エンターテインメントの流行や利用者の価値観が変わるなか、企業は新たな体験をどのように生み出すのか。
10月8~9日に開催された「NTT docomo Business Forum'26」では、フリュー ガールズ総合研究所 所長の三輪哲也氏と、NTTドコモビジネス 執行役員 関西支社長の奥田智行氏が対談。本稿では、フリューが約30年にわたるプリントシール機事業で培った顧客理解の方法から、新技術への向き合い方、企画・開発の自由度を守るセキュリティまで、両氏が語った内容をレポートする。
毎週の体験会と稼働データで、顧客の変化を捉える
フリューのプリントシール機事業は、1990年代後半にオムロンの新規事業として始まった。2007年にはMBO(経営陣による買収)によってフリューとして独立した。現在、同社はプリントシール機の国内シェアNo.1を獲得している(2025年3月末時点、フリュー調べ)。かつて競合が約15社あった市場で、事業を続けてきた理由は何か。三輪氏が挙げたのは、顧客の生の声と稼働データの両方を見続けることだった。
同社は京都と東京の拠点で、ほぼ毎週、利用者を招いた体験会や座談会を実施している。顧客層に合う人を外部の調査会社だけで集めるのは難しいため、ガールズ総合研究所の下にモニター事務局を設け、数百人のモニターを確保しているという。
一方、プリントシール機では撮影画像をスマートフォンに送る通信を利用して、稼働ログなども収集する。同社が通信機能を導入したのは2003年で、集めたデータの変化を日々確認している。
三輪氏は今後の可能性として、利用者の世代を超えた広がりにも言及した。かつてプリントシール機で遊んでいた女子高校生が母親になり、今度は娘と一緒に利用する形も考えられるという。2026年にはプリントシール機の30周年に合わせて「平成プリ」の企画を展開。好評を博し、母親世代の参加もあったと紹介した。
機器を売って終わりにしない、フリューの商品開発
プリントシール機事業はBtoCの事業だと捉えられがちだが、三輪氏によれば実際はBtoBtoCのビジネスモデルだ。フリューがゲームセンターなどの運営事業者に機器を販売し、その店舗で利用者が撮影する。撮影した画像は、フリューが運営する画像提供サービス「ピクトリンク」から取得する流れとなっている。
メーカーにとって直接の販売先は店舗運営事業者だが、利用者に人気がなければ機器も売れない。そのため同社では、機器を販売して終わりにせず、エンドユーザーが何を求めているのかを継続して調べてきた。
では、こうした顧客理解を商品づくりにつなげるには、どのような人材や体制が必要なのか。三輪氏は、自分の頭の中にあるアイデアを企画書などに落とし込む「天然型」と、用意されたテンプレートの項目を埋めながら考える「養殖型」という2つのタイプを紹介した。
三輪氏は前者をホームランバッター、後者を安打を積み重ねる選手に例えた。これは、個人のひらめきから大ヒット商品を生み出すことだけでなく、継続的に商品を開発する力も事業には必要であることを意味する。
もう一つ重視するのが、企画担当者と開発担当者の“のりしろ”だ。例えば企画側が「かわいい色」を求めても、開発側には具体的に何が求められているのか分からない場合がある。同じピンクでも、世代によって好まれる色味は異なる。互いの考え方を理解できる重なりの部分を大きくすることが、商品化には重要だという。
技術的に実現できても、事業に採用できるとは限らない
対談では、技術の進化がもたらすエンターテインメント体験にも話題が広がった。
奥田氏はその事例として、2025年の大阪・関西万博におけるNTTの取り組みを紹介した。吹田市の万博記念公園で行われたPerfumeのパフォーマンスをリアルタイムで3Dデータ化し、IOWNを使った25Gbpsの大容量通信で夢洲のNTTパビリオンへ伝送。離れた場所のパフォーマンス空間を再現したというものだ。
また、VRゴーグルなどを使い、現実の空間で物語に参加するロケーションベースエンターテインメントの事例も挙げた。
三輪氏はこうした体験を興味深いと評価しつつも、特にPerfumeの演出について、同様の体験をそのままゲームセンターに導入するのは、まだ先になるだろうと予測する。
「技術的にできることと、実際に事業としてできること、我々でいうとユーザーが受け入れられることは、必ずしも同じではないのかなと思います」
新しい技術を採用する際には、利用者がどのような体験として受け入れるのかを考える必要がある。一方で、技術やサービスが登場したときに、すぐ試したり、事業へ取り入れたりできる準備は欠かせないという。
未来を決め打ちせず、アイデアを試せる組織にする
三輪氏は、エンターテインメントの未来を予測すること自体にも限界があると指摘した。かつては多くの人が同じTV番組や雑誌を見ていたが、デジタル化によって接する情報が分散し、興味や価値観は多様になっている。
若者向けのサービスでは、投資判断を担う管理職が利用者の好みを理解できるとは限らない。だからこそ、理解できないことを認める姿勢が必要だと三輪氏は語る。
「未来について、誰かが予測したからそれが正しいというわけではなく、わからないことをまず素直に認めることが大事なんじゃないかと思います」
三輪氏が重視するのは、企業が将来のサービスを一つに決めるのではなく、新しい変化やアイデアが出たときにすぐ試せる状態をつくることだ。大きな失敗を避けながら、小さな失敗を許容することが重要だとした。
ただし、何をしてもよいというわけではない。三輪氏は、企業が示す方向性を台風の進路予測に例えた。予測される進路に一定の幅があるように、企業も大まかな方向性を共有した上で、その範囲内の具体的な企画や判断は担当者に任せるべきだと説明した。
セキュリティ強化と企画・開発自由度の維持
社員が新しい技術やアイデアを試せる環境をつくる上で、課題になるのがセキュリティだ。
三輪氏は従来のセキュリティを、侵入や攻撃を防ぐために行動を制限する「止める仕組み」と表現した。しかし、制限を突き詰めれば、インターネットへの接続も禁止することになりかねない。エンジニアが新しい技術を試せなければ、発想を広げ、技能を磨く機会も失われる。同氏は、攻撃を完全に防ぐことだけを目指すのではなく、異常を早期に発見し、深刻な被害に至る前に影響を抑えることが重要だと説明した。
セキュリティを考える上で、三輪氏がもう一つ重視するのが、開発者や運用担当者を守ることだ。
フリューでは、複数年にわたって数億枚規模の撮影画像を扱っており、規約などに基づいて画像を管理・削除している。万一、画像の漏洩が起きれば、利用者だけでなく、取り扱いに携わる担当者にも大きな心理的負担が生じる。
三輪氏は、漏洩防止に加え、担当者が適切に開発・運用していたことを示せる環境も大切だと説明した。
「あなたは大丈夫だよ、無罪だよ、無実だよということを証明してあげれば、安心して仕事に取り組む環境にもつながるのかなと思います」
また、三輪氏はセキュリティを強化する際も、企画・開発の自由度を維持したいと語る。
プリントシール機と画像サービス「ピクトリンク」は、従来からモバイル回線でつながっている。フリューでは基本的なセキュリティ対策を講じているものの、機器側の制限をさらに厳しくすると、企画・開発にも影響が及びかねないという懸念がある。
そこでフリューが実証を進めているのが、NTTドコモビジネスの「docomo business SIGN」だ。SIGNは、IoTデバイスの通信をネットワーク側で監視して脅威を検知し、必要に応じて対象SIMの通信を遮断できるサービスである。フリューは既存の基本対策を維持しながら、通信経路でも脅威を検知することで、開発への制約をできるだけ増やさずにセキュリティを強化しようとしている。
三輪氏は、今後新たに発見される脅威にもネットワーク側で対応できる点に期待を寄せる。
奥田氏も、新たな挑戦を止めないためには、社員や開発者が安心して取り組める基盤を企業として用意する必要があると述べた。セキュリティを創造性の制約ではなく、新たな挑戦を支える仕組みとして捉える考えを示し、対談を締めくくった。

