サイボウズは、製造業向けオンラインイベント「製造業 IT Special Seminar」を開催した。イベントでは、日機装が工場主導でkintoneを活用し、営業・技術・製造部門に分散していた情報を統合した事例を紹介。同社では、全社データ活用基盤の構築を進め、受注約1.5倍、年間約2万3000時間の業務削減という成果を上げた。講演では、取り組みの中心的な役割を担った日機装の森隆博氏が、その経緯や具体的な施策を説明した。
営業・技術・工場で情報が分断、日機装が抱えていた課題
日機装は1953年創業の総合機器メーカーで、特殊ポンプや半導体製造装置などを扱うインダストリアル事業、航空宇宙事業、人工透析装置などを扱うメディカル事業を展開している。
同社のインダストリアル事業では、量産品ではなく、顧客の注文に応じた「一品一葉」の製品を提供している。
講演した日機装 インダストリアル事業本部 日機装技術研究所 精密機器技術センター センター長の森隆博氏は、セラミックスや電池分野の装置開発を中心に、設計・製造・顧客対応まで幅広く担当し、グループリーダー、部長、工場長を歴任してきた。
森氏がDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手する以前、同社では営業・技術・工場の各部門で情報が分断され、十分に共有されていなかった。そのため、顧客が求める納期と実際の生産納期に食い違いが生じるなど、スケジュール調整がうまくいかず、失注や機会損失につながっていたという。
また、各部門がそれぞれの業務を優先し、部門を横断した連携が進まない「他人事」の状態に陥っていた。
こうした課題を解決するため、工場長としてDXを推進することになった森氏は、部門間に分散した情報を統合する全社データ活用基盤の構築に着手。その基本方針として、IT戦略とDX戦略の方向性を定めた。
kintoneを核に全社データ基盤を構築、3段階のロードマップ
森氏は、IT戦略を「事業を継続する力」、DX戦略を「事業を発展させる力」と位置付けた。IT戦略では、経験や勘に依存した業務を見直し、デジタル技術を活用して業務プロセスを改善することを目指した。一方、DX戦略では、AI・デジタル技術・人の強みを組み合わせ、新たな価値を創出することを目標に掲げた。
具体的には、「業務基盤」「設計技術」「開発業務」「技術プロセス」「組織管理」「技術伝承」という6つの領域で改革を推進。紙やExcelを中心とした業務のデジタル化、設計・開発に関するノウハウの蓄積、承認ワークフローの電子化、組織の状況の可視化、技術伝承への動画活用などに取り組んだ。
これらの施策を実現するため、森氏がプラットフォームとして選んだのがkintoneだ。短期間で導入できることや、現場主導で小さく始めて段階的に拡張できることなどを評価した。
森氏はシステム構築にあたり、「全員が満足するシステムではなく、全員が使えるシステム」が重要だと強調した。
同社は、kintoneを核とした全社データ基盤の構築を3つのフェーズに分けて進めた。
フェーズ1では、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)、文書管理、ナレッジ管理などを限定的に導入。紙やExcelで管理していた情報をデジタル化するとともに、部門間のワークフローをkintoneに集約した。
フェーズ2では、業務情報の入力窓口をkintoneに統合し、基幹システムとの連携を進めた。受注情報やBOM(部品表)などの情報を共有し、部門を横断して活用できる仕組みを整備した。
フェーズ3では、蓄積したデータをAIで分析し、受注分析や活動履歴の要約、技術標準の抽出、議事録分析などに活用することを計画した。
構築したシステムでは、IBM AS/400上で稼働するERP(統合基幹業務システム)とkintoneを、データ連携ツール「DataSpider」で接続した。
これにより、営業・技術・調達・製造・品質管理・サービスなど、各部門の業務情報をkintoneに集約。部門間で情報を共有できるようにするとともに、蓄積したデータを分析や予測、AI活用につなげるための基盤を整えた。
受注約1.5倍、年間2万3000時間削減の成果
森氏によると、こうした取り組みを進める中で、受注は約1.5倍に増加し、年間約2万3000時間の業務時間削減も実現したという。業務時間の削減効果には、AIによる効率化は含まれていない。
特に効果があった取り組みの一つが、SFAやCRMを活用した部門間の情報共有だ。
案件登録、活動履歴、競合情報などのアプリを組み合わせ、顧客とのやり取りや要望、競合他社の情報などを一元管理できるようにした。
従来は営業・技術・工場の各部門が個別に業務を進めていたが、これらの情報を共有することで、営業・開発・技術の担当者が一つの案件チームとして連携できるようになった。
森氏によると、各部門が互いの業務を「他人事」と捉えていた状態から、案件全体を「自分事」として捉えるようになり、組織としての一体感が生まれたという。
さらに、kintoneと基幹システムの連携によって、受注情報やBOM、検査情報、サービス情報などを統合。PLM(製品ライフサイクル管理)を実現し、営業・技術・製造・検査・アフターサービスまで、受注前から受注後に至る一連の業務を横断的に管理できる体制を整えた。
蓄積したデータをAIで活用、会議・報告時間の削減にも効果
日機装では、全社データ活用基盤の構築を経て、蓄積したデータをAIで活用する第3フェーズに進んでいる。これに伴い、従来の「分散した情報を集約し有効活用していく」という方針から、「DX基盤とAIを活用した迅速な意思決定と新たなビジネスの創出」へと目標を転換した。
AIの活用領域は、営業支援、技術支援、組織管理など多岐にわたる。
営業部門では、案件管理や活動履歴のデータを基に、市場ニーズや開発ニーズを分析するほか、案件の要約や活動内容の自動整理などにAIを活用。技術部門では、技術標準やノウハウなどの重要情報の抽出に取り組んでいる。
組織管理では、日報や週報のデータを活用した分析レポートの作成や、業務上の問題点、潜在的なリスク、コンプライアンスに関する情報の抽出などを進めている。
森氏は、AIによる分析レポートの活用について、状況把握のための報告会やミーティングをほとんど行う必要がなくなり、会議時間の削減につながったと説明した。
今後は、ERPやkintoneとAIを組み合わせた経営判断の支援、設計・開発業務の効率化、AIエージェントによる業務プロセスの監視や品質向上などにも活用を広げる計画だ。
また、森氏はClaudeを活用したAIエージェント化による新たなビジネスの創出を掲げている。これまでに整備した全社データ基盤を、AIエージェントの活用へと発展させる方針だ。





