【現場一筋の新社長を直撃!】鹿島・桐生雅文社長に聞く「建設業の改革をどう進めていきますか?」

建設業の魅力を高めるためには?

 

 ─ 桐生さんは入社42年間のうち、35年間を現場一筋で仕事をしてこられたそうですね。 

 桐生 そうです。現場の経験が長いことで、今の弊社が建設業界が抱える問題の解決ができるかというと、そう簡単ではありません。ただ、現場の状況は社内でも最も身近に感じてきたわけですから、少しでも解決のための知恵出しができればと考えています。 

 ─ 日本全体で生産性向上が課題ですが、建設業としての課題をどう認識していますか。 

 桐生 少子高齢化で労働者の数が減っている中で会社の成長を考えなくてはならないとすると、生産性を向上させるしかありません。その中では労働力を現状維持プラスアルファで増やしていくことも重要です。 

 しかし今現在、建設業に魅力があるのかどうか。日本国内で入職者を増やすには魅力ある建設業にしていかなくてはなりません。では、これから入ってきてくれるだろう人たちにとっての魅力とは何かと考えた時には、やはり賃金や休暇が大事になってきます。 

 また、戦後続いてきている重層下請け構造の解消も課題です。これは我々の業界の構造上、仕方がない面もあったかもしれません。いくつかの層があり、それによって現場で必要な技能者の数を確保してきたわけですが、それによって途中途中の層で経費がかかってしまう。この重層構造を例えば1次、2次だけにすることで、最先端で働いている技能者の賃金が確保できることになります。これは業界全体で進めていかなくてはなりません。 

 ─ 業界全体で、これまでの慣行を見直す必要があると。 

 桐生 ええ。どうしても人を集めるためには重層になりがちで、簡単に変えていけることではありません。建設業の特殊性もあり、仕事量の多寡に対応して人を増やしたり減らしたりするわけです。例えば雨で工事ができない期間があった時、それでもマイルストーンとして、いつまでに仕上げなければならない工事があると、急遽大勢の人を入れなければなりません。これが重層化の要因でもあります。 

 難しい課題ですが、目的は最先端で働いている技能者に、しっかりと労務費が行き渡るようにすることです。我々建設業界、日建連(日本建設業連合会)を含め、考えていかなければなりません。 

 弊社としても、1次協力会社に対しての支払い条件をよくしたり、現金支払の比率を高めるといったことに取り組んでいます。弊社にとってはキャッシュフロー上の負担にもなりますが、協力会社さんにはしっかりした経営をしていただかないと、人の供給をしていただけなくなります。 

 ─ 建設業では外国人労働者も多く働いていますが、彼らの処遇をどう考えますか。 

 桐生 彼らも生活習慣も文化も違う場所で不安だと思うんです。しかしお金を稼いで母国に送るといった目的を持っています。様々な不安を取り除き、気持ちよく仕事をしてもらうための取り組みが必要です。細かいところでは工事現場内の看板や標識を、それぞれの国の言葉で書くといったことも1つです。 

 今は円安で、日本に来るよりも別の国で働いた方が稼ぎがいいという問題もありますが、やはり東南アジアを中心とした国々の方々の力を借りなければ、我々はやっていけませんから、極力日本に来てもらえるような取り組みが必要です。 

 ─ AI(人工知能)の進化が著しいですが、こうしたデジタル技術をどう活用しますか。 

 桐生 活用する必要があります。1つは事務です。本社、支店の業務もそうでしょうし、工事現場の中での品質管理、原価管理、支払いといった事務的な業務もデジタル、AIで効率化することが重要です。 

 また、技術者の仕事は、従来は「先輩の背中を見て学ぶ」世界でした。特に現場の施工や技術の管理は明文化したマニュアルのようなものは、一部でしか存在していませんでした。 

 それを私の前任の天野(裕正氏)が先人の知識をデータ化して、それを共有して伝承するということを強力に推進してきました。常に更新していかなければならないものですから、私たちはこれを引き継いで、さらに高みに持っていきたいと考えています。 

 もう1つ、工事現場内でのフィジカルAIの活用という話も出てくると思います、ただ、屋外作業、単品生産、1つの建物の規模が大きいといった建設業の特殊性の問題があります。 

 一般製造業のように工場の中で、ベルトコンベアで運ばれてきた部品をロボットが取り付けて最終製品にしていくというわけにはいきません。また、施工中は現場の状況が日々変化するので、移動式ロボットの利用も難しいですが、部分部分では活用したいと考えています。 

 ─ ロボットの活用も様々な工夫が必要だと。 

 桐生 ええ。他にも建築の分野では天井ボードをはめ込むロボットや、工事の基準となる線を引く「墨出し」を行うロボットなども活用が始まっています。 

 また、土木分野ではカメラを付けた4足歩行ロボットや、ドローンの活用も進んでいます。また、ロボットではないですが、大規模な造成工事では、無人の重機が担う「4ACSEL(クワッドアクセル)」という自動化施工システムを開発し活用しています。 

 建築は、その現場ごとの個別性が強いですし、同じ作業を繰り返し行う機会はあまりないため難しい面もありますが、土木はデジタルやAIを活用した自動化が、建築に比べた時に進めやすいという面はあるかもしれません。

 

鹿島の建築部門の「原点」につながる工事

 

 ─ ところで、桐生さんが大学卒業時に建設会社を志望した理由を聞かせて下さい。 

 桐生 小さい頃からモノづくりが好きでしたね。手先が器用な方で、プラモデルづくりに加えて、刺繍や料理なども得意です。ですから身近でモノづくりを実践している大工さんに憧れていたこともあり、建築学科に入りました。 

 当初は設計士を目指しましたが、学ぶ中で自分にはセンスがないことを痛感しました。そこで原点に返って施工管理の仕事をしたいということでゼネコンを志望しました。 

 ─ 今まで関わって印象に残っている仕事は? 

 桐生 若手時代で言えば、東京・田町の日本電気(NEC)本社ビルです。経団連副会長などを歴任した関本忠弘さんが社長の時代ですね。1986年に着工して90年に竣工しました。 

 施工担当者の1人として携わったわけですが、朝から晩まで働き、たくさん残業もしました。その分、当時の所長以上に、私が隅から隅まで現場について知っていたという自負はあります。 

 メインの鉄骨工事を担当させてもらったのですが、当時のH型鋼は、10センチの厚みがありました。これをつなぎ合わせる溶接には8時間かかったんです。こうした工事を通じて建物ができた時の達成感は本当に素晴らしかったですね。建設業に入ってよかったと実感する瞬間でした。 

 今の若い人たちは価値観も違いますから、それを押し付けるわけにはいきませんが、そういう素晴らしい経験をしてもらいたいと思いますね。やってみたら、こんなに素晴らしい仕事はないと思えると思うんです。 

 ─ 所長として、三井不動産が開発した「東京ミッドタウン日比谷」の工事を手掛けたそうですね。 

 桐生 ええ。鹿島の建築部門の仕事として著名なのは映画『超高層のあけぼの』の題材になった「霞が関ビルディング」ですが、東京ミッドタウン日比谷の前身の「日比谷三井ビルディング」が当時、東洋一のオフィスビルと言われており、これを鹿島が施工したんです。 

 この工事が足がかりとなり、霞が関ビルを手掛けることになりましたから、我々鹿島の建築部門の人間が絶対に忘れてはいけない建物が、先輩方がつくらせていただいた日比谷三井ビルです。東京ミッドタウン日比谷は、その建て替えということで非常にプレッシャーがありました。 

 ─ 時代が変わっても、モノをつくるという情熱は変わらないのではないかと思います。 

 桐生 そうですね。大事にしたいのは、建物をつくってくれる多くの関係者です。その中でも最後のアンカーである現場で働く技能者の方々がその気になってくれることが大事です。 

 最後はロボットではなく「人」がつくるわけですから、どんなにいい設計、いい材料、いい環境でも、技能者の方々が「いいものをつくるんだ」という気持ちにならなければ、いい建物にはなりません。 

 ─ 建設の仕事は人とのつながりで成り立つ仕事ですね。 

 桐生 そう思います。材料もオーダーメイドのものが多いわけです。例えばサッシやガラスなども、そのプロジェクトのために協力会社が工場でつくってくれるのです。そうした人たちも大事にしなければ建物はできません。 

 我々は工事の最後に工事関係者で銘板というものをつくることがあります。この名前で前の方に来るのは発注者でも、我々でもなく、名前のあいうえお順です。序列などはないんです。こうした銘板をつくることを発注者に相談すると、だいたい賛同していただけます。

 

海外展開への考え方は?

 

 ─ 少子高齢化の話がありましたが、海外展開への考え方を聞かせて下さい。 

 桐生 売上高では約3兆円のうち約1兆円が海外ですから、今後も注力していきます。 

 ただ、海外では建築だけでなく開発も手掛けています。開発から施工まで一気通貫のもの、設計ないし施工のみに携わるもの、竣工後の建物管理まで担うもの、様々なパターンが考えられます。その国、地域ごとの特性を踏まえて、我々の海外事業にとって、何が一番いい形かを見極めながら進めていく必要があります。 

 ─ 高市政権が進める戦略17分野への投資にはどのように関わっていきますか。 

 桐生 例えばバイオや半導体が含まれていますが、バイオで言えば、弊社にはエンジニアリング部門があり、そこと一体となって進めていきます。この分野では実績もあり、お客様にいい提案をし、設計、施工、アフターメンテナンスまでの一気通貫で仕事をさせてもらえればと思っています。 

 もちろん半導体、さらにはデータセンターといった分野は、まだまだこれから需要が出てくると見ています。電力の確保が今後さらに重要になります。 

 ─ その電力分野にも取り組んでいるわけですね。 

 桐生 どんどん広げていかなければいけないと考えています。グリーン電力と呼ばれている分野では、風力発電にも関わっています。陸上のみならず洋上風力も今後、力を入れていきたい分野の1つだと思っています。 

 ─ 世界的にインフレ傾向が強まっており、資材価格上昇がコストアップに跳ね返ると思いますが、どう捉えていますか。 

 桐生 全体的にコストアップになっている中で人件費もそうでしょうし、原材料のアップもそうです。材料のアップはロシア・ウクライナ戦争から続いています。今はそれに加えて中東における米・イスラエルによるイラン攻撃もあり、上昇が続いています。 

 この価格が下がるかどうかはわからない部分ではあります。ただ、これをきっかけに調達先の多様化、拡大をするという形で、プラス思考で考えると、いいきっかけにもなったのではないかと考えています。