経団連常務理事・岩崎一雄の【 書評 】 『未来思考2045』

激動する世界を生き抜くための「羅針盤」を得るために

 

 いま世界は、大国間の対立、各地での戦争、100年ぶりのパンデミック、さらに人の知能をAI(人工知能)が上回る「シンギュラリティ」の可能性など、誰もが想像しえなかったような変化が生じています。

 先行きが読めない状況はしばしばVUCA(ブーカ、変動的=Volatile、不確実=Uncertain、複雑=Complex、曖昧=Ambiguous)と言われますが、著者は「今の世界はVUCAではない」と喝破します。

 確かに変動性と複雑性は増しているが、不確実性と曖昧性は増しておらず、むしろ構造体としての世界の予見可能性は高まっているとされます。

 本書ではこのような認識をもとに、これから何が起きるかを思考するための技法、すなわち「未来思考」を誰もが身につけられるように、その方法が具体的に解説されます。

 これは単なる「未来予測」とは異なります。「予測」は当たるかどうかが問題となりますが、「未来思考」においては、未来を生み出す世界の背後にある「構造・関係・因果」を見極めることが核心となります。

 タイトルにある2045年は、10年単位のテクノロジーの進化、100年単位の人口動態と地政学的変動、1000年単位の文明の転換、1万年単位のホモ・サピエンスとしての人体の改変、10~100万年単位の気候変動と、これら全てが交差する巨大な転換点だと位置づけられます。

 そして2045年に向けたシナリオとして、デジタルレーニン主義にも通じる国家テクノクラシー、ビッグテック企業が主導する企業テクノクラシー、テクノ・リバタリアン的な自律分散経済、健全な民主主義を重視するテクノ民主主義の四つが提示されます。

 重要なことは、どのシナリオが「正解」かではありません。各主体がどのようなシナリオを描き、選び、行動することこそが未来思考の「本質」だとされます。激動の時代を生き抜くための「羅針盤」を得るための一冊と言えます。

冨山和彦【書評】『人間には12の感覚がある』