
「今の日本の現状は国力衰退の結果。極力、バラマキは少なくして、戦略的な財政投入を」─(某食品会社会長兼社長)。
『財界』誌は、今回の自由民主党総裁選に際し、産業界トップにアンケートを実施。新首相に何を望み、そして自分たちは何をすべきかを質問してみた。
基本的に経営トップの危機意識は高く、「成長と分配の好循環」実現に向けての税・財政・社会保障改革を大胆に行い、「公平・公正で持続可能な社会保障制度、持続可能な財政運営を図るべき」(某生命保険社長)と、我が国の進むべき方向性を示す意見が多かった。
医療・年金・介護の社会保障費は147兆円に上り、医療費だけでも48兆円に上る。65歳以上の高齢者人口の比率が30%以上になり、近く4割にも上る中、国民皆保険制度の中で現役世代の負担がますます重くのしかかる。
このままでは世代間の対立も深まるし、「現役世代だけではなく、引退高齢者からも現状以上の負担を背負わざるを得ない」との意見も少なくない。
いわゆる〝権利〟と〝義務〟の関係だが、これまで政治家は負担(義務)のことを曖昧にし、聞こえのいい政策、つまりバラマキ先行型の話をしてきたきらいがある。物価高・インフレ基調が続き、国民生活を圧迫し始める中、成長を図る経済政策は重要だ。
明治維新(1868)から157年。西欧列強がはびこる中で開国した維新を第1の危機とすれば、先の大戦で敗戦国となった1945年(昭和20年)が第2の危機、そして80年後の今が第3の危機である。
第1の危機、第2の危機ともに、文字通り国民全体が危機意識を持って新しい国づくり、敗戦からの復興にあたってきたが、現状は〝茹でガエル〟の状況が続く。
GDP(国内総生産)では米国、中国、ドイツに次いで第4位。1人あたりGDPでは28位とさらに低下。アジアでも韓国、香港、シンガポールなどにも後れを取るようになった。
本来、日本には可能性・潜在力があるはず。「そうした力を活かし切っていない」という声は少なくない。
ここは政治家頼みではもちろんなく、心ある企業人、そして個人が文字通り使命感と志を持って一致結束して、日本再生・地方創生にあたるとき。今回の読者アンケートでも、そうした危機意識や思いが見てとれる。
新首相は、このことを念頭に成長と分配の好循環を図ると同時に、持続的な社会保障制度をつくる第一歩にして欲しい。
世界の現実は誠に厳しいものがある。ロシアのウクライナ侵攻は続き、イスラエルのガザ地区攻撃はなお続く。人と人が殺し合い、力の論理が横行する世界の現状において『共生の思想』を本質的に持つ日本の使命と役割は重い。(村田記)
『財界』誌が実施したアンケートの主な回答は以下の通りです。ご協力ありがとうございました。
問1 この国をどのような国にして欲しいと、これからの日本のリーダーに望みますか。
・グローバルに窓を開けた均衡バランス感覚を持った、貿易大国を維持する国。 (外資系ファンド会長)
・日本の価値をしっかり再確認して、世界に頼られる日本と日本人を取り戻して欲しい。 (建設業幹部)
・経済の新陳代謝をして新産業で成長する国。 (シンクタンク社長)
・グローバル化が進む現代において、日本独自の文化や強みを活かし、世界でより存在感を示せる国へと導いて欲しい。 (サービス業会長)
・我が国の本来持っている強みをしっかりと活かして、強い日本に導いてくれるリーダーを望む。本来持っている強みとは、伝統文化、勤勉な国民性、国の健全な財政など。今のリーダーは強みをわざわざ消す選択肢を取っているように見える。 (コンサルティング社長)
・他国に依存し過ぎない真の独立国家。 (エンジニアリング会長)
・国益を守れるリーダー。外国人の不動産の買い占め等の排除。(IT社長)
・質の高い教育が全ての人に提供され、誰もが努力すれば報われる。そして医療、年金、失業対策などの社会保障が整っており、貧富の格差が過度でなく、生活の基盤が保障される国にして欲しい。(情報通信社長)
・我が国を再び成長軌道に乗せ、名実ともに世界における確固たる地位と役割を果たす日本国にするリーダーシップを望む。(製造業会長)
・アジアの盟主。東南/北米アジア地域の代表国。真の独立国 子供たちが誇りを持てる国。米欧から尊敬される国。中露から一目置かれる国。日本語習得、日本文化理解を基礎条件とした移民政策の実施。 (外資系証券役員)
問2 物価高と賃金の関係をどう考えますか。また今後の消費動向をどう見ますか。
・現下の物価高は国力低下を背景とした円安・輸入物価上昇が原因。新たな基幹産業・生産性の向上を通じた国力向上なくしては、物価高に賃金は追いつかない。(損害保険社長)
・物価高と賃上げの好循環の前提としての経済対策。具体的には積極財政。消費動向はやや上向く。(素材製造会長)
・可能な範囲での賃上げ。消費は伸びない。 (学校法人理事長)
・誰が考えても、物価高以上に賃金アップが図られなければ、皆納得しない。今後、経済対策の向上を具体的に図らなければ、どこの党や人も失脚してしまうと思う。(製造卸社長)
・持続可能な経済成長のためには、企業が付加価値を生み出した上で価格転嫁を行い、得られた財を従業員や取引先へ分配することが不可欠。賃金水準においては今年度も前年度を上回り、賃上げのモメンタムが定着してきていることは評価できる。一方、実質賃金の伸びは限定的であり、物価高を上回る賃上げには至っていないため、個人消費拡大に資する実質賃金増を実現し、「成長と分配の好循環」が着実に実行されるよう、一層の政府支援も期待したい。 (大手不動産首脳)
・物価上昇に賃金が追いついていない。中小企業の賃上げには政府による生産性向上支援や税制面での後押しを希望。消費動向は生活防衛意識の高まりと、体験やサービスの投資志向の二極化が進むと考える。 (人材派遣社長)
・日米の金利政策・経済情勢に伴う為替の動向や国際情勢を踏まえて、物価高は当面収まらない中、建設業の高齢化・人手不足も加速しており、必要な賃金上昇は行わざるを得ない状況が続く。(建設・不動産業社長)
問3 社会保障費が増大する中、日本の財政と分配のあり方をどう考えますか。
・社会保障費に限らず、予算の組み直しがほとんどなされていない。世の中が変われば、予算配分も変わるべきだが変えられず、全てオンになって必要が増えていく。(サービス業会長)
・社会保障と税の一体改革の文脈で考えるべきである。現役世代への負担が高齢者を支え過ぎることのない制度設計が肝要である。(学校法人理事)
・全ては国力衰退の結果。極力バラマキは少なくして、戦略的財政投入。(食品会長兼社長)
・「成長と分配の好循環」の実現に向け、税・財政・社会保障を一体的に検討し、公正・公平で持続可能な社会保障制度、持続可能な財政運営の確立を図るべき。(生命保険社長)
・日本の社会保障費は、現役世代を中心に経済的な負担が増すばかりの状況となるので、社会保障の適正配分を見直し、財源を税金、国債に頼らず、少しでも負担を軽減するための「政府系ファンド」を真剣に検討する時期ではないか。 (サービス業社長)
・団塊世代の高齢化はこれからが本番であり、社会保障費は今後一層増加せざるを得ない。国の負担が増えるわけで、対応策は
①負担者は個人であれ企業であれ、何らかの増税、②現役世代だけではなく引退高齢者からも現状以上の負担を強いるしかない。企業収益の分配としては①株主への還元のみならず、②企業の成長戦略の投資実行、③税金を通じた国家への支払いをバランスよくやっていくことが必須となると感じている。 (外資系コンサルティング首脳)
問4 対中国を含めた経済安全保障はどうあるべきだと考えますか。
・資源の分散、サプライチェ―ンの分析と再構築。そのための国家助成を設備投資の2分の1レベルに(現状は最大3分の1)。(化学社長)
・中国とは自然体で経済合理性を追求するべき。日本主導で、ASEAN+1(=日本)の枠組みで、多国間の連携を強固に、関係を深めるべき。 (不動産賃貸業会長)
・経済と安全保障が不可分となった今、戦略的自律性と不可欠性を高めることが重要。特定の国に依存したサプライチェーンの脆弱性を克服するため、半導体や重要鉱物などの戦略物資については、国内生産体制の強化や調達先の多角化を強力に推進すべき。 (その他金融業社長)
・「経済安全保障」と言っても「国家安全保障」の一環であり、国家安全保障政策を総合的に考える中で、そのあり方を位置づけることが大切。その場合、米中間の覇権争いの中で、日本として、隣国の中国との関係をアメリカに100%同調すべきものか否か、深く考慮すべき。
トランプ大統領が習近平と手を握ることもあり得るので、対中関係につき、我が国独自の安全保障政策を確立すべく、真剣な議論が必要。(元官僚)