
米・ベンチャー企業の買収
「紙のカタログ販売から始まり、それがECサイトでの販売に代わった。今ではサイトを開く必要もなく、お客様がCAD(コンピュータ利用設計システム)データをアップロードすれば、自動で見積もりをして商品を提供してきた。AI時代のこれからは、お客様のものづくりの在り方を変える会社を目指す」
このように強調するのは製造業向け機械部品や金型部品の製造と流通を担うミスミG本社社長の清水新氏。清水氏はアクセンチュアで当時最年少となるエグゼクティブパートナーに昇進し、通信・ハイテクを担当。2015年執行役員を経て、24年にミスミG本社社外取締役から専務取締役CIO(最高情報責任者)。今年4月から現職に就いた。
ミスミG本社と言えば、現在4000万点を超える機械部品を受注から標準2日目には出荷するという「確実短納期」のビジネスモデルで知られており、「製造業の黒子」とも言われていた。業績は25年度通期売上高が4413億円と前年比9.8%増、営業利益も476億円と同2.4%増と増収増益を達成。26年度も中東情勢による原材料価格や輸送費上昇の可能性はあるものの、増収増益の決算を見込んでおり、堅調な推移を見せる。
しかし、清水氏は「AIで広がる市場に目を向ける必要がある」と危機感を抱く。足元の主力事業を伸ばしつつも、新たな市場の開拓を見据える。「当社の扱う製品群は少量多品種で、短期間かつ正確に納品できるビジネスモデルだ。つまり、大量生産する商品向けではなかった。そのため顧客も製造装置産業が多い」と自社の事業の概要を語った上で次のように話す。
「新しい製品をつくるためのローンチパートナーのような立ち位置だからこそ、これまでにない新市場が立ち上がるのであれば、当社も立ち位置を変えていかなければならない」
清水氏が新市場として視野に入れるのが、フィジカルAIやロボティクス、半導体、光電融合(光信号を扱う回路と電気信号を扱う回路を融合する技術)、そして航空宇宙などだ。「これまでのビジネスモデルの成長が鈍化しつつあるという感覚の中で、新たな成長のモメンタム(推進力)を生み出すことが必要だ」と同氏は自らの役割を自負する。
例えば、ロボットの関節や宇宙船のエンジンなどは自動車や電化製品と違って、サプライチェーン(供給網)も何もない領域だ。しかし、今後、需要の急増が見込まれる分野でもある。「特注品とも言えるような製品の製造に関して、将来の大量生産時を見越したスペックをお客様と一緒に考えていくお手伝いをしていく。25年に米国企業を買収したのも、その一環だ」(同氏)。ミスミG本社が買収したオンライン部品加工の米ベンチャー「フィクティブ」は米スタンフォード大学出身で、現在30代の創業者が起業した会社だ。
フィクティブは量産品よりも試作段階の製品を素早く提供できる強みを持っており、試作品から量産品へとステージが進む際に求められるコスト管理や品質保持を得意とする。一方でミスミG本社は顧客に製品の変数を決めてもらい、それに合わせて生産してすぐに送ることができる。「1個流し」と言われる対応力に代表される「標準化」で成長してきた歴史がある。
800垓に上る商品群を扱う
ミスミG本社は1963年にベアリングや電子機器を扱う専門商社として出発し、77年から製造を協力会社に委託してプレス金型用部品のカタログ販売を始めた。当初はミスミG本社の営業マンが顧客から注文を聞いて回っていたが、それでは互いに時間と手間がかかる。そこで77年から始めたのがカタログ販売。顧客から型番を聞けば、それと寸分違わぬ製品を提供するようになった。
そして進化は続く。カタログそのものがECサイトに変わり、さらにはECサイトを開く必要もなく、CADの図面から購買・調達ができるサービスも開発・提供。CADを知らない作業者でも「イメージ図を描けば、どんな構成材が必要になるかをAIが導き出す」(同)。こういったミスミG本社の事業の進化の歴史を清水氏は「お客様に近づく歴史だ」と話す。
その過程でミスミG本社は日本では日本、米国では米国で売れる製品を届けるのではなく、世界中で統一した製品を短期間で届けるビジネスモデルを磨き上げてきた。それは世界中に約4000社のパートナー企業とのネットワークがあるからだ。
清水氏は「デジタルtoフィジカルは我々のユニークさであり強みだ」と語り、同じ品質の製品を世界中に届けることができる自社の強みを広げていく考えを示す。
その数は約4000万点という製品群数になって表れている。しかも、バリエーションを含めると、800垓(1兆の800億倍)という数だ。同社は、そのうちの僅か1つを受注から標準2日目に出荷することができる。そして清水氏は「フィクティブは特注品に強く、当社は標準化に強い。彼らと一緒になることで、顧客からの要望にも広く応えられる」と話す。
成功体験の逆襲─。どの企業にも当てはまるジレンマに直面しようとしているミスミG本社。清水氏の旗振りの下で自己変革を実現できるかどうかは、社員の意識改革にかかっている。