東京建物・トフロムヤエスが生み出す「化学反応」 権利者約250人、25年の歳月をかけて

東京駅周辺になかった「エンタメ性」を備える

 

「日本中、ひいては世界中の『ヒト、モノ、コト』がここに集まってつながり、多様な価値が生み出され、発信されていく場所になって欲しい」─こう話すのは東京建物社長の小澤克人氏。 

 2026年7月15日、東京建物が再開発組合の一員として再開発を進めてきた、東京駅八重洲口前の大規模複合施設「トフロムヤエス」が完成を迎えた。「トフロム」は英語の「TO」と「FROM」を組み合わせた造語。 

 トフロムヤエスは、地上51階で高さ約250メートルの高層タワー「トフロムヤエスタワー」と、地上10階で商業施設などが入る「トフロムヤエスザフロント」の2棟で構成されている。 

 このうち、トフロムヤエスタワーは開業日が26年9月10日に決定。トフロムヤエス ザ フロントは7月15日に竣工し、工事を経て、27年春頃の開業を予定している。オフィス、商業施設だけでなく、カンファレンスや医療施設、バスターミナル、さらには東京駅周辺にはなかった「劇場」を整備、エンターテインメント性も備える。 

 八重洲は歴史的に町人・商人の街。そのため区画が細分化されており、なかなか再開発が進まず、街の潜在力を発揮できずにきた。一方、駅の反対側の丸の内、大手町は武家屋敷が連なっていたため、区画が大きい。 

 この八重洲では他にも、三井不動産が開発した「東京ミッドタウン八重洲」を始め、複数の再開発プロジェクトが進行中だが、東京建物のトフロムヤエスは、その中でも「最難関」の開発と目されてきた。 

 その理由としては権利者が約250人と多いことが挙げられる。実際、開発までに25年の歳月を要した。再開発組合の理事長を務める加藤一男氏は「その道のりは決して平坦ではなく、幾度となく困難や課題に直面してきた。しかし、この街を愛する地権者や地域の皆様、また関係者の皆様と力を合わせ、私達の世代で必ずこの街を未来へ繋げていくという、その一心で一歩一歩歩みを重ね、今日を迎えることができた」と話す。 

 加藤氏はここまで何が大変だったかを問われて「合意形成」と答えた。ある権利者が再開発に賛成したかと思えば、亡くなって代が変わると、また一から話をしなければならないということが「再三繰り返された」(加藤氏)。加藤氏自身も寛永3年(1626年)創業の「割烹 嶋村」の8代目で、地域に根ざした商売をしてきた1人で街への思い入れは深いが、それは他の権利者も同様。 

 東京建物社長の小澤氏も「振り返ってみても本当にいろいろなことがあった。地権者の方々が話を始めた時期を考えると、25年よりも、もっと長い時間が経過している。東京駅の真ん前で、権利に対するこだわりは当然ながら皆様非常に強く、権利のぶつかり合いということも当然あった」と振り返る。 

 そうしたぶつかり合いを経て、「地権者の皆様、我々東京建物も含めて、この街に根付いて生きてきた1人ひとりが、何とかこの街をよくしていきたいという思いが最後に結実して、このような形の再開発としてまとまった。創業130周年というタイミングで完成を報告できたことを嬉しく思う」と話す。

 

周辺に広がる歩行者ネットワーク

 

 前述のように、現在八重洲口では三菱地所の「トーチタワー」、東京建物の「八重洲一丁目北地区」、三井不動産の「八重洲二丁目中地区」、住友不動産の「八重洲二丁目南地区」といった複数の大規模再開発が進行中。こうした再開発の進展で、八重洲の一部のビルの賃料が、駅反対側の丸の内を上回るという状況にもなってきている。 

 東京建物社長の小澤氏は丸の内・大手町との違いに触れ「丸の内や大手町と違って多くの路地裏も残り、様々な店舗が軒を連ねる。そこに最新鋭のオフィスビル、複合施設が登場する。この融合が面白さにつながる」と話す。その評価もあってか、オフィスはすでに8割超の入居が決まっている。 

 さらに、このトフロムヤエスの完成、さらなる周辺の再開発の進展で東京駅周辺をつなぐ「地下ネットワーク」がさらに広がる。東京建物の再開発は、このネットワークのカギを握っている。 

 前述の旧みずほ信託銀行本店などの跡地を再開発する「八重洲一丁目北地区」は呉服橋交差点地下を整備し、日本橋駅と東京駅が地下でつながる。また、京橋駅近くで、警察博物館、自社開発のビルやホテルなど、低層建物が複数立地していた場所を再開発する「京橋三丁目東地区」で京橋駅とも連結。今後は、東京駅、日本橋駅、京橋駅など、周辺の10駅ほどがつながり、全て徒歩で移動することが可能になる。 

「街に開かれたトフロムヤエスを介して、東京駅と周辺の街をつなぐ『ウォーカブルな街』八重洲としての魅力向上にも貢献していく」(小澤氏) 

 自社だけでなく、他社の再開発ともつながって、街の魅力を高める─。東京・八重洲で進む再開発は、東京の新たな顔であり、丸の内・大手町とはまた違う価値を生み出そうとしている。