集中治療室(ICU)に勤務する看護師は、病院の方針と患者・その家族らとの間で対立が生じやすく、この解決のためには職場で他の職種とコミュニケーションを取れる環境づくりや相談体制が重要であることを、東京情報大学の研究グループが明らかにした。看護師は勤務のきつさや人間関係などから、離職率が低くない。とりわけ高度な医療を提供するICUは、様々な葛藤が生じやすい。看護師はどのライフステージでも働くことができるため、病院側が体制作りを進め、離職しにくい組織づくりをすべきだとしている。
東京情報大学看護学部の山内英樹教授(成人看護学)らは、国内54施設のICUに勤務する看護師168人に調査し、看護学で重要とされる「その人らしさを支える」ために行いたいと感じたものの、病院や周囲の専門職、家族の方針でできなかったケアについて尋ねた。
こうした、倫理的に望ましいと考えるケアが、様々な制約によって実践できない際に生じる苦しさは「道徳的苦悩」と呼ばれている。なお、調査は2022年に行ったので、新型コロナウイルスの治療で面会制限や、普段通りの医療提供体制ではないなど、とりわけ看護師らに負荷がかかりやすかったといえる。
その結果、終末期医療や多職種連携、医師主導で決まる治療方針において起こりやすいことが浮き彫りになった。1日でも早く療養の病床に移ったほうがいいのに、空きの関係でICUでの入院が伸びたケースや、回復の見通しがないのに、家族らの意見によって人としての尊厳が尊重されない事態になっているといった事例が浮かび上がった。
また、正しい行動や倫理的な問題をどのように扱うかの共通認識を、院内スタッフが持っているかどうかという「職場の倫理的風土」についても同時に調べた。倫理的風土に対する評価が低い看護師ほど、多職種の連携の難しさから生じる苦悩が高かった。
より詳しく道徳的苦悩への対応状況を調べるため、同意が得られた11人の看護師に聞き取り調査し、どのように対処したかを尋ねた。マンパワーが足りないからとあきらめて順応する「組織順応型」、同僚と話し合い、専門性を高めるために別の方法をとる「専門的成長型」、離職を検討する「離職意向型」という3つのパターンに分かれた。
看護師らは悩みながらもこれらの3つのパターンを行き来していた。パターンの変化には、組織での看護師に対する支援や、職場環境の調整が影響していた。離職意向型だったとしても、環境の変化などで組織順応型になり、職場にとどまるケースもあった。
山内教授は大学教員になる前は看護師として臨床の現場にいて、ICUや心疾患・脳卒中の急性期医療に携わってきた。今回の調査対象施設とは別に、自身の経験として、患者が医学的には一般病棟へ移れる状態なのに病床や経営上の事情が優先され、ICUでの滞在が続いたこともあったと振り返る。そのような看護師の苦悩を理解した上で「国家資格なので、生涯にわたって勤めてほしい。もし一時現場を離れても、別のステージや職場で看護師を続けてほしい」と話している。
そして、山内教授は「手術後に日常動作ができない患者に代わって手を差し伸べること、つらいときに背中をさすること、手を握ること――。人を対象にする看護師はAI(人工知能)に代われない。『疲れたから、辞めます』という看護師をたくさん見てきた。看護師を少しでも孤立させない、抱え込まないようにするサポートをしたいと考えている」と振り返った。今回の研究をもとに、ICUの看護師が辞めないですむような、病院でのサポートマニュアルを作ったり、体制作りについての知見を深めたりしたいとしている。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて行った。成果は米国の看護学術誌「セージ オープン ナーシング」に7月1日に掲載され、東京情報大学が同3日に発表した。
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