『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 社長が最後に向き合う経営

経営者と話をしていると、最近、共通した相談を受けることが増えた。会社を引退した後、自分の資産をどうすればよいのか、という相談である。

 特に、子どものいない経営者で、この先、会社を継ぐ家族がいないケースもある。創業者として会社を売却した人、会社員として社長となり、株式報酬によって相当の資産を築いた人。

 引退後も、社外取締役や顧問、アドバイザーなどの依頼は絶えず、まだまだ現役として活躍している。それでも、同世代の友人や経営者仲間の急逝に接すると、自分の資産を誰に、何のために残すのかを真剣に考え始める。

 興味深いのは、会社の財務には誰よりも詳しい経営者が、自分自身の財務になると急に戸惑うことだ。

 会社の貸借対照表は毎月見てきた。資本政策も資金繰りも投資判断も数多く経験してきた。しかし、自分の資産をどう管理し、どう承継し、どう社会へ還元するかという問いになると、誰に相談すればよいのか分からないという声をよく耳にする。

 海外の永住権取得や海外不動産を検討する人もいる。しかし、多くの方は最後には「やはり日本で人生を終えたい」と話す。そして介護への備え、家族や親族への承継、寄付や財団設立など、人生の締めくくりをどう設計するかに思いを巡らせるのである。

 ところが、日本にはウェルスマネジメントやプライベートバンクという言葉は広く使われているものの、それを担う業態が法律上明確に位置付けられているわけではない。

 不動産会社や税理士事務所がプライベートバンクを名乗ることもあり、サービスの質も役割もさまざまである。金融機関も富裕層ビジネスの強化を進め、金融庁も資産運用業の高度化を後押ししているが、人生全体を見据えたウェルスマネジメントの仕組みづくりは、まだ発展途上にある。

 だからこそ、引退後の経営者には一つお願いしたい。財団設立やプライベートバンクの紹介など、さまざまな話が舞い込む時期だからこそ、焦って結論を出さないことである。会社を経営してきた時と同じように、目的を明確にし、複数の意見を聞き、時間をかけて判断していただきたい。

 私は、これも経営者にとって経営だと思っている。会社をどう成長させるかだけではない。自ら築いた資産を、誰のために、何のために生かすのか。その意思決定には、その人の人生観や経営観が映し出される。

 企業価値を高めることに人生をかけてきた経営者だからこそ、最後は自らの資産を通じて、どのような価値を社会に残すのか。最後の経営とは、人生を通じて築いた価値を、社会へどう承継するかを決めることなのだと思う。

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