NTTは10月6日、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術についてメディアや投資家向けに説明する「PR/IR DAY」を開催した。本稿では同イベントの中から、AI時代を支える光コンピューティングをはじめとする要素技術の開発の進捗について紹介する。
AIの利用増加に伴いIOWNが求められている
IOWNは端末からネットワークを光でつなぐ「APN(オールフォトニクス・ネットワーク)」、デバイス内の電気的な処理を光に置き換える「PEC(光電融合デバイス)」、光コンピューティングによるデータ処理基盤「DCI(データセントリックインフラストラクチャ)」の3つの要素で構成される。
同社はこれまで主に超高速かつ低遅延の特徴を持つAPNを中心に実装を進めてきた。最近では東京2025世界陸上において、TBSテレビと共にリモートプロダクションを実現し、臨場感のある映像をリアルタイムに視聴者に届けた。APNの次の段階として、現在は光コンピューティングへ実装領域を拡大している。
同社がIOWNの開発を進める背景には、AI市場の拡大などに起因する電力消費量の増大がある。総務省の試算によると、AI市場は2021年と比較して、2030年までに約20倍に成長し1.8兆ドル(約280兆円)に達すると予測されている。また、IEA(国際エネルギー機関)はデータセンターの消費量は2030年には2024年の2倍に達すると予測している。
大容量の通信においては、電気による通信は伝送距離が長くなるにつれて飛躍的に消費電力が増加する。一方、光による通信は伝送距離にかかわらず消費電力が増加しない利点を持つ。こうした理由から、同社は光を用いた低消費電力な通信の実現を進めている。
また、AIの登場によってコンピューティングに求められる性能の質も変わりつつあるという。従前のクラウドサービスはタスクが比較的小さいものが多く、仮想化により1つのプロセッサを複数のタスクで共用できた。
しかし、LLM(Large Language Models:大規模言語)や生成AIなど大規模なワークロードが増えたことで、1つのタスクを複数、場合によっては1000以上のプロセッサによって実行する必要が出てきた。そのため、プロセッサ間の通信も必要となっている。
したがって、データセンター間あるいはデータセンター内のプロセッサ群を光通信技術でつなぐ必要性も増しているとのことだ。
光電融合デバイス「PEC-2」は2026年めどに商用化
2023年に発表されたネットワーク接続部向けの光電融合デバイス「PEC-1」は、データセンター間やサーバ間を接続するAPN IOWN1.0として商用化された。
今後は、2025年にボード間を接続する「PEC-2」、2028年以降にはパッケージ間を接続する「PEC-3」、2032年以降にはチップのダイ間を接続する「PEC-4」を実現する予定だ。PEC-2からはサーバ内に光電融合デバイスが入り込み、いよいよ光コンピューティングの実現となる。
なお、IOWN技術を使った光コンピューティングは、NTTのPECに加えて、チップやスイッチメーカーとの協力により実現する。具体的には、NTT傘下のNTTイノベーティブデバイスがPEC(光エンジン)を開発し、スイッチのASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向けの集積回路)をBroadcom(ブロードコム)が、スイッチのパッケージングをAccton(アクトン)がそれぞれ担当する。
従来の光通信スイッチは、光通信モジュールと情報処理用のICチップが電気配線でおよそ300ミリメートル離れた位置で接続されていた。そして、この距離があることで、電力消費量の増大にもつながっていた。
一方のPECでは、光コネクタからICチップ近傍の光エンジンまで光配線でつなぐことで、電気配線の距離をおよそ30ミリメートルと従来の10分の1まで短縮する。これにより、消費量の削減に貢献する予定だ。
PEC-2は2026年の第4四半期に、商用サンプルの提供を開始する予定だ。現在は構成部品の特性を検討中だという。また、製造能力を拡充し、ライン当たり月間5000台を製造可能な状態を整える。
NTTイノベーティブデバイスの副社長でCTO(最高技術責任者)を務める富澤将人氏は同社のデバイスの特徴について、「はんだ付けを用いないソケット型の光エンジンを採用しているため、取り外しが可能で故障時の修理コストが低い。また、短距離・長距離・波長多重など多様なインタフェースの要求条件に対応可能である」と紹介した。
さらに、NTT 副社長 CTOの星野理彰氏は「PEC-2を2025年に実現した後は、PEC-3で半導体パッケージ間を光配線化して低消費電力を実現していく。他社も競合する中であるが、製品の性能や歩留まりを高められるよう取り組みを進める」と話していた。
島田社長「製造ラインの増設を計画中」
質疑応答には、NTT 社長の島田明氏も出席した。今後の製造ラインの計画について記者から質問されると、「当面では2~3ラインの増設を計画している。来年をめどに2ライン目が稼働開始予定。お客様の需要に応じて投資をしっかりしていく」と、今後の方針を示した。
一方で、収益については「まだ新しい市場なので単価も決まっておらず、売上予測は言いにくい」とした。
島田氏は続けて、IOWNの開発の進捗に関する質問に対し、以下のように答えた。
「IOWNの開発は計画通り進んでおり、PECについてはむしろ早く動いている。APNは世界陸上や大阪・関西万博などで現実的に使われ始め、着実に数は増えてきた。IOWNの最大のポイントは電力消費をいかに落とすか。光電融合デバイスはその本丸であり、まずは来年PEC-2をしっかり出して、次につなげていく」








