
「失われた30年」から脱却するためにも日本の産業界の屋台骨でもある中堅・中小企業の成長が求められている。しかし、それらの企業が基幹業務システムの老朽化に直面している。日本ビジネスシステムズのグループ会社であるSureBizCloud社長の櫻田浩氏は「数あるシステムの中から、お客様の事業に合ったものを目利きして最適な環境を整える」と語る。足元の中堅・中小企業はどんな課題に直面し、その解決策とはどのようなものなのか。
基幹業務システムの刷新
─ デジタル化が叫ばれる中で、主に中堅企業の老朽化した基幹業務システムの刷新などを手掛けていますね。会社の概要から聞かせてください。
櫻田 会社の設立は2025年の8月と新しいですが、もともとはクラウドインテグレーターの先駆けでもある日本ビジネスシステムズ(JBS)の1部門として20年以上にわたって中堅・中小企業の基幹業務システムの刷新に取り組んできました。
基幹業務システムとは、経営や販売管理、生産管理といった企業の心臓部となる業務に関するシステムになります。
─ それが老朽化の時期を迎えているということですか。
櫻田 そうです。そういった環境の中で、なぜJBSから切り離して別会社にしたかというと、一番の目的はエンジニアたちの待遇改善です。ビジネスアプリケーションを担当するエンジニアはニーズがあり、難易度は高いが故にコンサルティングファームからも引き抜きがあります。
この状態を放置すると組織は弱体化し、外からのキャリア採用も困難となります。
─ それを防ぐと?
櫻田 ええ。そこでビジネスアプリケーションのエンジニアの報酬を見直すことを考えました。JBS社長の牧田幸弘とも議論し、基幹システム導入の専門性に特化した会社を立ち上げようとなったのです。もちろん、ただそれだけですと、お客様に価値を提供できません。
─ それだけ技術の進歩も激しいということですね。
櫻田 はい。その中で当社が狙おうとしている領域はERP(統合基幹業務システム)と呼ばれる領域で、企業運営をするための最もベースにあるこの仕組みを改善することです。
例えば、受注を管理し、在庫を管理し、仕入れ発注をして買掛金・売掛金を管理していく仕組みで、あらゆる企業にとっての基盤で、なくてはならない領域です。
実はこの領域では中堅・中小企業を中心にIBMの「AS/400」というオフィスコンピュータがまだ8000台も残っているんです。しかし、開発を担当する会社では、エンジニアの高齢化が進み、サポート継続が難しいという現実が多々発生しています。
導入している中堅・中小企業はどうすべきなのかという課題に直面しており、その受け皿が求められているのが実情になります。
カスタマイズを重ねた歴史
─ すると、課題を解決するためのコンサルティング的な要素が求められてきますね。
櫻田 その通りです。企業にとっては様々な外資系のシステムを使っていたりします。数あるシステムの中から、お客様の事業に合ったものを目利きして最適な環境を整えなければなりません。当社がその役割を果たしていこうと考えています。
─ 経営の土台を切り替えるという意味では、経営トップの判断になってきますね。
櫻田 はい。三十数年前に登場した外資系のERPは当初からパッケージ化されており、そのまま使わないといけないという仕様になっていました。
ただ、それをそのまま使おうとしても、日本企業の商習慣に合わない。そこで大企業を中心に、各社が自分の会社の仕様にどんどん改変していったのです。その結果、今では何が起こったか。
そのまま使っていれば10億円で済んだものが、どんどんカスタマイズしたことによって100億円、200億円と投資額が膨らんでしまったと。そしてここにきてバージョンアップの時期を迎えたものの、カスタマイズを重ねすぎて原型を留めておらず、バージョンアップができないという事態に陥ったと。
─ 大企業も中堅・中小企業も、それぞれ個別の課題に直面しているということですね。
櫻田 そうです。その中で当社は中堅・中小企業に対象を絞っています。従来までの老朽化した基幹業務システムから世界標準のクラウド型ERPへの移行をお手伝いしていこうと。
しかし、そこで働く社員からすれば、使い慣れたものを使い続けたいと思うものですね。あるいは、自分たちが使いやすいようにカスタマイズしたがります。
ここでカスタマイズしてしまえば、三十数年前と同じ状況を将来迎えることになります。そうならないようにするためにも当社は今、「フィット・トゥ・スタンダード(Fit to Standard)」というキーワードを掲げて、とにかくスタンダード、つまりは標準に合わせてくださいというコンサルテーションに力を入れています。
そのスタンスが今後も大事になってくるからです。
─ その標準に合わせることの反発もあるわけですね。
櫻田 はい。何が一番の問題かというと、外資系のERPを現場で使っている人たちから使いにくいというアレルギー反応が出ることです。これまでは当社のようなベンダーがそこをカスタマイズしていました。それで収益を上げていたわけです。
しかし今後は、AIの機能がどんどん盛り込まれていくにもかかわらず、標準にしておかなければ、それを活用できないということになりかねません。
─ 将来像を見据えた提案ということになりますね。
櫻田 おっしゃる通りです。ですから、我々にとっても、これまでのやり方をやめ、とにかくそのまま使ってくださいとお伝えするようにしています。これをトップ層とミドル層と現場の層の3層に伝えています。5年先ではなく、10年~20年後を見据えてやりましょうと。
隣に座って一緒に仕事をする人が日本人とは限りません。それだけ多様性を考える必要があります。その意味では、もはや日本人だけが良いと思うアプリケーションが正しいとは限らないということです。
エンジニアの高齢化も課題
─ となると、現場の人たちにいかに慣れてもらうかが重要になってきますね。
櫻田 確かに現場の人たちは慣れるまで通常の作業時間より時間を要することもあると思います。ただ、1カ月か2カ月経てば慣れてくるものです。しかも、例えば米SAPのERPは対監査性という点でメリットが大きい。監査に強いためインチキができません。
ですから不正防止という観点では大きなメリットを生みます。経営トップは、こういったことをトータルで考えなければなりません。
─ 外資系ERPは日本よりも先進的なのですか。
櫻田 はい。私はJBSに入社する前、ITコンサルティングファームのフューチャーにいました。そこで同社が買収した会社の中核企業が日本製のERPを扱っていたのですが、そのときの年間R&D費用は数億円が精いっぱいでした。
しかし、SAPのR&D投資は日本円にして約1兆円です。オービックさんでさえ、年間数十億円レベルと言われていますので桁が違う。そうすると、AIの機能でも先進機能でも、取り込めるスピードが圧倒的に違うのです。
─ 太刀打ちできない?
櫻田 はい。だからこそ、世の中で一番いいものをお客様に使っていただきたい。多少、現場の人が外資系ERPの扱いに抵抗を示すかもしれませんが、これを乗り越えることができれば将来必ず恩恵を享受できる。そういう思いでお客様にはコンサルティングしています。
加えて、日本の中堅・中小企業は今でもデジタル化が遅れています。特に地方に行けば行くほど、その遅れを感じます。今もファクスで受発注をやり取りしている会社もあります。データセンターやクラウドといった言葉がこれほど一般的になっていても、それらを実践している会社はまだまだ少ないのです。
─ その意味では、伸び代はあると言えますね。
櫻田 それでもまた別の課題があります。それはエンジニアの高齢化です。
例えば、IBMが自社の基幹ソフトのサポートを続けるといっても、その基幹ソフトの上に乗っている販売管理や会計処理のアプリケーションを手掛けるエンジニアの人たちが65歳以上になっているのです。
彼らは旧来のプログラミング言語を使っているのですが、今の若いエンジニアはその言語を使っていないのです。
─ なぜですか。
櫻田 おそらく今の若いエンジニアはデータ分析やAIといった領域に興味・関心がそそられるのでしょう。その方が自分のことを高く売り出すことができるからです。
その点、ビジネスアプリケーションは、あまり華々しい領域ではなくなっているのです。ですから、サポートができなくなるかもしれないといった企業が増加中なのです。
─ それを踏まえてもクラウド化した方がメリットも大きいと言えますね。会社設立から1年弱。手応えはあると。
櫻田 はい。たくさんの引き合いをいただいています。ですから当社も国内外で計8社あるJBSグループのグループ会社の中で最も利益率の高い会社になることを目指しています。JBSの25年9月期の営業利益率が4・4%ですから、我々は少なくとも2桁以上の営業利益率を出せる会社になろうと。
社員食堂や社宅で特長
─ 冒頭で人材の引き抜き合戦の話がありました。人材に対する取り組みはありますか。
櫻田 もちろんです。実は引き抜かれた人材が再びJBSグループに戻ってくるというケースが増えているんです。他社を見てきた彼らからすると、やはりJBSグループの社風がいいと言うのです。
分かりやすい事例で言えば、JBSグループには社員食堂「Lucys」があります。「日本一の社員食堂」とも言われています。
代表の牧田が自らメニュー企画等の運営にも携わっており、社員だけでなく、お客様やパートナーと関係を築くコミュニケーションプレイスとしても活用されています。本社は東京・虎ノ門にありますので、社員価格で食事ができる点も社員にとっては魅力的だと思います。
─ この社員食堂の運営は外部に委託しているのですか。
櫻田 いいえ、直営です。牧田自身が自分で会社をつくったら社食をつくりたかったと言っていましたからね。食材も最高級の素材を使い、シェフも一流の料理人がたくさんいます。
牧田の出身地が新潟県十日町市なので、現地産のコシヒカリを毎週何㌧か仕入れています。
─ 地方創生にもなると。
櫻田 そう思います。それからもう1つの特長が社宅です。当社はマンションを1棟買いしています。しかも、その場所が本社から30分圏内の便利なエリアばかり。新入社員向けの社宅として提供しているのです。
これは新卒採用でも最大の武器になっています。新卒は毎年200人ほど採用するのですが、競争率は約数倍になっています。
こういったJBSグループならではの人を大切にする取り組みを通じ、この会社は素晴らしいと思ってもらうことが重要だと思っています。それが社員の定着率の向上にもつながり、当社の強みにもつながっていくと思います。
