【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長【 ボルカーとグリーンスパン、 そしてウォーシュ新FRB議長 】

米連邦準備制度理事会(FRB)新議長にケビン・ウォーシュ氏が就任した。2人の元議長と比較して新議長の課題を整理したい。

 グリーンスパン議長とは2003~05年、外国銀行代表との定期懇談会で何回か会談した。一流エコノミスト出身の彼は、ひたすらマクロ経済の緻密な分析話に終始する。

 しかし、中央銀行としての政策論や、金融界の新課題とかの議論は全くない。マクロ経済情勢をしっかり把握していれば大金融問題は回避出来る、些末な金融課題は配下の担当プロに任せていれば良い、との姿勢が明確だった。

 退任直後発刊の自伝で、彼はサブプライムローンを『貧しい人も自宅を持てる画期的金融発明』と激賞している。最終的にリーマンショックに達する金融危機の芽を彼は全く見逃していた。

 マエストロとの世評に安住し、複雑で微妙な金融現象の隅々への細心な目配りを自身では怠っていた、としか言えない。

 世界中の中銀総裁や金融当局幹部OBらによる討議会・Group 30の場等で、ボルカー元議長とも何回か懇談した。ボルカーは叩き上げの中央銀行マンだ。実務や金融実態を熟知している。Group 30の場でも周小川・中国人民銀行・新総裁らと実に細かい金融議論にしばしば熱中していた。

 米国での1980年代の高インフレ状況に際し、ボルカーは月に2%・年率20%超の高金利で長期間、対峙した。この間、政治サイドからの横やりは物凄かった由だが、彼は怯まなかった。

 04年10月、彼は日経「私の履歴書」の最終回、一番最後にこんなことを書いていた。『最近の米国金融政策が少し緩和的過ぎるように見える。緩みが長期化し副作用が心配だ』。彼の予告通り、リーマンショックが勃発した。

 さて、ウォーシュだ。かつてモルガン・スタンレーに勤務、実務経験がある。FRB最年少理事としてリーマン事件に遭遇、大手投資銀行救済に汗をかいた。「バーナンキ議長の量的緩和政策は財政政策への進入だ、金融政策ではない」と抗議し、理事を辞任した。

 自身の哲学を行動で示す気骨があるようだ。資産圧縮、情報発信簡素化を謳い、久々のFRB改革派だ。懸念点は二つ。

 ①『AI普及により経済効率性が向上。インフレは収まり、金利引き下げ余地が出来る』と主張するが、逆にAI対応設備投資増故、インフレ度が増す懸念もある。

 ②金利を上げるべき現況なのにトランプは引き下げ要請を続けるだろう。要請に従わないパウエル前議長を別件で刑事訴訟する苛烈さで、だ。トランプ推薦の新議長。ボルカーのように毅然と職責を果たすのか否か。第一関門はすぐにも、やって来る。