秋田銀行は9月30日、NTT DXパートナーおよびNTTデータと協業し、10月1日からNTTデータが開発した温室効果ガス(以下、GHG)の排出量算定プラットフォームである「C-Turtle」(シータートル)を、同行の投融資先に無償提供すると発表した。

  • 協業を発表する3社の代表。左から NTTデータ コンサルティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室 統括室長 南田晋作氏、秋田銀行 上席執行役員経営企画部長 林口哲也氏、NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

    協業を発表する3社の代表。左から NTTデータ コンサルティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室 統括室長 南田晋作氏、秋田銀行 上席執行役員経営企画部長 林口哲也氏、NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

協業における各社の役割は、秋田銀行が投融資先への脱炭素経営の促進、ファイナンス等の提供および 「C-Turtle」の無償提供にかかる費用負担、NTTデータが「C-Turtle」の開発および提供、NTT DX パートナーが各種脱炭素支援メニューの提供となっており、3社の協力による脱炭素経営に関するセミナーや勉強会などの実施も予定している。

「C-Turtle」とは

「C-Turtle」は、「削減できるScope3算定」を実現する、NTTデータが開発した GHG 排出量可視化プラットフォーム。GHGには、自社が生産活動を行うために直接排出したScope1、電気・熱など自社が使用したエネルギーをつくるために排出されたScope2、自社が購入した原材料やサービス、輸送、配送など、自社事業の活動に関連する他社の排出であるScope3がある。Scope3は、サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量と言い換えることもできる。

  • GHGとは(出典:NTTデータ)

    GHGとは(出典:NTTデータ)

Scope3の算定は「活動量(企業の活動規模)」×「排出原単位(市場平均値)」で算定されることが多く、企業の削減努力を反映することが難しいという課題がある。「C-Turtle」は、Scope3の算定にサプライヤーの排出量(一次データ)を活用し、サプライヤーの削減努力を自社排出量に取り込むことができる「総排出量配分方式」を採用している。

NTTデータ コンサルティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室統括室長 南田晋作氏は、総排出量配分方式採用のメリットについて、以下のように説明した。

「売上が増えれば増えるほど排出量が増えるので、みなさん悩んでいる。これを何とかするため、NTTデータはサプライヤーの削減努力を自社排出量に取り込むことができる『総排出量配分方式』を採用している。これは削減した努力をつないでいこうという考え方で、誰かが削減努力をすると、その結果が後ろの会社に戻って来る」

この方式の採用により、秋田銀行投融資先の排出量削減努力との連携が可能になり、サプライチェーンを通じたGHG排出量の算定・削減が推進されるという。

また、「C-Turtle」はCDPのデータを使って、サプライヤーのGHG排出量データを効率的に取得・分析することができる。CDPは英国の非政府組織(NGO)で、世界各国の企業や自治体から環境に関する情報を公開している。NTTデータは、このデータの使用許諾契約を結んでおり、「C-Turtle」上でCDPデータの使用が可能となっている。

  • 「C-Turtle」の概要(出典:NTTデータ)

    「C-Turtle」の概要(出典:NTTデータ)

  • 「C-Turtle」のUI(出典:NTTデータ)

    「C-Turtle」のUI(出典:NTTデータ)

「C-Turtle」は日本国内におけるNTTデータの商標、「NTT G×Inno」は、NTTの登録商標。

「C-Turtle FE」を導入した秋田銀行、効果を実感

秋田銀行は今年の4月から「C-Turtle FE」を自社で導入し、投融資を通じた間接的なGHG排出量(ファイナンスド・エミッション:FE)の算定および開示に利用し、事務作業の軽減を実感した。

無償提供により「C-Turtle」の利用が広がれば、サプライチェーンとしてつながっている企業のGHG排出量データがプラットフォーム上で蓄積・共有され、Scope3 の算定時に、取引先のGHG削減努力が反映されるようになる。

秋田銀行 上席執行役員経営企画部長 林口哲也氏は、今回の取り組みの背景について、次のように説明した。

「国、県においては、2050年のカーボンニュートラルの達成を目標としており、GHG排出に対する規制は今後より一層強まると想定している。こうした規制は大手企業から適用される見通しだが、大手企業と取引のある中小企業も、今後GHG排出量の算定・報告が求められるため、県内企業にとっても、今後、脱炭素経営の必要性はますます高まると考えている」

一方、同行はこれまで行ってきた顧客との対話やアンケートを実施した結果、「何から手を付けたらよいかわからない」「CO2排出量の算定方法が分からない」といった声が寄せられたという。今回の3社の協業は、こういった課題を解決するために取り組むものだ。なお、「C-Turtle」の無償提供は秋田県に拠点を置く金融機関としては初となる。

  • 秋田銀行が行ったアンケート調査の結果(出典:秋田銀行)

    秋田銀行が行ったアンケート調査の結果(出典:秋田銀行)

また、「C-Turtle」の無償提供は、進展が遅れている中小企業の脱炭素化の後押しになる。国も中小企業の脱炭素の取り組みが進んでいない現状を改善するため、企業に対する金融機関からの働きかけに期待しているという。

南田氏も「社会全体のネットゼロを達成していくには、金融機関がいろいろな働きかけをして、排出量の算定をしていこうという流れをつくることが必要」と、中小企業の脱炭素経営における金融機関の重要性について指摘した。

脱炭素経営の3つのフェーズをサポート

脱炭素経営には、一般的に「知る」「測る」「減らす」という3つのフェーズがあるといわれている。

「『知る』は気候変動リスクが自社にとってどのような影響を与えるかを把握するところからスタートする。実際のCO2排出量を計測することが『測る』。測ったCO2を減らしていくための計画を立て、実施することが『減らす』であり、この3つのすべてのフェーズにおいてお客さまをサポートしていくのが今回の協業の目的となっている」(林口氏)

「C-Turtle」は「測る」をサポートするプラットフォームとして、売上100億円未満の顧客に対して無償提供する。なお、無償提供は、Scope1・2の計測までで、Scope3の計測は有償となる。

そして、「減らす」の部分では、NTT DXパートナーが秋田銀行と業務提携し、電力ロスを低減する節電ユニットや空調効率化シートなど、 NTT グループの最適な脱炭素支援サービスを提供する。

  • 脱炭素経営の3つのフェーズに対する協業における取り組み(出典:秋田銀行)

    脱炭素経営の3つのフェーズに対する協業における取り組み(出典:秋田銀行)

NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏は、「秋田県や東北エリアの企業では、太陽光を使った脱炭素の取り組みがスタンダードになってきているが、日照量、日照時間の関係からすると効果が見込みづらいと思っている。そのため、秋田県の企業には、省エネ分野で支援していくことが重要になる。また、設備全体の省電力対策は、最近、注目が高まっているが、このあたりは未実施、未導入の企業が非常に多い。オフィスビルについても照明、空調など、それぞれのオフィスの特徴に応じて、段階的に効果を見ながら最適な組み合わせを行うことが重要となる。中小企業が無理なく安心して持続的にこういった活動が推進できるように、3社でしっかりとやっていきたい」と語った。

  • NTT 東日本グループの脱炭素支援サービス(出典:NTT DXパートナー)

    NTT 東日本グループの脱炭素支援サービス(出典:NTT DXパートナー)

また、排出量を減らすというフェーズでは、省エネ設備の導入なども検討されるため、秋田銀行では取引先に対して、資金調達やリースへの対応、補助金の活用等の相談に乗る予定だ。

そして今後、NTTグループは、秋田県における3社の協業による取り組みを先進的な先行事例と位置づけ、日本全体にスケールさせ、NTTグループが展開するGXソリューションブランド「NTTG×Inno(エヌティティ ジーノ)」を中心に、脱炭素化がなかなか進まないという課題を解決していきたいという。