていたことや、アミノ酸や核酸塩基が含まれていることなどが、これまでの研究で突き止められている。
しかし、水質変成時のリュウグウ母天体の水が塩水だったと推定されたにもかかわらず、リュウグウ試料からはNaClのような塩の結晶はほぼ見つかっていなかった。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたナノスケール分析でも、炭酸ナトリウム(Na2CO3)中に200nm以下のきわめて小さなNaCl結晶が少量発見された例にとどまり、大半のナトリウムや塩素の行方は不明のままだった。
そこで研究チームは今回、理研とJASRIが運用する大型放射光施設「SPring-8」、東北大の3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」、KEKの放射光施設「Photon Factory」のビームラインを利用。XANES法と電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)による元素分析を実施し、リュウグウ試料中の主要元素の化学種比率の解明を試み、吸着・溶解平衡計算により母天体内の水の組成を推定することにした。
今回の研究成果
研究の結果、リュウグウのナトリウムと塩素は、それぞれ層状ケイ酸塩の一種である「サポナイト」と「リザーダイト」に大部分が吸着していることが判明。カリウムやカルシウムの一部も、サポナイトに吸着していることが突き止められた。
特に、リザーダイト中の塩素には水に溶けにくい成分が含まれており、塩素の大半がリザーダイト中に固定され、水中には多く存在しなかった可能性があるとした。その場合、母天体の水は海水よりも塩化物イオン濃度が100倍薄く、予想よりもはるかに還元的(Eh:-0.5〜-0.8V)かつ強塩基性(pH:10.3〜11.5)だったと推定された。
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リュウグウ試料(A0477)のナトリウム(Na)と塩素(Cl)のXANESスペクトル。(a)試料のNaのXANESスペクトル(丸)を、標準試料のスペクトルで解析した結果、大部分がサポナイトに吸着していることが示された。(b)試料のClのXANESスペクトル(丸)を、標準試料のスペクトルで解析した結果、大部分がリザーダイト中に存在することが示された (出所:東大Webサイト)
これは水素ガスが高濃度に存在しうる非常に還元的な環境であり、母天体表層の氷床下において、内部で生成されたガスがトラップされる場所で形成されたと考えられるという。母天体のうち、このような環境で変成した部分が集積してリュウグウが形成された可能性があるとした。また強塩基性の水では、アミノ酸や糖、核酸塩基などの非生物合成が起きやすいことも知られている。
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リュウグウ母天体で水が変質・消失していく概念図。今回の研究で示された水の組成から、母天体の水は強塩基性かつ強還元的であり、このような環境は深部で発生した水素が表層の氷に閉じ込められた領域で、後のリュウグウ構成物質が変質したことを示している (出所:東大Webサイト)
今回の研究で推定されたC型小惑星母天体での水質変成過程は、C型小惑星の進化プロセスや生体有機物の非生物合成、初期地球にもたらされた水の起源や量に関する理解に向け、新たな示唆を与えることが期待されるとしている。
なお、今回の共同研究チームは、東大大学院 理学系研究科の河合敬宏大学院生(現・JASRI研究員)、同・高橋嘉夫教授、同・大野智洋大学院生、同・竹本亜優大学院生、同・山口瑛子客員共同研究員(日本原子力研究開発機構 研究副主幹兼任)、同・板井啓明准教授、同・伊地知雄太特任研究員(現・JAMSTEC 准研究員)、同・吉田英人特任専門職員(現・同科附属 天文学教育研究センター 木曽観測所所属)、同・橘省吾教授(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(ISAS) 特任教授兼任)、金大 環日本海域環境研究センターの福士圭介教授、東北大 理学研究科の中村智樹教授、同・松本恵助教、JAMSTEC 高知コア研究所の中田亮一主任研究員(広島大大学院 先進理工系科学研究科 客員准教授兼任)、JAMSTEC 生命地球科学研究部門の渋谷岳造上席研究員、JASRIの菅大暉研究員、同・上椙真之主幹研究員、KEK 物質構造科学研究所の山下翔平助教、同・丹羽尉博助教、広島大大学院 先進理工系科学研究科の小池みずほ准教授、理化学研究所 放射光科学研究センターの大浦正樹チームリーダー、ISASの臼井寛裕教授、東京科学大学 理学院 地球惑星科学系の癸生川陽子准教授、東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所/国際医工共創研究院 GENTEN研究センターの関根康人教授らで構成されている。