【政界】低下した求心力を回復できるのか? 高市首相の浮沈占う「勝負の秋」

来年4月から2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%への引き下げを決めた首相の高市早苗。1%分の税収を中低所得者向けの減給給付に充て「悲願」である消費税の「実質ゼロ%」に踏み切った。だが、財政への不安から円安に歯止めがかかったと言えず、物価上昇への懸念も払拭されていない。内閣改造・自民党役員人事、臨時国会を始め重要日程が控える中、国民の不安にどう向き合い、信頼を勝ち得るのか。政権の今後を左右する重要な「秋」が始まる。

異例の5連続投稿

「高市内閣では、国民の皆様が直面されている『物価高』への対応を最優先に取り組んできました。国民が苦しむ物価高対策をないがしろにし、自らの政治的信念の実現を優先しているように見える、との意見があるようですが、それは私の認識とは異なります」

 高市は8月14日、自らのX(エックス)にこうつづり、自身の物価高対策の「成果」をアピールした。投稿には政策効果により「G7で最も低いインフレ率(前年比1.7%)」「G7で最も高い実質賃金上昇率(前年比1.7%)」を達成したなどと強調した。

 子育て応援手当や重点支援地方交付金のほか、電気・ガス料金支援、ガソリン価格を安定化させるための補助制度などを列記。「そもそも経済成長には一定の物価上昇が伴います」「今こそ、長く続いたデフレマインドからチェンジしなくては、日本経済は成長しません」などとも書き込んだ。

 高市の投稿は1回にとどまらず、5回にわたった。「日本列島を強く豊かに。始まったばかりの挑戦ですが、今やらなければ間に合いません。だから歯を食いしばって頑張ります」との締めくくりの言葉からは強い信念がうかがえる。

 だが、その投稿に対する反応は微妙だった。コメントには高市を応援するメッセージもあったものの、辛辣な意見が多数寄せられた。「円安を放置してきた理由を説明してほしい」「歯をくいしばっているのは国民だ」「現実に目を向けて」……。

 首相官邸が3日夜にアップした高市の熊本地震の被災地視察をまとめた動画も物議を醸した。動画はBGM付きで、ヘリコプターの窓から被災地に手を合わせる姿や被災者と面会する高市の様子が映し出された。BGM付きの動画配信は、石破茂前政権の時も行われていたが、あまり話題にも上らなかった。だが、今回の動画には「まるで高市のプロモーションビデオのようだ」との批判が寄せられた。

つきまとう円高不安

 8月5日に「悲願」とする飲食料品の消費税率8%から1%への引き下げの閣議決定に踏み切った高市だが、消費減税が政権の底上げにつながったとは言いがたい。

 8、9日のFNN、21~23日の読売新聞、22、23日の毎日新聞など報道各社の内閣支持率は前月比横ばいの状況で、7月に急落した支持率に回復傾向は見られなかった。

 消費減税への評価については、FNNと読売の調査で5割強が「評価」だったが、約4割が「評価しない」と回答。毎日では反対が賛成を上回った。世論の評価は割れているのが実態だ。自民党内からは、「地元の支援者からの高市に対する批判の声が増えてきた」(中堅議員)との声も出始めている。

 高市への風当たりが強まった背景には、物価高を始め経済状況に対する国民の不満があるのは間違いない。実際、8月のFNNの調査でも物価高に対する政府の対応について、「評価しない」と答えた人は64.7%に上った。高市の5連続投稿からは「政権の政策が十分に伝わっていない」(首相周辺)ことへの焦りと苛立ちが透けるが、実際に政権が行った物価高対策の「恩恵」を国民が実感できていないのが実情だろう。

「多くの国民が『生活状況が改善どころか悪化している』と感じつつある。経済最重視を掲げた高市に集まった期待は失望に変わりつつあるのではないか」。自民党ベテラン議員はそう懸念する。「高市の投稿が国民の不安感を逆なでしたのではないか」。与党内からはそんな見方も出ている。

日米協調介入も……

 物価高の要因の1つは為替市場で進む円安だ。消費減税の閣議決定2日前の3日朝、財務相・片山さつきは談話を発表し、7月31日に日米両政府が東日本大震災後の2011年10月以来となる15年ぶりの協調介入に踏み切ったと発表した。談話で片山は今後も投機的な動向が認められる場合、「さらなる協調介入の実施も躊躇しない」と強調した。これを受けて円相場は一時1ドル=155円台まで急騰した。

 日米がこのタイミングで協調介入に踏み切ったのは、消費減税決定により市場での日本財政に対する不安が強まり、さらなる円安が進みかねないと懸念したのも理由だ。だが、この効果も限界がある。為替市場ではその後、再び円安傾向に戻った。一方で8月17日の国債市場では、長期金利の指標となる新発10年債の利回りが上昇し、一時、2.930%まで達した。経済状況の不安定さは増している。

 そもそも高市の積極財政志向については、政権発足時から経済・企業関係者の間では「円安・インフレ局面が続く中ではマイナスに働きかねない」との不安がささやかれていた。

 高市が掲げる危機管理投資など現在の経済政策の源流は、菅義偉政権下の2021年夏に高市自身が発表した「サナエノミクス」と呼ばれる経済政策だ。消費者物価指数(CPI)の上昇傾向が顕著化する前年で、当時はコロナ禍の余韻が残り、デフレ傾向が続いていた。円相場も当時は1ドル=110円台で円高傾向にあった。

 サナエノミクスはデフレ脱却を掲げた第2次安倍晋三政権の「アベノミクス」をベースにし、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「危機管理投資・成長投資」の3本柱からなる。今の政権の経済政策の骨格だ。

 高市は6年前に発表した政策をインフレ傾向が顕著化した今、律儀に実践に移していると言える。高市は就任以来、「国民に約束した政策は必ず実現しないとならない」と何度も周囲に言い続けてきた。インフレ化で現在の経済政策を貫くのも「国民との約束」だからだ。

「約束」にこだわる高市は、日銀の政策金利の引き上げに慎重姿勢を続けてきた。生真面目な高市らしさとも言えるが、その一途さが日銀の判断に影響を与え、インフレ対策への対応が遅れにつながった、との指摘は出ている。米財務長官のベッセントは米メディアのインタビューで「彼ら(日銀)は後手に回っている。利上げをしてインフレの問題をコントロールする必要がある」と主張した。インフレを抑制しきれない日本の経済・金融対策へのいらだちとも映る。

 もっとも、物価高や円安を招いたのは政府だけの責任ではない。トランプ米政権によるインフレ抑制策としての米国の連邦準備制度理事会(FRB)による利上げや、米・イスラエルによるイラン攻撃などに伴うエネルギー高騰などが日本経済に直撃した面がある。ただ、物価上昇が続く中での高市の金融緩和や積極財政にこだわる姿勢が、日本の財政不安を招いて円安を促し、輸入物価の上昇を生じさせたという悪循環につながっているとの見方は根強い。

 国民民主党代表の玉木雄一郎は18日の記者会見で「デフレをインフレにしていくような政策をこれまでやってきたが明らかに局面は変わっている。正しい経済政策をしていかないと日本のみならず世界経済に大きな悪影響を広げてしまう可能性がある。非常に重要な局面を迎えている」と指摘した。

 物価高、円安が進む中、「変化」を求める圧力は内外ともに強まっている。物価高が進めば、内閣支持率のさらなる下落につながりかねない。高市は難しい舵取りが迫られている。

正念場の秋

 政権基盤が弱い高市にとって、内閣支持率の動向は政権運営に影響を与える。もともと旧安倍派に所属していたこともある高市だが、11年に同派を離脱した。党内最大派閥だった旧安倍派は自民党裏金事件の「震源」となって解散に追い込まれた。党幹事長代行の萩生田光一や選対委員長の西村康稔ら同派出身議員ら旧安倍派出身者らが高市を支えるが、同派が解散した今、その結束力は乏しい。

 高市を支える最大勢力は、党内で唯一の派閥として存続している麻生派だ。昨年10月の党総裁選も同派会長・麻生太郎が高市への支持を「号令」し、高市を総裁へと押し上げた。高市が麻生を副総裁、麻生の義弟である同派の鈴木俊一を幹事長と党中枢に据えたのは、麻生派との関係を重視したためだ。

 高市にとって9月中にも行う内閣改造・自民党役員人事は今後を占う上で重要な節目となる。日本維新の会からの初入閣が目玉となるが、最大の焦点は幹事長ポストだろう。

 高市は1月の衆院解散の際に事前に麻生や鈴木に根回しを行わないまま断行し、軋轢を生じさせた。今は昼食を共にするなど距離は一時より縮めたものの、国民民主党との連携を模索する麻生らと維新との関係を重視する高市との路線の違いは明白だ。

 麻生と鈴木は高市の「悲願」も消費減税についても慎重姿勢を続けた。だが、最終的に麻生側が「減税には反対だが、首相が決めた以上は支える」と譲歩したが、高市は麻生に「借り」を作った形だ。

 9月の人事に向け、高市の本音について、側近は「距離のある鈴木を幹事長から外し、自分に近い人材を充てたいというのが総理の本音だ」と漏らす。だが、麻生派内では「鈴木さんは2月の衆院選で陣頭指揮を執った。選挙に勝った幹事長を外す理由はない」との反発の声が上がる。

 鈴木交代で麻生が政権と距離を置けば、来秋の自民党総裁選での高市の再選に悪影響を及ぼしかねない。高市は8月25日、麻生氏を首相官邸に招き、昼食を共にした。高市と麻生の「サシ」の会談は初めてだ。今後を見据えた高市・麻生間の腹の探り合いが本格化したと言える。

 内閣改造・党役員人事後に召集される臨時国会も難関だ。

 最大の焦点は消費減税関連法案だろう。8月の閣議決定を受け、自民党税制調査会で来年4月からの減税実施に向けた制度設計を詰めて9月に税制改正大綱を決定し、政府はそれを踏まえて臨時国会に関連法案を提出する。最大の課題は、2年間で10兆円に上る財源をどう確保するかだ。

 高市は「歳入確保の取り組みをゼロベースで進める。必要な財政需要に十分対応できると考えている」と述べたが、詳細な説明を避けた。財源確保の明確な道筋を示し市場の信頼を得なければ、円安はさらに進行しかねない。消費減税実現に向け、高市は2月の衆院選後に社会保障国民会議を立ち上げたが国民民主、中道改革連合、立憲民主党、公明党、みらいの5党が軒並み反対に回った。関連法案の成立の見通しはまだ見えない。

 特別国会で成立を見送った衆院議員定数削減法案も引き続き焦点となり、結婚を機に姓(氏)を変えた人の旧姓使用を法制化する法案の提出も検討している。いずれも野党の反発は必至で、成立へのハードルは高い。

 10月に政権発足から1年を迎える高市。多難の「秋」にどう向き合うのか。その成否が、2年目の政権運営を大きく左右する。(敬称略)

【政界】飲食料品の消費税「実質0%」の”悲願”に向けた高市首相の覚悟