ヤマトホールディングス・櫻井敏之新社長を直撃! 「宅急便の発売から50年、新しいビジネスモデルをどう開拓していきますか?」

まずは早期の業績回復を!

 

 ─ まずは社長就任の抱負から聞かせてください。 

 櫻井 足元の状況を考えると、まずは早期に業績を回復させていかなければいけないと考えています。コロナ禍の2021年3月期に当社は最高益を上げています。当時は巣ごもり需要でeコマースの荷物が爆発的に増え、あわせて在宅率が上がりました。当社のオペレーションの生産性も上がり、大きな利益につながりました。 

 しかし、そこからは利益ベースが落ち込み、回復が遅れている状況です。私の役割は、まずは足元の業績を回復させることです。コロナ禍ではeコマースの荷物が増え、当時は今後もそれが伸びていくと言われていましたが、今はそこまでの勢いに至っていません。 

 日本の小売りのeコマース化率は、海外と比較すると低い水準にあり、約10%にとどまっています。もちろん、今後も伸びていくと思うのですが、消費が物価高で弱含みとなり、インフレも進んでいます。当社も上昇する人件費などのコストを踏まえ、サービスの価値に見合ったプライシングやオペレーティングコストの適正化を進めています。 

 ─ 喫緊の対応策とは。 

 櫻井 「宅急便」は今年で発売50周年を迎えました。全国にある仕分けターミナルや約2700の営業所も老朽化が進んでいます。これらをリニューアルしながら、拠点を適正化するために、都市部を中心に営業所の集約を進めています。また、コロナ禍に、ロジスティクス倉庫や荷物の仕分けターミナル、EV(電気自動車)の集配トラックなどに投資しました。 

 加えて、外部パートナーによる配送ネットワークも整備しました。これらの設備が荷物の需要とマッチしない状況が、ここ数年続いています。少し構えが大きくなりすぎてしまったということです。これを正すのが「聖域なき見直し」と言っている一部です。きちんと身の丈に合った形で適正にしていきます。 

 ─ 門構えを小さくするだけではないようですね。 

 櫻井 そうです。拠点の集約による資産効率の適正化だけでなく、お客様の在庫を預かりながら付加価値をつける「コントラクト・ロジスティクス(CL)」という3PL(物流業務一括受託)のビジネスの活用も進めています。1つずつ検証し、スピードを上げて取り組んでいます。 

 ─ それではCLの拠点は増やしていくのですか。 

 櫻井 はい。荷物の仕分け機能がある物流ターミナルは全国に約80カ所あります。同じ施設内でロジスティクス機能も併せ持った「統合型ビジネスソリューション拠点」を増やしており、今年度は滋賀・湖南、東京・東雲、岡山・早島、福島・郡山の4カ所に企業物流向けの大型倉庫を新設します。当社はCL事業を次の成長の柱として位置づけていますので、こういった形で投資はきちんとやっていきます。 

 

非宅急便事業の拡大に向けて

 

 ─ ヤマトグループの社員は約17万人。現場のドライバーは足りているのですか。 

 櫻井 場所によります。そのため、荷物の需要に合わせて、密度の濃い地域にセールスドライバーを配置していく必要があると思っています。転居を伴う転勤ではなく、エリアの中での配置の見直しです。これは必要に応じてやっています。合わせて営業所にもAIを導入し、事務の仕事はAIで効率化・集約し、営業に注力できる体制の構築も進めています。 

 ─ 誕生から50年を迎えた宅急便とCLの事業比率は今後どう変わっていくのですか。 

 櫻井 今は2024年から始めた中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」の最終年度に当たり、次の中計の策定を行っています。そこでポイントとなるのが宅急便以外の事業をどれだけ伸ばせるかです。ここにかかっていると思っています。 

 

ロジスティクス機能も併せ持った「統合型ビジネスソリューション拠点」(東京都)

─ そのための設備投資も行っているということですか。 

 櫻井 そうです。先ほどの4カ所の新しい拠点もそうですが、お客様の案件や契約に合わせて投資をしていくというイメージです。お客様のサプライチェーン(供給網)は海外にも広がっています。当社も国内に閉じることなく、フォワーディング(貨物の国際輸送手配や通関など一連の業務)や海外でのロジスティクスも行っています。そういったグローバル領域も広げていこうと思っています。 

 また、当社はEVを約6000台導入しています。この導入に当たってのノウハウがかなり蓄積されており、このノウハウを外部にもご提供できることが分かってきました。そこで「ヤマトオートワークス」というトラック・バスの車両管理・整備のグループ会社を中心に、商用車ユーザーの脱炭素化を支援する「EVライフサイクルサービス」を展開しています。 

 さらにヤマトグループの事業所の屋根に太陽光パネルを設置して再生可能エネルギーを発電するエネルギーマネジメントの会社を新たに設立しています。発電した電力を事業所で利用するだけでなく、余った電力をグループ内で融通したり、蓄電池を活用しながら効率よく電力を運用することで、初年度からしっかり黒字化できています。

 

全国に拠点がある強みを生かす

 

 ─ 物流以外の領域での取り組みも増えていくのですか。 

 櫻井 ええ。例えば、農業です。ヤマトグループには「ヤマトシステム開発」というシステム会社があります。実は同社の開発したシステムのうち、およそ半分は外部のお客様に販売しています。このシステム開発力を生かし、生産者向けにオンラインで受注管理をするシステムを開発・提供しています。個人農家でもオンライン上で受注を取って販売できるような仕組みです。 

 他にも物流に関連する様々な伝票発行などの仕組みはヤマトシステム開発がもともと得意な領域ですので、顧客の要望に合わせてカスタマイズをした案件も担っています。このように当社の強みは全国にお客様がおり、宅急便でお取引があるので、顧客基盤があるということです。 

 全国規模で生産者それぞれのニーズに合ったシステムの導入ができるシステム会社はあまりありません。一方で当社は全国に拠点がありますから、すぐに現場に駆けつけて生産者や中小企業の方に迅速に対応できます。これは結構な強みだと思っています。 

 ─ 地方創生を推進できるということですね。 

 櫻井 そうです。地方は都市部以上に人口も減り、産業も減っています。しかし、当社は地方にも宅急便のネットワークを張っています。このネットワークを地方でも活用できると同時に、これをいかに維持するかという観点では、宅急便だけではない仕事を地方でいかに見つけていくか。そのためには地域課題をきちんと吸い上げて向き合っていけるかが大事になります。 

 ─ そういった新たな役割を担う中で、社員にはどういった言葉を投げかけていますか。 

 櫻井 企業のブランド力を調査するランキングで当社が3年連続で総合1位となりました。先人の皆さんの努力の積み重ねによって、今の宅急便が世間から認知されているということだと受け止めています。ですから、私たち経営陣がこのブランド力をもっと生かし、業績や社員の処遇、株価などにも反映させていかなければなりません。 

 社員1人ひとりが自分たちの仕事に誇りを持ち、会社のことが好きであるというところは当社の良い点だと思っています。私から社員へのメッセージとしては、「皆さんが会社をもっと好きになれるような会社にしていくのが私の役割だ」と言いました。特に若い社員にはベテランの社員から、そういった想いを伝えて欲しいと思いますね。

 

母からの贈り物が楽しみだった

 

 ─ 櫻井さんは第1次オイルショックが起きた1974年の生まれです。ヤマト運輸への就職を志望した動機とは。 

 櫻井 私の生まれた年は、いわゆる第2次ベビーブームの頂点の時期で、就職氷河期のど真ん中でもありました。私が大学生として就職活動をしている最中に山一證券が倒産したことは印象に残っています。 

 大学進学を機に上京し、東京で学生生活を送っていました。その中でヤマト運輸を志望したのは、毎月、実家の母親からいろいろな荷物が送られてきたことがきっかけです。毎月何が送られてくるのかが、ちょっとした楽しみになっていたんです。というのも、私の実家は農家で、イチゴや野菜などが送られてきたり、母の手料理が送られてきたりしたからです。 

 ─ お母さんからの荷物がヤマト運輸の「宅急便」で送られてきたということですか。 

 櫻井 ええ。今だとあまりないのでしょうが、そういうことをしてくれていた母でした。ですから、母から何が送られてくるかが楽しみだったんです。そしてあるとき自分が初めて荷物を送ろうと思って、どこから送れるのかと調べてみると、コンビニエンスストアから送れることが分かり、実際に宅急便を送る手続きをしてみたんです。「これは便利だし、人に幸せを感じてもらえる、すごくいい仕事だな」と思いました。 

 もう1つは、実家が農家だったこともあり、これからは一次産品を全国に送る時代が来るとも思っていました。当時はまだ今のようにネット通販が普及していませんでしたが、そういう時代になっていくだろうなと思っていました。そういう仕事にも携わりたいと思ったことがヤマト運輸に入った理由です。 

 ─ 最初の仕事はどんな仕事で、どう生きていますか。 

 櫻井 東京都大田区の京浜島で海運の通関業務などを担当しました。いわゆる国際物流部門です。毎日お客様と顔を合わせて動き回る宅急便の仕事と違って、輸出入書類をつくる仕事が主だったので、あまり刺激的ではありませんでした(笑)。 

 ただ、国際物流の基本的な知識を身につけることができました。この部門には約4年半在籍し、最後の時期には営業を担当し、1人でお客様に様々な提案をしていました。例えば、海外から材料を仕入れて宅急便で流通加工してお届けするような提案です。 

 いま考えると、若い時期にそういった提案ができたことは貴重でしたね。このときの経験が後の仕事にも生きてきました。その後、本社の人事で、宅急便を生み出した小倉昌男さんが始めた障がい者の自立と社会参加を支援する「スワン」の障がい者雇用の採用全般や評価制度の構築を担当しました。そこで会社全体の仕組みや人財の重要性を俯瞰して見ることができるようになりました。 

 ─ 人事での経験を通じてリーダーのあるべき姿をどう考えていますか。 

 櫻井 会社には様々な人がいます。その中で、いかに最大限のパフォーマンスを出してもらうかが大事です。評価制度はその中の根幹の仕組みです。対話をして、それぞれの良さを引き出して、全体のパフォーマンスを最大化させるのが、リーダーの役割だと思います。それは当社の一番大事なことだろうと思っています。

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