
第1四半期で2年ぶりの黒字
「日本はグローバルなダイヤモンドになるべきだ。本当に輝くダイヤモンドにするために磨かなければならない」─。日産自動車社長兼CEOのイヴァン・エスピノーサ氏は日本事業とASEAN事業を統括するマネジメントコミッティ議長の山﨑庄平氏にこう発破をかける。
経営再建中の日産が進める構造改革が奏功し始めている。2026年4―6月期連結決算では純損益が約37億円と黒字転換。4―6月期としては2年ぶりの黒字となった。その大きな要因が固定費と変動費の改善や円安といった外部要因が1つ。
もう1つは同社が成長と収益の牽引役として最優先で資源を投下し、商品・技術・ブランド展開の中心拠点と位置づける日本・米国・中国という「リード市場」で販売が増加に転じた点だ。日本では前年同期比1.3%増の約8.8万台。米国は同4.2%増の約33万台、中国は同7.2%増の約13万台となった。
その中でもエスピノーサ氏は日本での販売増加にこだわりを見せる。日産は経営再建計画「Re:Nissan」でAIを活用することによって新型車の開発期間を従来の50カ月程度から30カ月程度に短縮する取り組みを進めており、25年度から新車のラインナップを刷新している。
同氏は「開発期間を短縮することで、短期間で新型車を投入できる。日本では7車種を12カ月で投入する。これは日産にとって日本がどれだけ重要であるかという証だ」と話す。エスピノーサ氏が社長に就任する数年前までは、業績低迷からの脱却に向けた止血策に加えて経営陣の混乱も起こり、主力車種のフルモデルチェンジが遅れた。
その結果、トヨタ自動車やホンダなどが継続的に新車を投入していた一方で、日産の販売現場からは「売れる車がない」といった声が上がった。古くは1960年代に「サニー」や「ブルーバード」「グロリア」といった人気モデルを相次ぎ投入し、スポーツカーの「スカイライン」と「フェアレディ」は現在も日本を代表する名車となっている。そういった数多くの車を生み出してきた日産だったが、その輝かしい実績も鳴りを潜めていた。
直近では、2010年に世界初の量産型電気自動車(EV)「リーフ」を投入した実績はあるが、17年度の約562万台の世界販売台数をピークに右肩下がりを続けて25年度は約315万台。日本での販売台数も17年度は約58万台だったが、25年度は約40万台になっている。
新型「キックス」「エルグランド」
反転攻勢─。世界販売台数のうちの1割強に過ぎない日本で新車投入が始まった。エスピノーサ体制になった半年後の25年10月に軽自動車の新型「ルークス」を発売。12月初旬の時点で約2.2万台を受注した。続けて新型「リーフ」を発売し、4カ月で6000台を受注した。
そして今年上半期で話題に上ったのが小型の多目的スポーツ車(SUV)の「キックス」だ。6年ぶりのフルモデルチェンジとなる。SUVは25年の日本の新車販売台数のうち約2割を占めるほどの売れ筋の激戦区。そこで新型車を投入したのだ。新型キックスは国内で初となる日産独自のハイブリッド(HV)技術「eパワー」の第3世代を搭載。燃費や静粛性を高めた。
300万円切る価格で投入したコンパクトSUVの新型「キックス」
6月からの約2カ月で「1.1万台を超える受注」(同)を得たキックス。コンパクトなSUVの領域でライバルとなるホンダの「ヴェゼル」が25年に約6.7万台販売したのに対して旧型のキックスは1万台を割り込んでいた。新型は最先端の技術を搭載し、価格も約300万円という安価な価格を設定。
国内でマーケティング&セールスを担当する執行職の杉本全氏は「新型キックスは日産の事業を支えるコアモデルであり、日本市場で初めて第3世代のeパワーを搭載する重要な戦略モデルだ」とその意義を強調する。
さらに新型車の投入は続く。16年ぶりにフルモデルチェンジした大型ミニバン「エルグランド」だ。競合するトヨタの「アルファード」が約8.7万台(25年)の販売実績で独走している中での投入となった。キックスとは違い、エルグランドはアルファードより20万円以上高い価格を設定。eパワーに加え、4つの車輪を電動でそれぞれ制御する「eフォース」や世界初となる騒音を打ち消すノイズコントロール機能なども搭載した。7月に発売したが、8000台以上の受注が寄せられている。
今後予定されているのは冬場あたりに発表される見込みの新型「スカイライン」。続けてアウトドア志向のSUV「エクストレイル」の新型も控える。さらに既存モデルとは別の「(小型車の)『ノート』と(ミニバンの)『セレナ』の間の車」(エスピノーサ氏)の導入も検討される。
エスピノーサ氏は「それだけ日本での業績改善が必要だということだ」と強調した上で、「国内には最高の開発部隊がおり、先進技術も生産拠点もサプライチェーン(供給網)も揃っている。競争力を磨いて最高レベルのパフォーマンスをあげられる材料が揃っている」と語る。
Re:Nissanでは、30年度までの販売台数は米国と中国は年間100万台、日本は55万台を目指している。エスピノーサ氏が自信を示す同社の技術力を消費者に伝えるためには車という商品で訴求するしかない。
米トランプ関税や中東情勢に伴う原材料高騰など外部要因が大きく影響する中で、日産は商品群で全方位戦略をとるトヨタや低価格のEVで存在感を示す中国のBYD、高級路線のドイツ勢などとは違った生き残り方を模索していくことになる。
