AIの進化が安全保障の脅威になり得る今、日本はどう対応していくべきですか? 【 答える人 】衆議院議員・平 将明

戦争の主戦場はサイバー空間に

 

 ─ デジタル、AI(人工知能)の進化速度は速く、利便性が高まる一方でセキュリティには課題がありますね。 

 平 確かにサイバーセキュリティは世界的に深刻な状況です。そしてデジタル、AI、サイバーセキュリティは一体化しており、不可分な状況です。 

 2025年、私は石破茂内閣でサイバー安全保障担当大臣を務めていましたが、ロシア・ウクライナ戦争を見ても、今や戦争の主戦場はサイバー空間で、激しいせめぎ合いが行われています。日本のサイバーの守りを固めなければいけないということで、25年5月に「サイバー対処能力強化法」を公布しました。 

 また、25年7月には内閣官房に国家サイバー統括室(NCO=National Cybersecurity Office)が設置されました。NCOはサイバー安全保障政策の司令塔として、関係省庁との総合調整を担う組織です。NCOの下で警察、自衛隊等の関係機関が連携し、重大なサイバー攻撃の未然防止や被害拡大に向けて、通信情報の分析、攻撃インフラの特定、必要なアクセス・無害化措置など進めていく体制が整えられています。 

 ─ 今はそこにAIも絡んできています。 

 平 ええ。当時も国会で、将来的にはAIが深く関わってくるだろうという議論になりました。さらに言えば、AI対AIの戦いになるという認識を、大臣答弁で示したのですが、1年経って、完全にAI対AIの世界が来てしまっています。 

 ですから、サイバーセキュリティだけでは対応ができず、AIのことを理解していないと防御もできないという世界が現実のものとなりました。 

 日本はAIの政策について、ハードロー、つまり法律で規制するところは最低限にして、大部分はソフトロー、つまりガイドラインなどで柔軟に対応するという方針を取っています。 

 その結果、海外から日本に対して、AIデータセンターに関する投資や人材が集まっています。例えばオープンAI、アンソロピックがアジアで最初に拠点を置いたのが日本なんです。実は日本の政策は世界に後れを取っておらず、非常にいい形になっています。 

 ─ AIは高い利便性の一方で、リスクもありますね。 

 平 当初からリスクにも対応しなければならないという思いもあり、24年に「AIセーフティ・インスティテュート」(AISI)を発足し、AIの安全性確保に関する取り組みを進めています。 

 また、3年半前にオープンAIが「チャットGPT」を出した際、自民党にAIの進化と実装に関するプロジェクトチームをつくり、毎年ホワイトペーパーをまとめてきました。26年で4回目になります。 

 AIに関するホワイトペーパーは珍しく、世界中で読まれているんです。先ほどお話したように、日本はAIに関する政策を柔軟にしているのに対し、EU(欧州連合)はハードローで規制しています。ですから日本がどういう立ち位置を取るかは、世界のAIの関係者にとって、非常に高い関心事項です。

 

世界から注目される日本のAI政策

 

 ─ アンソロピックの高性能AIモデル「クロード・ミュトス」は、ソフトウェアの脆弱性を発見できる一方、その能力が悪用される恐れがあるとして懸念されています。この問題をどう捉えていますか。 

 平 米国では、ベッセント財務長官が金融機関やビッグテックを集めて、「プロジェクト・グラスウィング」というサイバーセキュリティ特化のイニシアチブを立ち上げています。 

 私は日本も「日本版プロジェクト・グラスウィング」をつくる必要があると考えて、AISI、金融庁、デジタル庁、総務省、内閣官房のメンバーを集めて政府をサポートすべく検討を進めてきました。 

 体制は、金融庁をヘッドにNCOとAISIがサポートする形です。当然、片山さつき・財務大臣に音頭を取ってもらいます。さらに言えば、金融だけでなく基幹インフラも守る必要がありますから、NCOをヘッドにして、その下にAISIを置き、サイバー対処能力強化法に基づいて、官民協議会を設置することになっています。日本版プロジェクト・グラスウィングの拡大版です。 

 この官民協議会は民間事業者の皆さんにも「セキュリティ・クリアランス」を取っていただくので我々も機微な情報をお渡しすることができます。万が一、その情報を外部に漏らした時には罰則もあります。 

 ─ まさに官民連携が問われる取り組みですね。 

 平 そうです。拡大版の方も動き出して、「プロジェクト・ヤタ・シールド」(八咫鏡の盾)という名称になりました。 

 今、AIの進化は激しい時代ですが、それに対応するために、私は自民党国家サイバーセキュリティ本部長として、すぐに対応し、プロジェクトを立ち上げてきましたが、先程申し上げたNCOとAISIは、つくっておいて本当によかったと実感しています。この2つがなかったら、今の現実に対応できなかったのではないかと思います。 

 さらに、先程お話したように日本のAI政策は独自の規制をデザインしています。これはアジャイルにやらなければいけないという意識がありました。「失われた30年」には様々な原因があったと思いますが、私はテクノロジーの進化に規制のデザインが付いていけずに、成長の芽を潰してきたという反省があります。AIでは同じ失敗はしないという思いは非常に強かったんです。ですので、ソフトロー、ガイドラインで対応する形にしました。 

 ─ このことが今、日本がAIに関して、迅速に対応できている要因だと。 

 平 そう考えています。世界的にも非常に高く評価されており、これからAIに関する基本法をつくろうとしている国は日本の法律がちょうどいいと見ていますし、EUも規制が厳しいために方針転換が必要ではないかという議論をしています。 

 以前のウェブ2・0、GAFAMなどのプラットフォーマーの世界では、日本はスルーされていましたが、AIに関しては非常に充実した議論ができる国だと思われています。今回のミュトス問題についても、すぐにアンソロピック、オープンAI、グーグルを呼んでコミュニケーションしています。

 

安全保障に絡むAI新たな秩序づくりを

 

 ─ ミュトス問題で明らかなように、AIは今や安全保障にも絡んできていますね。 

 平 AIの進化があまりに速いので、安全保障上の危機でもあるし、人類にとっても危機だという意識が強くなっています。そして、今まではAI事業者は規制しないで欲しいと政府に訴えていましたが、オープンAIが米政府に対して一定の分野のAIを規制すべきと言い出しています。 

 サイバーセキュリティの問題に加え、生物化学兵器の製造につながるリスク、そしてAIが自律的に進化するので、人類がコントロールできなくなるというリスクも言われています。ですから日本も含めて新たな秩序をつくらなければいけないというフェーズに入っています。 

 ここで考えなければならないのは中国です。AIの技術について、中国は米国企業を半年から1年遅れてぴったり付いてきていると言われています。 

 その時に、西側だけが強い規制をかけていると、中国に抜かれる可能性があります。このリスクも大きいため、中国も巻き込んだ世界的なルールづくりの必要性が高まっています。 

 ─ AIの世界では米国と中国は2強と言っていいですね。 

 平 そうです。その中で第3の意見が非常に重要だと考え、我々はそのプロジェクトチームをつくっており、23年のG7広島サミットの際、「広島AIプロセス」というガバナンスの大方針を出しているんです。 

 我々は英国、オーストラリア、ドイツ、フランス、カナダといったミドルパワーの国々と連携しながら、AIのルールづくりに向けて提案していく。日本はその有資格者だと思います。 

 ─ 日本はAIの世界でいいポジションを確保しているわけですね。米国なども、それを評価していると。 

 平 自民党はいい仕事ができていると思います。先ほどお話したサイバー対処能力強化法で通信情報を利用、分析できるようになりました。憲法に通信の秘密が規定されているので高いハードルでしたが、きちんと整合した法律、新しい組織をつくったこともあり、米国からの日本に対する信頼感は高まっています。自民党のチームが米国のビッグテックと信頼関係を築けていることも大きいですね。

 

日本の独自性をどう発揮していくか?

 

 ─ 今後、日本企業はAIについてどう取り組む必要があると考えていますか。 

 平 AIの実装は非常に重要です。企業の本社機能はAIで非常に生産性が上がります。3年半前にチャットGPTが出てきて、チャットボットにみんなが驚いたわけですが、次にAIが自らコードを書くことで、プログラマーなどのデジタル人材が代替できるようになってきました。 

 さらに今はAIエージェントの登場で自律的に仕事をこなすようになりましたし、フィジカルAIでは頭脳だったAIが体を持って、ロボットの世界になってきています。 

 こうなるとPCの前で仕事をしている人は1人で10人分、100人分の仕事ができる世界になるということですから、劇的な生産性向上につながります。ただ、失業問題も今後起きていますから、その対応は別途必要になります。もっと大事なのは本業でAIを使ってどれだけ付加価値を生み出せるかです。 

 ─ AIの頭脳の部分は米国企業が握っているわけですが、日本の独自性はどこで出していきますか。 

 平 1つ目はフィジカルAIです。官民連携で、政府も資金を入れて、フィジカルAI向けの基盤モデルづくりを進めようとしています。特に現場が人手不足ですから、その課題解決や、家事支援ロボットなどを支援しようとしています。 

 2つ目はバーティカル(垂直)AIです。なぜAIが賢くなったかというと、ウェブ上のあらゆるデータを読むと同時に、膨大な資金と半導体を使ったことによります。 

 ですが、データはもう読み尽くされており、今後はウェブ上に載っていないデータがAIの性能を決めるんです。この分野では日本は医療、介護、モノづくりなど、非常にいいデータを持っています。このデータを活用して、専門分野に強いAIをつくっていくことが必要です。この2つが勝ち筋ではないかと考えています。 

 ─ これは高市政権の戦略17分野とも絡んでくる? 

 平 AIとサイバーセキュリティは全て横軸で入ってきます。サイバーセキュリティの守りを固め、AIを活用して課題を解決するという両方をやっていく必要があります。 

 また、やはり米中ではないAIは求められると思いますから、人間中心の安心安全なAI、AIを使っても情報を抜かれないという信頼感は1つの日本ブランドだと思います。多少スペックが落ちても、日本のAIやロボットには需要があると思いますから、そこは深掘りしてもいいのではないかと思っています。 

 ─ 産業界の反応は前向きと言っていいですか。 

 平 ただ、まだスピードが遅いように感じます。日本の大企業が抱える課題は解雇ができないということです。米国はAIの導入で劇的に生産性を高めていますが、人件費が大きく落ちているわけです。 

 日本はAIの導入と同時に、リカレント教育など、人材育成も変える必要があります。また、生産性が高まるわけですから、どういう分野に進出してビジネスを広げ、付加価値を生み出すかという発想で取り組む必要があります。我々もそこをよく見て、業界によっては規制緩和をして、いろいろな仕事ができるようにしなければいけないという課題も出てきます。 

 例えば東京はオフィスが多く、PCの前で仕事をする人が多いわけですが、この人たちが必要なくなります。一方、地方の現場は人が足りないので、この人たちの付加価値を上げて所得を上げることが必要です。地方創生にもつながる話だと思います。